女神転生バトルロワイヤルまとめ
第8話 静寂と不毛

「悲しいものだな・・・・・・」
そう呟き無音の空間に一人椅子に腰をかける男。彼の名は氷川。
嘗てガイア教団に所属し、元東京を己の理想の為に破滅へ追いやった男である。

「人は皆安息がなくば生きられぬ。不毛な現実の重荷は余りにも人に残酷過ぎる。」
「私はそれを絶やし、永遠の安息を創る為、今までを生きたと言うに結果がこれだとは・・・・・・」
氷川の言葉と表情からは焦りも恐れも見当たらない。憂う表情で今の現実に滅入るのみである。
その力無き姿からは外へ一歩踏み出す気力さえ感じられず、永遠にそこで生涯を閉じるかの様にさえ見える。
しかし彼の歩んだ道は常に黒かった。喜びも楽しさも無く、一筋の光さえ届かぬ世界に生きた彼の精神は並み外れていた。

「この静寂を暫く堪能したい所だが、いい加減行動に移さねば我が理想が潰えてしまう。それだけは避けねば。」
そう言い終えると氷川は所持品の確認に移った。
確認した物は他の参加者と大差ない物ばかりで1000MGがある事を除いては氷川の求める物は無かった。
「私の数珠が無い・・・見事に貧乏籤を引き当てたか。幸先が悪いな。まあ、仕方あるまい。」
劣悪な状況下に於いてさえ顔の色一つとして変えない。この理性の強靭さこそ彼の最大の取り柄であった。
そしてその研ぎ澄まされた理性は脳にある閃きを与える事となる。

「通常の悪魔召喚を試みてみるか。どの道私一人の力では何も出来ん。」
「悪魔に食われるか、只殺されるかなら明らかに前者の方が合理的であろう。」
彼は悪魔の造詣の深いサマナーでもある。彼の言う一つ一つの言葉から召喚に必要とされる物が挙がってくる。
「煙、魔法陣、聖四文字の名、火鉢、霊性を帯びた何か、マントラ・・・そして捧げ物があれば尚良しだが。」
氷川の言葉が詰まる。捧げ物に何を送るか悩んでの事だろう。
それもそうだ。こんな現状では何があるかも判らずじまい。外へ出てお目当ての物を探そうものなら話の通じない
参加者や悪魔に殺されて命を終えてしまう危険性が高いからだ。
何とか今居る空間かその近くで得られる物で手を打たざるを得ないのである。
「近くに生きた人の肉、或いは死体でもあれば何とかなる物だが現実は甘くは無い。」
氷川は皮肉れた物言いで諦め、一先ず周辺に使える物を探しにその空間から出て行った。
幸いな事にどうやら此処には悪魔は出ない様だ。
氷川が確認した所、此処は夢崎区の消防署。先ほどまで居たのはその地下倉庫らしき場所である。

数分して戻ってくると早速召喚の準備に取り掛かった。
氷川は慣れた手付きで着々と召喚の条件を整えてものの数十分で完成させた。
次に悪魔を召喚する為のマントラを詠唱した。暫くすると魔方陣に変化が起きた。
激しく輝き周囲一体を照らす。その光の中から何かが現れた。


「俺は72柱が内一つ、堕天使オセだ。この俺を呼び出した奴は誰だ、名乗りでよ。」
悪魔の目が鋭く光る。それに臆せず寧ろ懐かしむ様な態度で氷川は接した。
「久しいな、オセ。あれから先も相も変わらずかね?」
「……氷川様? いや、氷川か。お前が何故ここにいる?」
このオセは嘗て氷川が契約した悪魔の一人であるが、この世界では氷川が今まで契約した
悪魔達は何者かにより全て契約破棄、詰まり赤の他人の様な仲になっているのである。

「俺を呼び出した・・・と言う事は今一度俺の力を求めると言う事か?」
「言っておくが昔の縁など関係ないぞ。求めるなら今一度俺を物にしてみる工夫を凝らすんだな。」
「言われずとも解っている。お前を物にする為に色々と手を講じたのだからな。」
「ほう、ならばそのなけなしのマグネタイトで俺を収める気か? 笑わせてくれるな人の子が!」
「話は最後まで聞くものだ。例えばそう、私が死んだ後に魂の全てをくれてやるとしたら?」
「!!!」
男の思いもよらぬ発言に驚きを隠せないオセは、正気なのかと訝しげな顔で男に問う。
「本気で言っているのか? 確かにお前の魂なら釣りが余る程の価値はあるが、それがどういう意味が理解しているのか?」
「…私は静寂の世を創る為に生きてきたのだ。其れが出来ぬのなら生きる価値も意味も無い。」
「それは只不毛に苦しむだけだ。ならばこの魂、失う事に恐れは何も見当たらない。」
そう豪語するとオセは驚嘆したかの様に言葉を失い、男をまじまじと見つめていた。

「お前には敵わん・・・・・・」
そこには初め出合った時の様な傲慢な態度は無く、彼の力強い人柄に惚れたかの様に悪魔は言った。
「俺は堕天使オセ。今一度召喚主氷川様の命によりて共に道を歩まん。今後とも宜しく・・・」
悪魔は何事も無かったかの様に姿を消した。それに伴い異様な空気が元に戻っていく。

「さて次は基盤作りに移ろう。役立つ物と戦力の増強、この二つが必要だな。」
「流石にオセ一人では心許ないからな。」



【氷川(真・女神転生V-nocturne)】
状態 正常 オセを従える。
武器 なし
道具 なし
現在地 青葉区消防署地下倉庫
行動指針 誰かと手を組みつつ基盤を固める。

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