女神転生バトルロワイヤルまとめ
第5話 カオスヒーロー

辺りに響く電子音の混ざった声を聞いたとき、心底馬鹿げていると思った。
自分は軍人でも自衛官でもない。しかし周りには敵だらけのこの状況下で
わざわざ自分の居場所を知らせるような行為がどれほど無謀かということくらい
考えずとも理解できる。おまけにそんな危険を冒してまですることが、仲間集めだという。
下らない。本当に下らない。
生き残りたいのであれば、言われたとおりに殺しあえばいいだろう。
連中の体格や格好からしてこの環境下で生き残るためにそれなりの力があることは
簡単に見て取れた。ルールに従うことこそ彼らにとってここから脱出するための最善の策であるはずだ。
なのに何故、あのような愚かな行為にでるのか。
「施し・・・か?」
思わず言葉が出る。
そういえば、あの連中に似た人間を、自分は知っている。
ほんの少しの時間だが、行動をともにしていた男の一人。どんな人間だろうと、いや悪魔だろうと
「助けてやる」のが好きだった男。
連中もおそらくそれと同じだ。他人を助けることがまるで自分に与えられた使命であるかのように
振る舞う人種。
だがそういった奴らはまるで気づいていない。
その行為が、相手にどれほどの屈辱を与えているかということに。
人に手を差し伸べられた瞬間に、互いの優劣関係ははっきりと決定してしまう。
助けられた人間は、否応無しに弱者の枠に放り込まれてしまうのだ。
そこから出たくてもがく者にも奴らは「施し」を与える。己の自己満足のために。
―――――――反吐が出る。
気がつけば、手には支給された銃があった。そうだ。連中には思い知らせてやらねばならない。
同じくリュックの中にあった弾丸を込める。目の前の傲慢な男を消し去るために。
狙いを定めたとき、まだ男の演説は続いていた。
改めて相手の姿をよく見る。白を主とした装束に、青地の部分には十字の紋章。
メシア教徒とかいう集団の格好だ。奴らもまた、己の嫌悪の対象であった。
神などというものに縋り、自らの力で立とうとしない者達。弱者の枠に入ることを望む者たち。
もう何の躊躇いも無かった。いつも悪魔を狩るときと同じように、引き金を引いた。


男が倒れこんだ。放った弾が命中したのだ。
自分にはそれほど高い狙撃能力は備わっていないため、どこに当たったかはわからない。
だがこれで男の死は確定のものとなった。奴の体は、これからゆっくりと固まり、やがて動かなくなるだろう。
しかし達成感に浸るのはまだ早い。もう一人の、黄色いスーツに身を包んだ長髪の男が、こちらに銃を向けている。
こちらの存在に気付かれたのでは、弾を当てることは想定した相手の力量からして難しいことだろう。

だが、こんなところでやられるわけにはいかない。
生き残り、元の世界に戻り、あの男をこの手で倒すまでは。

と、銃を構えた男の手が、自分が撃った男の手に引かれるのが見えた。
自らの死を悟り、最後の言葉でも残そうとでも言うのか。それとも、まさか。
この状況下、奴はまだ他人に――こちらに「施し」を与えようというのか。
こちらがまだ、自分が助けてやるべき弱い存在に見えているとでも?
全身に、憤怒の熱が走った気がした。もう一発当ててやろうとかとも思ったが、わずかに残った冷静さがそれを押しとどめた。
死ぬことが決まっている相手にわざわざ限られた物資を使うことは無い。このゲームがいつまで続くかはわからないのだから。
2人の間で何かがまとまったのか、先ほど銃を構えていた男がこちらに向かってきた。
何発か銃弾を放ったものの、やはり全て慣れた動きでかわされてしまった。
接近戦ともなればおそらく自分に勝ち目は無い。軽く舌打ちをして、とにかく先ほどの男を仕留めたような
状況を作り出すため、後退した。


しばらく進んでいると、高い木が密集している場所が見えた。あそこなら身を隠す場などいくらでもあるはずだ。
そう思い、中に駆け込む。だがすぐにそこが最悪の場所であることに気付いた。
地面を踏んだ感覚が先ほどまでと全く違う。木に覆われて日の光がほとんど当たらないせいか
相当ぬかるんでしまっている。これでは身を隠したところで足跡により居場所が簡単に特定されるであろうことは
明白であった。さてどうするか。
少し考えた結果、森の入り口付近で奴がここに近づいた瞬間狙撃することを決めた。
これ以上無駄に動き回るのも得策ではないだろう。大木の影に位置取り、石化弾を込めた銃を
入り口付近に向けて構える。弾丸の残りの数を考慮しても、チャンスは一度きりだ。
銃を握った腕に無意識に力が入る。来た、奴だ。
長髪の男は手に銃を持ったまま、辺りを見回している。まだ奴の警戒は高い。撃つ時ではない。
幸い森の外の地面は砂利が多く、足跡は残っていない。奴がこちらを見つけられずに
気を緩める瞬間は必ず来る。その一瞬を逃さなければ、必ず勝てる。
あんな男と行動をともにしていたのだ。奴にはこちらを積極的に殺そうという意思は無いはずなのだから。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
男が手の銃を腰周りのホルスターにしまい、踵を返したのだ。
それを見て、己の勝利を確信した。奴が銃弾を受け倒れる姿が、鮮明に頭の中に浮かんだ。
いける。必ずやれる。
逸る気持ちを抑え、引き金を引こうとした。――――だが。

「――――っ!?」
突如、右手の甲に鈍い痛みが走った。手が痺れ、構えた銃を思わず落としてしまった。
何が起こったのか分からず、思わず声を上げてしまわなかったのは奇跡に近かった。
まだわずかに痺れる手で再び銃を取り、男がいた方向に再び構えたものの、既にその姿は消えていた。
確実に仕留められたはずの相手を取り逃がしたことに対し、ち、と舌打ちをした。
先ほどまでの高揚感が消え、冷静になった頭であたりを見回す。
と、足元に拳より少し小さい程度の石を見つけた。湿った土が上部についている。つまり今までここにあった石ではない。
どうやら敵を狙撃しようとした自分を妨害したものがいるらしい。
奴の仲間か、と思ったがすぐその考えを打ち消した。
ここで妨害するくらいなら白装束の男を狙った時点で行動するはずだ。
ならば相手は第三者、それも妨害に投石などという手段を使ったことから、おそらく飛び道具を所持していない。
しかも近くにいるはずだ。石は右手に当たった。ならば相手は東側にいる。
仕留めそこなった相手を深追いするよりも、そちらの方を狙った方が確実だ。
何より、確実な勝利を妨害した報いを受けさせねばならない。
まだ見えない敵を追い、森の中を進んだ。


長髪の男と違って、今度の相手はかなりの素人であるらしい。
石が飛んできたと思われる方角を進むと、自分がさっきまでいた場所とは逆方向に進んだ足跡を見つけた。
わずかな正義感を奮い立たせ石を当てたはいいものの、反撃を恐れて足跡のことすら気付かず逃げた、
そんなところであろう。だがいかに素人であったとしても参加者であることに変わりは無い。
殺さなければゲームは進まないのだ。躊躇など微塵も感じなかった。
やがて、続いていた足跡の終わりが見えた。大木の手前で止まり、木の周りを
半周したような跡になっている。その向こうに足跡は続いていない。
逃げることを諦め、身を隠してやり過ごそうとしたのか。だがあまりにお粗末だ。
「そこにいるのはわかってる」
大木のほうに銃口を向け、警告する。
「自分のやったことの責任くらいちゃんと取らないとな?今出てきたら、楽に死ねるぜ?」
返事は無い。相手が死を恐れて逃げだのであれば当然の結果だ。
少しの間膠着状態が続いたものの、さっさと終わらせようと思い、行動に出ることにした。
警告はもう与えない。ゆっくりと一歩ずつ大木のほうへ近づく。
相手が足音を聞いて逃げ出したとしても、追いついて仕留める自信は十分にあった。
一歩、また一歩と敵のほうへ進んでいく。
と、突然大木のほうから人影が現れた。相手が出てくるとは思っていなかったので
少し驚いたものの、すぐ先ほどまでの余裕を取り戻し、相手がどのような人物かを観察する。
予想通り、手には銃器の類は持っていない。支給されたリュックを肩にかけているだけだ。
薄汚れたジャケットにハーフパンツと、明らかに戦士の容貌とは程遠い服装。
ややくせのある短い髪の、自分と同じか、あるいは少し年下であろうと思われる少年だった。



【カオスヒーロー:生存 所持品:銃、弾丸】

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