女神転生バトルロワイヤルまとめ
第26話 鬼と希望

「パスカル、大丈夫かい?」
ザ・ヒーローはたずねた。
現在ザ・ヒーローと大道寺伽耶はパスカル・・・すなわちケルベロスに乗っている。
人間が二人乗ったところでパスカルの走る速さは普通に歩くよりは段違いに速い。
「アア、シカシMAGハ大丈夫カ?」
「・・・まだ持つさ」
先ほどのロウヒーローとの交戦は複数の仲魔を呼び出したり戻したりする戦法を取っていた。
ロウヒーローとの彼我戦力差を考えれば仕方の無いことだが、それゆえMAGは心もとない状態になっていた。
「ロウヒーローの奴が銃を乱射しまくった上大声で叫びまくってたからなぁ・・・」
一刻も早くあの場を離れねばならない。
別のゲーム参加者が漁夫の利を狙ってくる可能性がある。
パスカルがいる時点で敗北の目は大分薄まりはしていたが危険は避けるべきだった。
いま向かっている先は蓮華台。
当初は港南区へ戻るつもりだったが戦闘があったのはほぼ港南区と青葉区の境の位置。
あそこからより遠ざかるためには蓮華台へ行く必要があった。
「・・・スピードヲ上ゲヨウ」
「うん、伽耶しっかりつかまって」
「・・・・・・」
「伽耶?」
「あ、はい」
パスカルが速度を上げる。
本来なら車が走っていたであろう道路をそれ以上の速度で魔獣が駆ける。
今だとらえられるものはいない。


「ありがとう、パスカル・・・いったん戻ってくれ」
蓮華台の住宅街に到着し、手ごろな民家に身を隠す。
スマル市はかなり発展しているようで隠れる場所には事欠かない。
「・・・ヒーロー、俺ハ強イ奴ガ好キダ・・・死ンデクレルナヨ・・・」
そういうとパスカルは姿を消した。
「伽耶・・・少し休むといい、あっちに寝室があった」
「え?・・・しかし」
「大丈夫、これだけ住宅が密集してるんだ・・・全部探して回るような奴はいないだろう」
「・・・では・・・少しだけ仮眠を取らせていただきますね」
伽耶は奥の部屋に姿を消した。
「さて・・・やることは山積みだ・・・仲魔の合体、MAGの調達に脱出方法の模索・・・さしあたっては・・・」
ザ・ヒーローはザックを開く。
中から取り出したのは・・・パソコン。
先ほど出版社から失敬してきたものだ。
「出版社の編集者が携帯していたPC・・・なぜこの町が浮いているのか?なぜ人っ子一人いなくなったか?」
「このPCを調べればそこがわかるかも知れない・・・そこがわかれば・・・策ができるかもしれない・・・脱出のための」
ザ・ヒーローはPCを起動する。
パスワードは・・・無い。
OSが立ち上がる。
「こんな普通のPCを使うのは久しぶりだな・・・」
大破壊以後まともなPCなんてそうめったにお目にかかれたものではなかった。
「・・・あった、これか」
ファイル名・・・取材記録。
これを使っていた記者が何の編集者だったかまではよくわからない。
しかしどんな出版社だろうが町が浮いたなんて異常事態になれば特集を組むなりするはずだ。
「・・・マンガ雑誌の出版社じゃないことを祈るよ」
ヒーローはファイルのダブルクリックする。
PCの画面いっぱいに文字の列が広がった。
夢先区人気のお店
今時の高校生の夢
セブンス、イケテル高校生
「多分若者向けの情報誌か何かってところか・・・これじゃあな・・・?」
ザ・ヒーローはひとつのファイルを見つける。
そのファイルはわずかにヒーローの興味を引いた。
スマル市怪奇現象。
タイトルだけ見れば何のことは無い、よくある怪談特集だろう。
いわばだめもと・・・ヒーローは文章を読み始める。
「セブンス呪いの紋章・・・セブンスの時計台が動くと悪いことがおこる・・・願い事をかなえるジョーカー様・・・」
表示されていくのはどの町にもあるような都市伝説の類だ。
普通なら鼻で笑われて終わりといった内容だ。
「・・・噂が現実になる?」
噂の力で武器が売られだした、噂の力で店が迷宮になった、噂の力で飾り物の飛行船が本物になった。
いろいろな事例が書き上げられている。
そしてその最後。

「・・・噂の力で町が浮く・・・か」
データによれば・・・テロが多発し住民に不安が広がった、そんな時世界は滅亡する前触れだという話しが広がった。
しかしある新興宗教のような組織がこの町だけは助かるという噂が広める。
最初細部まで設定されなかった噂だが人々に伝わるうちに世界は地球の自転がとまって滅亡する。
この町は空に浮きさらにバリアを張られるので無傷。
といった噂に発展。
結果その通りになった・・・。とされている。
「以前ならまさかってところだけど・・・悪魔の存在を知ってるいまとなっちゃね」
悪魔が現れた、大破壊そして精神世界、洪水・・・自分も通常信じられないようなことは体験してきた。
それゆえ嘘だとは言い切れない。
そう思いつつヒーローは記録を読み進めた。
最後に記録者名が記されている。
「天野舞耶・・・か・・・天野舞耶?」
聞き覚えがあった、ザックから参加者名簿を取り出す。
「天野・・・天野・・・あった」
間違いない、参加者だ。
「この人に聞けば何かわかるかもしれないな・・・しかし・・・」
条件は二つ。
この人物がゲームに乗っていないこと。
そしてそれ以上に・・・。
「既に殺されていないといいが・・・」
ゲームに乗っているだけなら交渉次第でどうにか成るかもしれない。
しかし、死んでいてはどうにもならない。
しかし・・・ルールブックには夜明けと同時に死亡者発表とされていた。
暫定ではあるが今後の目標は決まった。
「後は・・・っと」
ザ・ヒーローはPCの電源を落とすとGUMPを展開する。
「もう少し・・・戦力が欲しい」
合体のコマンドを選ぶ。
仲魔のリストが表示される
地霊ブラウニー 
地霊ノッカー
地霊コボルト
妖精ピクシー
妖鬼アズミ       
魔獣サンキ      
魔獣カーシー     
妖鳥ハーピー
魔獣ケルベロス

カジャ系を豊富に持つ地霊とディア・メディアを持つピクシーとアズミ、空を飛べるハーピーは残しておきたいから・・・。
「魔獣サンキと魔獣カーシーか・・・」
この2体を選択し合体の決定を選ぶ。
GUMP内でプログラムが交差し新たな仲魔を生み出す作業に入った。

<合体事故により通常とは違う悪魔が生まれました>
「ここまでは・・・予定通り、さて・・・」
<霊鳥ホウホウが誕生しました>
「・・・よしっ」
ザ・ヒーローは小さくガッツポーズをとる。
空を飛べてディアラマ メディア リカームという回復魔法を豊富に持つ悪魔だ。
優秀な補助役といえるだろう。
「これ以上の合体は危険だな・・・低LVとはいえ有用な魔法を持つ奴が多いからな・・・あとは」
地図を開く。
MAGが必要だった。
もし万が一全力で正面から戦闘しなければならないとき。
ケルベロスとホウオウを前面に出しハーピーで伽耶を離脱させ、残りの一体で補助をかけることになる。
現状のMAGでは不安だ。
この近くで悪魔の現れる場所。
「七姉妹学園か・・・」
しかし、廃工場のように場所によって悪魔のLvが変わる構成とは限らない。
「やはり港南区の廃工場に戻るべきだな」
行動の指針は決まった。
さしあたって動くのは死亡者の放送を聞いてからだ。
それまでつかの間であるが休むとしよう・・・。
ザ・ヒーローはCOMPを閉じると壁にもたれかかった。
日の出まで後40分弱。
仮眠を取ろう・・・。
ザ・ヒーローは意識を闇に沈めた。
荒廃した世界で培われたちょっとした衝撃でもすぐに晴れる薄い薄い闇の中へ。


目が覚めた。
術は成功したのか?
成功したとすればスクナヒコナはどこだ?アラハバキは?
体を見る。
制服を着た女の体だ。
転移自体は成功したらしい。
頭がズキズキ痛む。
ここはどこだ?調度品が大正ではない・・・。
立ち上がる、ベッドだ。
・・・くそっふらふらする。
人の気配。
この扉の奥だ。
誰かいる。
扉を開ける。
男が一人。
壁にもたれかかって仮眠を取っている。
だれだ?
少なくとも大道寺伽耶の肉親ではない。
おかしい。
自分の予定とは何もかもが違いすぎる。
それにしてもこの男どこかで見たことがある気がする。
大道寺伽耶の記憶ではない。
この俺自身の記憶だ。
そうしていると、男の目がゆっくりと開いた。
「伽耶、もう起きたのか?」
男が語りかける。
この男は大道寺伽耶を知っているようだ。
大道寺伽耶の記憶を探る。
・・・・・・・・・・・・・・馬鹿な!馬鹿な!そんな馬鹿な!?
殺し合い?刻印?転送?パラレルワールド?
一体どういうことなんだ?
いやそれよりも,目の前にいるこの男。
この男は・・・。


「ザ・ヒーロー・・・」
寝室から出てきた伽耶が口を開いた。
「伽耶?」
様子がおかしい。
歩き方も以前とは違う。
以前はいかにも素人一般人の歩き方だった。
足音を消したりする方法も知らない歩き方。
今は違う。
隙が無い。
まるで格闘技、それも実践用を学んだ者の歩き方だ。
「ザ・ヒーロー・・・大破壊後のカテドラルにてアスラ王を倒した戦士・・・それ以後の消息は不明・・・」
「!?」
伽耶の口から出たのはザ・ヒーローの経歴だった。
混乱を避けるために伽耶には教えていないはずだった。
伽耶が知るはずが無い。
「・・・君は・・・伽耶じゃないのか!?」
ザ・ヒーローは瞬時に距離をとった。
「お前が・・・お前がセラフどもに味方をしなければ・・・」
伽耶の口から発せられる言葉。
それは今までのような人を気遣い、どこか控えめな声ではなかった。
憎悪、憤怒、悲哀。
様々なマイナスの感情が入り乱れた声だった。
「今ので決定的だ・・・お前は誰だ!?伽耶の口からセラフなんて出るわけも無い!取り憑いたか?偽者か?」
ザ・ヒーローは飛びのき鉄パイプを握りGUMPを構える。
GUMPは1動作でパスカルを呼べる状態だ。
「私の名は四十代目葛葉ライドウ!センターに仇名す者だ!」
「・・・四十代目・・・葛葉ライドウ?」
葛葉・・・その名は噂で聞いたことがある。
大破壊以後自分以外に悪魔を操り戦う集団がいるという噂。
悪魔使いだけなら自分以外にも数人知っていたがそのものはCOMPを使わないという。
それはいい。
聞きなれない単語がひとつある。
「センター・・・だって?なんだ、それは?」
「!?・・・知らないだと?・・・貴様が?センターの発端を築くためセラフの手先となった貴様が!」
「セラフの・・・手先!?まて!僕は確かにアスラ王を倒したがセラフも倒したはずだ!」
「なんだと?」
「僕はセラフとアスラ王を倒し太上老君に出会った・・・世界の復興は人々の手によって成し遂げられるはずだ!」
「・・・馬鹿な!?私が知っている未来は、センターの一部の民のために人々が従属を強いられる狂った世界だ!」
二人の口から離される違った未来。
ザ・ヒーローの頭には何パターンかの理由が思い浮かんでいた。
「・・・なるほど、四十代目葛葉ライドウ・・・だっけ?君はこの世界がどういう場所か分かってるのかい?」
ザ・ヒーローは鉄パイプを下ろしGUMPを閉じた。
交渉に入ったのだ。
正体不明の「何か」との交渉・・・ザ・ヒーローにとってはいつものことだった。


「この世界は・・・おそらくパラレルワールドだ、時間時空を超えて人々が集められ主催者によって殺し合いを強いられている」
「その様子じゃ分かってたようだね・・・」
「ああ、この体・・・大道寺伽耶の知識を得ることはできる」
「じゃあ話が早い・・・因みに僕は・・・聞いての通りセラフとアスラ王を倒し、さぁこれからというところで記憶が消えている」
「・・・つまり」
「君のいた世界は僕がセラフに加担した世界か・・・あるいはセラフ勢力が僕をプロパガンダとして利用した世界」
「さらにもうひとつの可能性・・・僕がこの世界によって連れ去られた、それによって歴史が変わった世界」
「!?」
「僕は・・・基本的に人々を支配するつもりなんか無かった、神にも悪魔にも頼らず人間が切り開く世界」
「そのため僕はセラフともアスラ王とも相容れず両者を倒した」
「その僕が消えた・・・つまりは・・・自分で言うのもなんだけど勝者が消えたわけだ」
「セラフもアスラ王達の勢力も消滅したわけじゃない・・・当然僕を利用するだろう」
「そして君の世界ではセラフ側が優勢になったんだ・・・」
ザ・ヒーローの交渉は続く。
「僕の予想では君は・・・どうやったかは分からないが過去を修正するために大道寺伽耶に乗り移った・・・違うかい?」
「・・・その通りだ」
「つまり君の目的はセンターってのを消してしまいたいわけだ」
「・・・ああ」
「このゲームは・・・まともにやったら・・・生き残るのは一人のみだ」
「・・・」
「しかし・・・どうにかして脱出ができたら?僕も君も元いた世界に帰れたら?」
「!?」
「僕はセンターなんて作らないし、君が協力してくれるなら・・・未来の知識を得ることになる」
「・・・俺は貴様が作った世界に生きるわけか?」
「そうじゃない、見たところ僕が消えたときには既に君は生まれているはずだ・・・未来でも君と僕が協力し合えばいい」
「・・・」
「それに僕が世界を作るわけでもない・・・作るのは人々だ、僕の仕事はそれを利用しようとする天使や悪魔を退けることだ」
「・・・・・・協力しろというのか?」
「・・・・・・有体に言えば、そうだ・・・ここでも、未来でも」
「・・・目処はあるのか?」
「え?」

「脱出の目処だ!・・・協力してやるといっている!」
「・・・あるさ、待ってな・・・そろそろ夜明けだ」
そうヒーローが言ったしばらく後、どこからか放送が流れ始めた。
<やぁ諸君・・・がんばっているようだね・・・では死亡者を読み上げるよ・・・まず・・・>
淡々と死亡者を読み上げる声・・・その中にヒーローが見出した希望、天野舞耶の名は・・・無かった。
「よし・・・えーと・・・伽耶でいいかな?」
「・・・かまわん」
「わかっ他・・・伽耶、まず質問だ・・・どうやって時空を超えた?」
「・・・我が葛葉一族に伝わる秘儀と・・・センターの科学技術を合わせた方法だ」
「・・・それはここでもできるかい?」
「・・・厳しいな・・・私は術が得意だったわけではないためセンターの魔法関係の技術を流用したんだ・・・この町ではな・・・」
「なるほど・・・ではその機械があればいいわけだな?」
「まぁそういうことになるわけだが・・・この時代ではあるはずも無いものだ」
「そこでこれを見てくれ」
ザ・ヒーローはパソコンを起動し先ほどの画面を見せる。
「噂が現実になる・・・?」
「ああ、知ってのとおり・・・ここの町は浮いてる、このパソコンはある記者の持ち物だが・・・かなり真相を究明しかけていたらしい」
「・・・その真相というのが噂が現実になることだと?」
「ああ、そして最後の署名・・・天野舞耶・・・参加者の一人だ」
「なるほど・・・そいつを探し出し・・・この情報の真偽および正確な方法を確認しようということか」
「ああ、理解が早くて助かる」
「そうとなれば善は急げだ・・・行くぞ、その女もいつ死ぬか分からん」
伽耶は出口を向いた。
「あー待て、これまでの戦闘でMAGが減っていてな・・・先に回収に行きたいんだがな」
「・・・これを使え」
伽耶が手をかざすと手のひらから何かが現れる・・・それはザ・ヒーローのGUMPに飛んでいく。
「・・・MAGが・・・増えている?」
「時空転移に使ったMAGの余りだ、それだけあればしばらくは持つだろう・・・仲間になったしるしとでも思っておけ」
「・・・伽耶」
「ふん・・・・・・私も行きたいところがある、先にそこへ行くぞ」
「そうだ、じゃあ君もこれを持っておくといい」
そういってザ・ヒーローは伽耶に鉄パイプを渡した。
「・・・お前の分がなくなるのではないか?」
「いや、さっきこの家の水道管を引っこ抜いて調達した奴だよ・・・俺のもほら」
そうやって見せたザ・ヒーローの鉄パイプもきれいなものになっていた。
「お前は嫌に鉄パイプにこだわるな・・・理由でもあるのか?」
「・・・一番手ごろで強いってだけだよ」
ザ・ヒーローと大道寺伽耶、鉄パイプを携えた二人は再び歩き出した・・・。
天秤は揺れず・・・鬼を味方に付けた・・・。



【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:正常
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み)
道具:マグネタイト10500(四十代目葛葉ライドウに10000貰う) ノートパソコン 予備バッテリー×3
仲魔:魔獣ケルベロス、霊鳥ホウホウを始め8匹
現在地:蓮花台民家
行動方針:天野舞耶を見つける 伽耶の術を利用し脱出

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格となる(葛葉流剣術とある程度の術が使用可能に)
武器:スタンガン 包丁 鉄パイプ
道具:無し
仲魔:無し
現在地:同上
行動方針:天野舞耶を見つける ザ・ヒーローと共に脱出し、センターの支配する未来を変える

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