女神転生バトルロワイヤルまとめ
第11話 悪魔に愛された少年

高尾祐子は教室に立っていた。
傍らには鞄が置かれている。
そっと首に手を触れてみると、確かに何かの違和感がある。
「これは神が私に与えた罰――」
彼女もこの死のゲームへ強制的に参加させられているのだ。
誰も居ないその場所は、嫌でも記憶を呼び覚まされた。

――-もう一度、東京受胎を引き起こすあの日の前に戻れたら、私は生徒を巻き込んだかしら?

心の中で繰り返した言葉。あの日以来ずっと後悔し続けてきた心の言葉。
弱い自分には氷川を止めることができなかった。
そればかりか、生徒へ試練を与えてしまった。
思想を異とする者を排除し、神を降ろし、新世界を創造する。
あの日引き起こしたことは、このゲームと変わりない。
この場所に立っている理由は、もう一度考えてみよという神のご意志か。
椅子と机が並んだその暗い部屋を祐子は一周し、教壇へと向かった。
自分が本来立つべき場所へ。

外はまだ闇の静寂が支配していた。
暗い部屋へ差し込む月の光のもとで祐子は教壇の机に手を組み、祈った。
もし神が傍にいるなら、聞き入れてもらえるなら…。
「自分の命を賭けて願えるなら、ただもう一度あの日に、
 彼らの自由を奪ってしまったあの日に戻りたい。
 神よ。どうか彼らに試練を与えないでください。」

「――神なんて、この世界にはいませんよ。」

この世の者とは思えない、ひどく冷たい声。
祐子ははっと顔を上げ、声のする方へと顔を向けた。
差し込む月の光に溶け込むように立つ人影。
「誰?」
ふと恐怖に襲われその人影へと声をかけた。

「もう忘れてしまわれたんですか?…先生」
祐子へ声はクスリと笑いかけるが感情全くこもっていない。
近づいてくる声の主を見ようと目を細める。
無感情な声は祐子への言葉を続けた。
「僕は、貴女が望んだように、どんな世界でも生きていけるようになりましたよ。
でも、貴女は結局人に頼るだけで、自ら道を切り開くことなんてできなかった。」
「人はみな弱いの。いくら強がっても誰かに依存してしまう。それが人間。
 結局一人でなんて生きていけないわ」
「――言い訳…ですか。」

祐子は背筋が凍った。
見切られている。自分の心の中を全てを。
人影は落胆したように祐子へと言葉を投げかけた。
「貴女の言う通り、どこかに神はいるのかもしれませんね。でも――」

光に溶け込んでいた人影がふっと消え、室内の闇が深くなる。
祐子は声に身構えた。
月の光さえも遮ってしまうほどの漆黒。闇がさらに魔を呼び寄せる。
人影は彼女の傍らに立っていた。
全身に青く光る刺青を纏った、人の姿をした悪魔。
祐子を悲しげに見つめていた。
彼の目は赤く、背後には無数の強大な悪魔の気配を引き連れて。

「もう、祈るのは終わりにしましょう。尊敬する貴女を、これ以上苦しませていたくない。」
祐子は彼を見て悲しそうに微笑んだ。教え子の姿を、悪魔になったその姿を見つめて。
「そう――彼方には自由に生きる権利があるわ。それを全て奪ったのは私の罪。
彼方がそれを望むなら、私は罰を受けましょう。」
少年は静かに目を閉じ、祐子を抱擁した。



――あの日にもう一度戻れたら。
僕も考えなかったわけではない。
もう一度戻れたら、同じ事をしただろうか?
同じように全てを受け入れず、闇の誘惑に負けただろうか?
最後まで自分を強く持ち、先生の言葉を信じただろうか…・
ぐったりと腕の中で横たわる祐子の身体は冷たくなっていく。
祐子の鼓動が、吐息の音が、徐々に弱まる。
熱いものが頬を伝った。
悪魔に身も心も染まってから失ってしまったはずの。涙が。
苦しげに見える彼女の表情がゆっくりと微笑をうかべた。
彼の心を察し、細い声を搾り出す。

「それでも彼方は死なないで。生き延びて、世界の末を見届けて…」

緩やかに命の火が消えた。
もう声を発することも、微笑みかけることもない。
祐子の身体をそっと床へと置くと、人修羅はその場を去った。
教室の闇は月の光に薄れ、元の姿へと還っていった。



【人修羅(主人公)(真・女神転生V-nocturne)】
状態:正常
現在位置:七姉妹学園
行動指針:自分の世界へ帰る手段を求める。


【高尾祐子(真・女神転生V-nocturne)】
状態:死亡
所持品:不明
死亡場所:七姉妹学園

【残り ?名】

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