女神転生バトルロワイヤルまとめ
第15話 歪み

草木も眠る丑三つ時。ただ月と星の明かりだけが、蝸牛山の山奥にある寺豪傑寺を淡く照らしていた。
静まり返った寺の外、段になったところに腰を下ろし、青い大きめのノートパソコンのような機械を使って何かの作業を行う少年がいる。
中島朱実
中性的な美しい顔立ちで、真っ黒な学生服を着た少年。
彼こそが地上に悪魔が現れる原因となった悪魔召喚プログラムの作成者である。
そして、彼に与えられた武器にもそれはインストールされていた。

この地に転送され、持ち物を確認した彼は自分の強運に驚いた。もっとも、その驚きと喜びはすぐに落胆に変わったのだが。
使い慣れたCOMPにはかつて共に戦った強力な仲魔達が登録されていて中島の命令を待っている、そう思っていた。
しかしその中のデータは全て消去されており、使用者としての登録からすべてやり直す必要があった。
三十分間ほどかけてその作業を終えた彼は、ルールブックと参加者のリストに目を通す。
名前を知っているのは二人。かつて鎖からの解放を求めてきた男リックと、そして…
「弓子…」
彼はいとおしむようにリストにある白鷺弓子の文字を指でなぞる。
彼女と合流しなければ。
絶対に、何があっても、彼女だけは守る。
ゲームのルールを確かめていると、山道から足音が聞こえた。
急いで隠れようとしたが、そうする前に人影が姿を現した。
「…ん、よかった…やっと人に会えたか」


それは、奇妙な姿をした男だった。
頭には髷を結い、一枚の布を体に巻き付けて締め縄のような物を腰に結わえた質素な服装。
「私はフトミミという。もしよければ、脱出の為に力を貸してくれないか?」
「…………」
何を言っているのだ、この男は?お人好しなのか無知なのか…
「この姿が変に見えるかい?…だろうな、私も参加者達を見て驚いた。あんなにも多くの人間を見たのは初めてだ…」
よく分からないことを呟きながら、フトミミという男は敵意はないと言うように両手を広げる。
「君を傷つけるつもりはないし、一応武器はあるので足手纏いにはならないつもりだ。…同行させてもらえないだろうか?」
「…いいでしょう。」
朱実はCOMPを閉じ、立ち上がった。
「僕は中島朱実。」
フトミミは承諾の言葉を聞いてホッとした表情を見せた。
「早速ですが、僕には悪魔を使役することができます。この辺りで悪魔の出る場所はありますか?」
フトミミという男は、悪魔の使役と聞いて驚いたようだ。当然だろう。
「悪魔を…それでは君は彼と同じ…いや、しかし…」
あの主催者の口振りから悪魔の使役が自分だけの特権ではないことは分かる。
この男もそれができる人間を知っているのだろうか?
「どうなんですか?悪魔のいそうな場所に心当たりは?」
要領をえない男に少々苛々し、語気を強める。
「あ…ああ、すまない。悪魔ならここの山道一帯にいるはずだ。この封魔の鈴、悪魔を退ける音色を放つ鈴があったから、私は遭遇せずに済んだ。」
ずっとこの寺にいたというのに、悪魔の気配は感じられなかった。
「寺」ということから、何らかの力が作用していたのだろうか。
「分かりました。山道の案内をお願いします。ああ、その鈴はしまっておいてくださいね」


月明かりもほとんど届かない暗い森の中。下山ルートを二人は歩いている。
「…一つだけ、おたずねしたいことがあります。」
中島がそう話し掛けると、先行していたフトミミは振り返った。
「一つと言わず、何でも聞いてほしい。ここでは未来を見ることはできないが…知っていることなら何でも話そう。」
「白鷺弓子という女性に会いませんでしたか?長い黒髪で、学生服を着ています」
それを聞いてフトミミは小さく頭を振る。
「残念ながら、見てないな。ここに来て始めてあった人間が君だ。役に立てなくてすまない。」
「そうですか…」
―それなら、もう用済みだ。
フトミミが再び進行を開始しようと前方を見る。
中島は大きめの石を拾い、背後から先行する男の頭部に振り下ろした。
鈍い音が響く。
倒れこむフトミミの頭部に石を振り下ろす。何度も、何度も、何度も。
中島がようやく手を止めたとき、ひしゃげた頭部はもはや原型を留めていなかった。
その死体から腰縄に刺してある細身の剣と、先程の鈴を取り出す。
(よかった…)
共に行動して弓子に出会っていたら、こいつはこの剣で弓子を突き殺していたかもしれない。
口でなんと言っていても、その真意は分からない。
だから、誰も信じるわけにはいかない。
もし一度でも失敗して、弓子分が殺されたら…
(彼女が死んだら…僕は生きていけない)
―そんな失敗は許されないのだ。


「弓子…待っていてくれ。すぐに迎えに行くから…だから、どうか無事で…」
中島が祈るように呟く。
世界も、このゲームもどうでもいい。
ただ今はこの現世とは隔絶したスマルという空間の中で、弓子といつまでも一緒にいたい。
他の参加者連中は、中島や弓子を殺そうとするだろう。
それがこのゲームの趣旨であって、こちらには殺意を持つ者と持たない者を見定めている余裕などない。
だから、殺そう。
目の前に現れる人間を一人一人殺せば、それは弓子を守ることに繋がるはず。
死体を森のなかに蹴り入れ中島朱実は山道をしっかりとした足取りで下っていく。
悪魔が出るというこの山を探索して仲魔を揃え、戦力を整える。
それから弓子を捜し出して、刻印を解除しよう。
弓子の内に宿るイザナミの力、もしくは強力な悪魔の力を借りればそれも可能なはずだ。
そして二人きりで生きていこう。他には何もいらない。
純粋すぎる愛情はときに狂気へと変わる。
光の届かない森の中、また一人闇に落ちた。
夜明けはまだ遠い。



時刻午前4時前後
【中島朱実(旧女神転生)】
状態 正常
仲魔 なし
所持品 レイピア 退魔の鈴 COMP MAG5000
行動方針 白鷺弓子との合流 弓子以外の殺害
現在地 蝸牛山


【フトミミ(真女神転生3)】
状態 死亡(中島朱実により撲殺)
死亡位置 蝸牛山
行動方針:異変の確認

【残り ?名】

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