女神転生バトルロワイヤルまとめ
第17話 久美子、麻希、ライドウ、鳴海、レイコ

窓の鍵、そしてカーテンもしっかりと閉じられた部屋で、鳴海は壁を背に腕時計を見た。
既にライドウが飛び出して一時間が経過している。
あの十四代目葛葉ライドウの名を欲しいままにしている少年がすぐにくたばるとは思えない。
だが鳴海は、自分とレイコに何も告げずに勝手に飛び出したという行為そのものに苛立ちを隠せずにいた。
レイコも無言で下ばかり見つめている。
一応、彼女とはもしライドウが帰ってこなかった場合、どうするかを簡単に話し合った。
先ほど小規模だが騒ぎを起こしてしまったのでこのビルが完全に安全というわけでは無くなった。
だがギリギリまでは待つ。だがそれは夜明けまでが限界だ。
日が昇ればそれだけ視界が明るくなり、またやる気になっている連中も動きやすくなるだろう。
時間が経てば経つほど危険度は増すのだ。
夜明けが来れば此処を出る。書置きは残さない。
自分たちが出た後、ライドウが戻ってくる前に他の人間に見られたら非常に危険だからだ。
互いの連絡方法を最優先で決めておけば良かった…。鳴海は少し後悔した。
……。
全く、何を考えてるんだあいつは。帰ってきたらまずは一発ガツンとぶん殴ってやろう。
部下に手を上げるのは信条に反するが仕方が無い。これくらいの教育は必要だよな。
それから説教だな。
『何で勝手に出て行ったんだ!』『何も言わずに出て行って、俺たちのことがそんなに信用出来ないのか?』
『俺たちがどれだけ心配したと思ってんだ、お前は!』
…まぁ、こんな感じでいいだろう。それにしても俺、クサい台詞が似合わないのな…。
鳴海は窓のカーテンを指で少しだけ開き、外の様子を伺った。だが、その路地には人っ子一人いない。
本当に死んでいるような暗闇が続き、吸い込まれてしまいそうなブラックホールを連想させた。

ライドウはさっきの声が聞こえた方向に向かって走っていた。
だが、地理が解るどころか見知らぬ街な上、この街が本当に自分の知っている日本の何処かなのかも疑問に思い始めた。
最初に集められた教室のような部屋でも不思議に感じていた。
まるで見たことの無いような異国の服を着た者がいたのだ。
海外からの情報が豊富に入ってくるようになった大正の世だが、あんな格好は見たことが無い。
…と、最初は思っていたのだが、ライドウはあることを予感していた。
以前、伽耶に憑きし者を倒すために入ったアカラナ回廊で帝都の未来を見たとき、あのような服を見たのである。
細かいデザインは違うが、同じ時代の物に違い無い。
と、言うことは、時空を超えて参加者がこのスマル市という街に集められたということになる。
そう理解した時、ライドウはこの地獄のようなゲームを降りる方法を思いついたのだ。
このゲームを主催している連中と同じ方法で脱出が出来ないだろうか。
脱出後、首に纏わりついた呪いはどうなるのか、自分の実力では一体何人連れて行くことが可能なのか…。
そもそも天津金木が手元に無い以上、時空を移動するだけのエネルギーをどうやって手に入れればいいのか…。
色々な問題点はあるが、出来るだけ早い段階で多くの人間を脱出させたい。
そう、さっき戦う意思の無いことを大声で宣言していた男のような者達を…。

ライドウは辺りを見渡した。あの声の主はもういないのだろうか。それと、銃を撃った者も…。
騒ぎの直後だと言うのに異様な静けさである。風の一つも無い。
声の主を探し、鳴海たちの所へ連れて行こう。そう思ったが、これでは探すことすら出来なかった。
と、その時道の端で何かの塊が蹲っているのが見え、足を止めた。
「これは…。」
それは、女の死体だった。まだ若い女だ。
いかにも良家の出身者と言った服装で、傍らに彼女の私物だろうと思われるベレー帽が落ちている。
表情は眼を大きく見開き、元は美しい造型の顔だっただろうに、恐怖によって醜く歪められていた。
そして、腹部には大きな傷が口を開いていた。この傷の形状はどう見ても刃物による刺し傷だ。
血が、まだ乾いていないのだから、殺されてそれ程経っていないのだろう。
ライドウは刀の柄に手を掛けた。彼女が殺されてまだ時間が経っていないということは、
まだ殺した犯人が近くにいる可能性を示唆しているということなのだ。
いつでも刀を抜けるような体勢で、ライドウは歩みを進めた。


ライドウが少し進んだ所でまたも人影を見た。それもまた、女だった。
緑がかった灰色のブラウスとスカート姿で、頭の上に赤いリボン、首にはチェーンを繋げたコンパクトを着けていた。
道の真ん中で立っており、何やらうつろな表情で独語をぶつぶつと呟いている。
かなり混乱した様子で体は小刻みに震え、しきりに自分に言い聞かせるような独語は徐々に大きくなっていった。
彼女の手に血の付いた包丁が握られているのを確認したライドウはとっさに物陰に身を隠した。
彼女が、さっきの死体の女に手を掛けたのだろうか…。ライドウは様子を伺った。

「どうしよう…本当に刺さっちゃったよ…。どうしようどうしよう…あたし…。
あの人の話、どうして聞いてあげなかったのかしら…でも、でも…あの人だってナイフ持ってたのよ…。
だけど、信じてあげれば…あげれば…こんなんじゃあたし…どうしう…どう…。」

少女の独語がぴたりと止まった。それから首のコンパクトを握り締める。
「こんなんじゃあたし、もう!」
少女が突如言葉にならない言葉を大きな声で叫び、コンパクトの鎖を引きちぎり、地面に落とした。
それから包丁を両手で握り直し、刃先を自分の喉に向けた。
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
まずい、そう思いライドウが止めに入ろうと飛び出したが、間に合わなかった。
駆け寄り、包丁を奪おうと手を伸ばした瞬間、少女はカッと眼を見開き、手にした包丁を力いっぱい喉笛辺りに突き刺したのだ。
少女の首から血が勢いよく吹き出し、もろにライドウの顔面に浴びせかかった。顔だけではない。マントにも、帽子にも…。
まるで熱いシャワーのように感じたが視界が真っ赤に染まり、それが湯ではなく血なのだということを思い知らされた。
血が地面に叩きつけられる水音と、少女の割れた喉からひゅーひゅーと空気が漏れる音が響きの中、自分の血だまりの中へがっくりと膝を落とし、そのまま仰向けに倒れる。
ライドウが顔の血を拭い、少女に手を伸ばしたが既に事切れてしまっていた。
だが、鮮血だけはしばらく吹き零れ続け、血の海を広め続けた。

ライドウも、成す術も無くその場に膝を落とした…。


ついに夜が明けてしまった。カーテンの隙間から微かな光が差し込み、外から小鳥の囀りが聞こえる。
普通の日常なら、すがすがしい朝である。最も、鳴海がこの時間に起きていることは滅多に無いのだが…。
そして、美しい朝日すらぶち壊す放送が町中に響き渡った。
昨日集められた部屋で聞かされた放送と同じ男の声だ。
声は昨日の内に死んだ人間の名前と人数を告げ、その後に「ちょっと少ないな…まぁ、これから頑張ってくれたまえ」と零した。
鳴海は遊んでいるようなその口ぶりにむっとしたが、自分にはどうすることも出来ない。
それに結局、ライドウは帰ってこなかった。
カーテンを開き、周囲を見渡したが誰もいない。もう帰っては来ないだろう。
ライドウが今何処で何をしているのかも解らない。
本当はもう少し待っていたかったが、これ以上此処に留まるのは危険だった。
「レイコちゃん、行こうか。」
ずっと膝を抱えて座っていたレイコが顔を上げ、鳴海にいかにも悲しそうな眼を向けて小さく頷いた。
彼女もまた、辛いのだ。
「あ…」
窓をちらりと見たレイコが眼鏡のずれを直して外を見つめた。
「鳴海さん、あれ…!」
レイコが初めて見せる慌てた様相で窓の外を指差した。指を差すと同時に、いてもたってもいられないように、
もう片方の手で鳴海のベストの裾を引っ張る。
鳴海が外を見ると、見慣れた人物が遠くから歩いてきた。
黒いマントに学生帽。間違いない。ライドウである。
二人はびっくりした顔を見合わせると、有無を言わずに部屋を駆け出した。

「ライドウ!」
俯き加減で影を落とし、酔っ払いの様にふらふらとした足取りでライドウがこちらに向かって歩いてきていた。
帰ってきた彼には色々と聞きたいことが山ほどあったが、鳴海は彼の姿をまともに見た瞬間、息を呑んだ。
全身が血に塗れていたからだ。顔だけはぬぐってあるが、血色がかなり悪い。
元々色白の顔だが、まるで蝋人形のように生気の無い顔だった。
一体何がどうしてこんな状態になったのか…。
本当はぶん殴って、説教を聞かせるつもりでいた。だが、こんな姿を見せられたら鳴海の根性ではちょっと無理な話である。
掛ける言葉を捜しながら鳴海がライドウに近寄ろうとした瞬間、レイコが先に飛び出した。
そして、死んだ魚の眼をしたライドウに、平手打ちを食らわせたのだ。
「えぇっ!?」
声を上げたのは殴られたライドウではなく、何故か鳴海の方だった。
突如叩かれた頬を押さえながらライドウはレイコをまじまじと見つめた。
レイコは眉間に皺を寄せ、眉を吊り上げて感情をむき出しにした顔をしていた。
「どうして勝手に出て行ったんですか! そんなに私たちのことが信用出来ないんですか!?
私たちが…貴方が出て行った後、どれだけ心配したか…そんなこと貴方は考えなかったんですか!?」
「え…」
「私、ライドウさんは他の男子とちょっと違うって思ってたんです…。でも同じでした。
どうして男の子って、みんな勝手で人の気持ちなんか考えないで…相談もしないで一人で無茶をするのかしら。
私がどう思ってるのかなんて知りもしないくせに…」
「えっと…」
「…さぁ、これを持って!」
レイコは鳴海の持っている三人分の荷物を奪い取ると、どうしたらいいか困っているライドウにまとめて押し付けた。
「貴方が私たち全員の鞄を持っていたら、もう勝手に離れたりできないでしょ?」
そう言って、レイコはこの時初めて笑って見せた。
口元を小さく歪ませただけの、微かな笑顔だったが、それはライドウと鳴海を惹き付けるのに十分な微笑みであった。
ライドウの叩かれた頬はまだ熱を持っていたが、それは何故か心地よく、心に染み入るものがあった…。



【葛葉ライドウ(超力兵団)】
状態 正常
武器 脇差 クロスボウ
道具 傷薬×2
現在地 青葉区廃ビル
行動指針 信頼出来る仲間を集めてゲームからの脱出

【鳴海昌平(超力兵団)】
武器 煙玉
道具 悪魔召還に使えると思われるメリケンサック チャクラチップ 宝玉
現在地 青葉区廃ビル
行動方針 ゲームからの脱出

【赤根沢玲子(if…)】
武器 無し
道具 不明
現在地 青葉区廃ビル
行動指針 魔神皇の説得 ゲームからの脱出

【秦野久美子(デビルサマナー)】
状態 死亡(園村麻希が支給品の包丁で刺殺)
所持品 不明
死亡地点 青葉区の通り

【園村麻希(異聞録ペルソナ)】
状態 死亡(支給品の包丁で自殺)
ペルソナ 不明
所持品 調理用の包丁 道具不明
死亡地点 青葉区の通り

【残り ?名】

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