女神転生バトルロワイヤルまとめ
第25話 混沌VS混沌:壱

七姉妹学園……そう呼ばれる学園の校舎の中に「僕」はまだ立っていた。

あの時「僕」は尊敬する先生を抱擁した、
「僕」はほんの少し、力を加えたのを記憶している。ほんの少しの力のはずだった。
もしも「僕」の体が「人間の体」であったのならば……
受胎前に見ていたドラマの様な展開があったのかもしれない。
「僕」だって男の子だ。異性に興味が無いとは言わない。先生は理知的で美人だった、うん。悪魔になった今でもそう「僕」は思う。
しかし……
今の「僕」は既に「人間の体」では無くなっていた。
尊敬していた先生が引き金となって起こってしまった「東京受胎」、それまでは確かに「僕」は人間だった。
しかし目を覚ますと僕は「悪魔」の姿に変貌していた。
金髪の少年と喪服の老婆……
あの二人によって選ばれた(らしい……)
そして禍玉と呼称される蟲(まさに蟲と言う表現が相応しいと思う)の力を得たのだ。
「悪魔」としての力を……
そして文字通り魑魅魍魎が跳梁跋扈する砂漠と化した東京……いやボルテクス界と呼ばれるようになったトウキョウを彷徨った。
魔人と呼ばれる骸骨と戦い、メノラーと呼ばれる蝋燭立てを入手し、アマラ宇宙の理を知った。
受胎前の時に読んだ漫画にこんな単語があったのを今でも覚えている。
「等価交換」。
要は何かを得る為には何かを失う必要があるという事……そんな意味であったような気がする。
考えてみれば僕はボルテクス界で己の命や魔貨と呼ばれる通貨と引き換えに仲魔と言う味方をつけてきた。
そして味方にした仲魔を犠牲にする事で仲魔を強化し戦力増強を図った。
結果的に考えるならば成功といっていい。弱肉強食のあの世界で僕が生きぬいたのだから成功には違いない。
でも常に何かを僕は失い続けた…
尊敬する先生、幼馴染の千晶、クラスメイトだった勇、新宿で知り合った聖……
特徴的な頭にどうしても目が行ってしまう男も居たが……「僕」と出会った直後に悪魔(今思い返すとバフォメットだったんだな)で殺そうとしたから……どうでもいいか。
そしてアマラ宇宙の事を知る事と引き換えに僕は「人の心」も失っていった。
最深部で響いた凄まじいまでの歓声。
待ちに待ったぞ!と心の底から思える程の歓喜の声。
そう彼らは「僕」を待っていたのだった。待っていてくれたのだ。
あの時、僕の心は本当に震えた。
将来を期待された皆の声程嬉しいものは無いと思う。それが例え人であっても悪魔であっても……
そして最終試験とも言うべきあの戦い。
僕はそれに勝利し、皆の期待に答えることが出来たのだ。
そして僕は歩いた。皆の期待に答えるべく先頭に立って。


そうだ。
そこでだったんだ。
そこで意識が吹っ飛んだ。
気がついたらこの七姉妹学園に居て「殺し合い」の説明を受け、もう一回また意識が飛んだんだ。
今考えたらアマラ経絡を利用したワープに近い感覚だった。
そして気がついたらまたこの学園……そういや何回か行き先を間違えてワープしたな……
「僕」はなんとなく「人間」であった時を思い出して廊下を歩き、教室に入り校庭を眺めた。それも上半身真っ裸、普通なら先生が怒鳴り散らす所だろう。
自嘲気味に笑いつつ、ある教室(掲げられた札からニ年生の教室と推察できた)に入った時、僕が手を掛けるべき最初の犠牲者は決まった。
高尾先生……
あっさりと死んでしまった……
最後の言葉。
「それでも彼方は死なないで。生き延びて、世界の末を見届けて…」
僕はその言葉を聞いてどう思ったか……等は言わなくても理解できるだろう?
でも、正直「人はこうも簡単に死ぬ事が出来るのか?」と再認識したのは事実だ。
最も悪魔すら弱点をつけば簡単に死ぬのは一緒だが……
涙が頬を濡らしたのは自分でも意外だった……

そこまで思い返した所でふと気付いた、この世界のルールを。
二四時間以内に一人以上の死亡者が発生しなければならない。
この生き残り戦争の条件は少なくともクリアしたわけだ。二四時間は何もしなくてもいい。
ルールブックもあり(丁寧な事に日本語で表記されていた、全く有難い)それを見ると死亡者通知が定期的にされると書いてある。
つまりは死亡者通知が無かったら……殺し合う必要がある訳だ。
「僕」はできれば人とは接したくはなかった。関わりも持ちたくない。
「僕」にはやるべき事が存在する。
きっと他の人もそうだろう。勝手にするがいいさ、殺しあおうが共闘しようが。
しかし……気になる点が「僕」にはあった。
いつの間にか背にあったザックの中には参加者リストが入っていた。後は煙幕弾と呼ばれる敵から逃げる際に使用するアイテムが目についた。
当然最初に確認したのは参加者リスト。
敵の情報を得る事が出来なければ勝てる敵にも勝てない場合がありうる、ボルテクス界で学んだ正に「僕」の理だ。(そういえばこの時、「パト」と言う二文字が脳裏を過ぎった。何だろう?)
殆どの人名は知らない、知る必要もなかった。殆どが「人間」であるだろうから。それはリストの名前で判別はつく。外人も居るみたいだ。
ああ、ここに外人ならぬ人外な存在が一人いるな、と苦笑しつつ眺めた。
苦笑して見続けることが出来たのは中盤あたりまでだっただろうか、その名前が出てた時は体が凍るような感覚を覚えた。
今さっき殺してしまった先生を始め、倒したはずの皆の名前が並んでいたからだ。
全員に配られたとしたら倒したはずの皆のリストに「僕」の名前も表記されているはず……つまりは最悪、もう一回戦う必要がある訳だ。
そこまで考えての「僕」の結論を言うならば……
「まぁその時は戦うしかない」
この一言だった。
正直な所彼らとは二回戦っている事になるのだから……まぁ要領は得ているつもりだ。なんとかなるだろう。
もしかしたら誰かが既に倒されているのかもしれない。そうしたら手間は省けるし結局の所、定時報告がされるのだ。嫌でも誰が生き残ってるかがわかる。


……そんな事を思っていた……さっきまでは。
教室にある時計を見ると秒針が確実に動いている。
少なくとも時間は把握できるわけだ。
だがこの時計が正しいとは限らない。
念のために「僕」は他の教室の時計も見てみた。
若干のずれが時計によってあるようだが大体が同じ位置を短針が示していた。
とすれば今は午前五時……この殺し合いが開始されて二時間あまりが経過した事になる。
ルールブックによれば後一時間程で最初の報告と言ったところか……どのような内容で報告がされるのかは興味があった。
状況の経過が気になった。
ふむ、現状待機といこうか?ノルマは既に達成したのだから……と思ったその時だった。

「彼」にも予想外の大きな音が発生した。
当然といえば当然であった。鉄板を銃で撃ったのだから。
「彼」はここまで「彼」なりの隠密行動を行ってこの七姉妹学園まで戻ってきた。(あくまで「彼」なりのとだけ補足する)
見つけるべきは強い武器、それも直に使えるものがいい。確か…廊下に多く設置されてるはずだった。
薄明るい廊下の中で赤く光るランプが一つ。
あった。アクリルの覗き板から覗くと斧に似たような鈍器が中に飾られていた。
勿論それを悪用されないように頑丈な鉄製の板で構築された箱でそれを強固に保護している。
それを見た「彼」は脳内の何かが弾け飛んだ。有体に言うならばキレたのだ。
銃をその鉄板で構築された箱に向け引き金を引く。
当然ながら発生した眩いマズルフラッシュと響く銃声、そして匂ってくる火薬臭、おまけに薬莢が転がる音。
後悔先立たずとはこの事か、「彼」は激しく後悔した。
誰かに聞かれたかも知れない。
貴重な弾丸を消費してしまった。
しかしその見返りとして箱に収められた斧に似た鈍器を得る事が出来た。
それを手に取る。結構な重量だった。だが重さの分殺傷能力は高いはず。それに彼にはかつて斧を手に持ち悪魔と交戦した記憶があった。
要領は一緒だ、大丈夫。
自分に言い聞かせる。そして近くの教室に目をやると扉が開いていた。「彼」は反射的に飛び込んでしまった。
そこで見たもの……
寝ている人間であった「もの」。
女「で」あった。
死んでいたのだ。
美人であることには間違いない。端正な顔立ちだった。何故か微笑みにも似た表情を浮かべて彼女は動かぬ人となっていた。
ドラマ等であればここで「彼」は叫んでいたのかもしれない。だが「彼」も修羅場を潜った経験の持ち主だった。
思考を開始。
誰かが「この場所」で「この女」を「殺した。」
更にこの結果状況から判断する。
抵抗を試みた形跡は無い。抵抗したのならこんな顔で死んだりはしない。恐らく顔見知りに出会い殺されたのだろう……
結論。
「ここには敵がいた。」
誤算だった。まだ少なくとも一人はこの近辺に敵がいるのだ。
思わず教室の出入り口から見える教壇の反対側、つまりは進入して来るであろう死角に身を寄せる。
恐怖からか歯が音を鳴らしだした。それも連続で。
同時に吹き出る嫌な冷や汗……
一人だと心細かった。「あいつ」や(思い出したくはないが)「奴」が一緒の時はこんな事は無かったはずだった。
静まり返る学校……
「敵」は消えたのか?と「彼」が思ったその時だった。
廊下に響く足音が聞こえた……
「敵」が来たのだ!


「僕」は大きな音がした方向へ歩いていった。後からの奇襲も考えられるがそこまで考えてはいなかった。一度「敵」と交戦したからである。
「敵。」
確かに「敵」だった。でも参加者リストには入っていない「敵」、「僕」と同じ「悪魔」だった。
通常の遭遇、だが敵の先制攻撃だ。「僕」は軽く舌打ちした。
若干ではあるものの、姿形が変わっているように見えたが、所詮は低級悪魔だ。
「僕」はその攻撃を軽々と回避、そしてカウンター気味にいつもの右ストレート。
悪魔は当然即死だった。
アイテムは持っていない……まぁ持っていたとしても傷薬程度だろうと「僕」は思った。まぁ問題はないだろう。
再び廊下を歩く。あくまで普通にだ。
先生を殺した教室の前、そこで僕は立ち止まった。
先生を見つめた。あの時のままだった。悪魔だからの目だからだろうか?
先生「だった」ものの服が異常に白く見えた。
その行動を取らせようとした理由が「僕」は何故か思いつかなかった。そのまま「僕」は教室に足を踏み入れる。
先生「だった」ものの手を組ませて何処ぞの宗教が祈りを捧げるような形にした。
「僕」はあえてもう一度言う。
何故そんな真似をしたかったのか本当の理由がわからなかった。
もしかしたら……もしかしたらだ。
「僕」は人間の「真似事」がしたかっただけかもしれない。
その時だ。
黒い影が僕の視界に突然現れた。
「僕」は思った。
……可哀相に……と。



【人修羅(主人公)(真・女神転生V-nocturne)】
状態:正常
武器:素手(但し各スキル運用が想定される)
道具:煙幕弾(9個)
現在位置:七姉妹学園
行動指針:カオス・ヒーローへの迎撃:自分の世界へ帰る手段を求める。

【カオス・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:緊張による恐慌状態=PANIC?
武器:銃(経緯から狙撃が可能?):斧に似た鈍器入手(刃は無い模様)
道具:カーボライナー(弾丸:追加効果STONE)
現在地:七姉妹学園
行動方針:人修羅への攻撃敢行:現状それ以上の思考は不可能

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