女神転生バトルロワイヤルまとめ
第32話 脱出への挑戦! 弐

この街をもっとよく知るため、七姉妹学園の生徒を探し、ライドウ、鳴海、レイコの三人は一路、
七姉妹学園の校舎が置かれている蓮華台に向かって移動していた。
まさか学校に生徒そのものが来ているとは考え難いが、
何処にいるのか解らない以上、目標はそこしか思いつかなかった。
ルートは死角が全く無く、やたらと開けた四車線の大通りを避け、
それとは真逆の北側にある山際のルートを通ることにした。
こちらなら多少隠れることが容易な上、
今頃街中で情報収集に奔走しているであろう他の参加者と鉢合わせになる可能性が低いと思われるからだ。
それに、他の二人は知らないが、少なくともライドウは幼少の頃より山の中で育ったため、山道の移動には慣れていた。
一応、先ほど基本的な行動方針は決まった。
この街の動力源を探すことだ。だが、課題は多い。
まずは飛び道具の確保である。
一応こちらにもクロスボウはあったが、何度も聞こえる銃声で判ることだが、
銃を持っていてやる気になっている相手がいるということだ。
そんな連中と出会ってしまった場合、一撃ごとに新たな矢の装填が必要なボウガンはあまりにも頼りない存在だった。
それにこれをまともに扱えるのが鳴海だけというのもマイナス点である。
それから、出来ることなら封魔の管を何処かで確保したい。
これはこの街に存在するかどうかすら怪しいが、鳴海の支給品の中に悪魔召還に使えそうな道具が入っていたことから可能性はゼロでは無いだろう。
誰かの支給品に含まれているのなら、是非交渉して手に入れておきたい所だ。そう上手く行くとは思えないが…。
管があるかどうかで、ライドウのデビルサマナーとしての真価がようやく発揮される為、今後の戦局が大きく変わるのである。
それから、誰の眼にも付きそうに無い、隠れることが可能な場所の確保だ。
デビルサマナーとして危険で厄介な激務に慣れているライドウや、探偵として張り込み、追跡を数多くこなしているであろう鳴海はともかく、
今まで普通に生活していたのであろうレイコにかなりの疲弊の色が見えているのだ。
昨晩は一睡もしていない上、この数時間舗装されていない山道を歩き通しなのだから無理も無いだろう。
「この辺で休憩でもしないか?」
少々息の上がっているレイコを見るに見かねてか、鳴海がそう進言し、二人は足を止めた。


三人は陽の光があまり届かない茂みに隠れるようにして座り込んだ。
古い切り株に腰を下ろしている鳴海は煙草を取り出し、一本口に咥えるとマッチで火をつけた。
それから大きく空気を吸い込み、ゆっくりと煙と一緒に吐き出す。
「それにしても、魔法の力って偉大なもんだな。全く。」
実は鳴海がゲーム開始早々半谷教頭にやられた腕の傷は、レイコが魔法で完治させていたのである。
「これさえあれば医者要らず薬要らずだよ。」
「でも…ちょっと気になってるんですけど。」
落ち葉の上にきちんと足を揃えて上品に座っているレイコが言った。
「どうも回復魔法が使いにくいような気がするんです。何ていうか、別の大きな力に無理矢理押さえつけられているような…。」
実際、レイコが鳴海に使用した魔法は、瀕死の重傷者でも歩けるようになるほど強力なものだったが、
浅い傷を塞ぐので精一杯の効果しか上げられなかった。
「多分、これが一枚噛んでるのではないでしょうか。」
今まで黙っていたライドウが、詰襟の先を摘みながら呟いた。
この下には、ゲーム参加者全てに平等に与えられた死の宣告が刻まれているのだ。
姿すら現さなかった主催者がその気になれば一瞬で全員の命を奪うことすら可能な呪いの刻印である。
だが、魔神皇の強烈な魔法を見る限り、攻撃魔法の威力が殺されているとは思えない。
当然、奴の実力の半分以下であの破壊力だということも考えられるが、
魔法を使った当の魔神皇が違和感を覚えている風には見えなかったからだ。
「厄介だな。」
「えぇ、厄介です。」
運よくこの地獄の街を脱出出来たとしても呪いが消えてくれるとは限らない。
恐ろしい相手だった。
と、その時。
「なっ!」
ライドウの優れた動体視力がそれを捉え、咄嗟に隣にいたレイコを庇う様に押し倒した。
刹那、木と木の隙間から勢いよく飛んできたそれはライドウのいた位置にぶつかると、破裂して真っ白な煙を噴き上げた。
発煙筒である。一体何処から投げられたのか…
ライドウが煙の中で考えを巡らせているとその奥から人影が飛び込んできた。
反射的に脇差を抜き、襲ってきてそれに備える。直後、柄を握る両手に重い衝撃が圧し掛かった。
衝撃を押し返しながらレイコを確認する。

二人とも、発煙筒の発するくもった気の中にはいない。
どうやら鳴海がレイコを連れて逃げてくれたらしく、少し安心した。


「そうだ。それでいい。」
突然刃を押し付けてきた人物が低くくぐもった声で言った。
西洋剣の刃といっしょに押し付けられた顔は、ライドウと同じくらいの年頃の少年だった。
寝癖のような癖毛で、耳に銀のピアスを着けている。顔は限りなく無感情に思えた。
ピアスの少年がもう一度大きく剣を振りかぶった時、ライドウは枯葉だらけの地面を転がってその場を逃れた。
だが、少年が剣を振り降ろすほうが少し早かったのだろう。
ライドウの白い頬に傷が入り、右の肩口が大きく抉れた。裂けた学生服からどろりとした血液が吹き出す。
少年が、間合いを取るため背後に飛び、その隙に立ち上がって体勢を整える。
少年よりも先に素早く攻撃を仕掛けるが、ライドウの一撃は少年の剣であっさりと薙ぎ払われた。
無理に仕掛けるのではなく、自分の丁度良い間合いを取ってから攻撃に移る。
見かけによらず、なかなか戦い慣れているようだ。
しばらく無言の睨み合いが続いたが、発煙筒の煙が晴れた頃、
少年の口元が微妙に歪み、ライドウは強烈な殺気に気圧されることとなった。
「ペルソナ…」
そう言った単語を彼が呟いた瞬間、少年の背後に別の人影が浮かび上がる。
三面六臂の黄金の魔神、ヴィシュヌである。
インドの叙事詩「ラーマーヤナ」や「マハーバーラタ」で名高いその美しき神はヒンズー教三神に数えられる。
ペルソナと呼ばれたそれはライドウが使役する悪魔とは別の能力らしいが、
こちらにろくな武器が無い以上、その力に晒されるのはまずい。
「くっ!」
ライドウは奥歯を噛み締めると、召還されたヴィシュヌが何かの力を発する前に刀を構えて突撃した。
肩の傷は大して痛まない。
それほど深い傷では無かったのか、単に感覚が痺れているのかは解らなかったが。
相手が強力な切り札を出した時は下手に逃げ回るよりも先に仕掛けて一撃で終わらせる方が安全。
それはライドウの積み重ねられた戦闘経験がもたらした最大の防御法である。
「……!」
手負いの筈のライドウが、予想以上の動きを見せるので少年も少し動揺したのだろう。
刀の一撃は何とかかわしたが、ヴィシュヌの影は消えていた。
だが、怯むことなく少年は剣を構える。
が、突然体が、ぐらりと大きく傾いた。
少年の背中に後ろからスチール製の矢が刺さったのである。
彼の背後を見ると、木陰から鳴海がクロスボウを抱え、次の矢を装填しようと手を動かしていたのだ。
その横から顔を出したレイコがこちらに向けて何かを投げる。
それは空中で破裂し、先ほどの発煙筒とは桁違いの量の煙を噴き上げた。鳴海に支給された煙玉である。
煙で視界が覆いつくされる前にライドウはレイコが思わせぶりに右手を上げるのを見た。
それから眼で訴えた。「逃げて」と。


ライドウたちは山の斜面を転がり落ちるように逃げまくった。
「何だよあれ! もの凄いヤバイのがいるじゃねぇか!」
鳴海が走りながら喚くが、ライドウもさっきの襲撃者は全くの想定外で、何者かまでを観察している余裕は無かったのである。
しばらく走り、ようやく人の気配が無い辺りまで来た所で足を止めたが、ライドウはあることに気付いた。
「ライドウどうした?」
きょろきょろと周囲を見渡す。鳴海も気付いたようで、目を大きく見開いた。
「レイコさん…?」
そう、レイコの姿が無かったのである。

聖エルミン学園の制服を纏ったピアスの少年、藤堂尚也は背中に矢を刺したまま、思惑した。
考えているのは矢のことではない。
かなりのダメージには違いないが、これを今抜くわけにはいかないのだ。
何の考えも無しに体に刺さった鏃をを無理矢理抜けば大量出血によるショック死は免れないからである。
今は放っておくことしか出来なかった。
それよりもまず、先ほどの混乱に乗じて捕まえたこの少女をどうするかである。
用事があるのはさっきの黒いマントの男だけなので、この少女を今すぐ殺す必要は無い。
このまま連れ歩いた所で人質としての価値が見出せるかどうかも怪しかった。
相手があの、黒いマントの男なら…。

尚也は夜明け前、青葉区の通りを歩いていた。
急なことだったから自分一人でこの先のことを判断することは出来ないような気がして、仲間を求めていたのである。
自分の知っている人物、同じ学校の園村麻希、南条圭、桐島英理子、里見正…。
他にはハンニャ教頭もいたようだが、あの糞ハゲジジイが自分に協力してくれるとは思えない。
こいつは除外するとして、夜明けまで街中を探した挙句、発見したのが園村麻希であった。
だが自分が彼女に声を掛けた瞬間のことだ。
突如抜き身の刀を手にし、まるで時代錯誤とも言えるような黒マントを羽織った先ほどの男が麻希に走り寄り、
麻希が自衛手段として持っていたのであろう包丁を奪って容赦なく刺し殺したのである。
(本当は園村麻希の自殺を止めようとしただけなのだが、暗闇と角度の関係で尚也の眼にはそう映ったのだ。)
園村麻希が自分にとってどういう存在なのか、尚也にはうまく掴めていなかった。
セベクスキャンダルを共に乗り切った麻希とは、ただのクラスメイト、友達と言える仲ではない。
だが、恋人同士というほどの間柄でも無かった。
それなのに、麻希の死を間近に見た時のあの喪失感はとても口に出来るような感情ではなかった。
胸のぽっかりと大きな穴が開き、それはもう二度と塞ぐことは出来ないだろう…。
その瞬間、自分のやるべきことが決まった。あの男を殺すのだ。自分の手で。
麻希の命を奪った男の顔は殺すまで、絶対に忘れない。
彼女の鮮血を浴び、不気味に笑った(ように見えた)あの顔は、必ず自分の手で潰してやる!
「離して。」
細腕をがっちりと掴んでいる眼鏡の少女が抗うように身を捩った。
「逃げるのか?」
当然だろう。あの男の仲間なのだから。
だが、少女の口から飛び出した言葉は尚也の予測を大きく裏切った。
「背中を見せてください。早くしないと手遅れになってしまいます。」



【葛葉ライドウ(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態 顔と右肩を負傷
武器 脇差
道具 傷薬×2
現在地 蓮華台に向かう山道
行動方針 信頼出来る仲間を集めて異界ルートでの脱出

【鳴海昌平(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態 正常
武器 メリケンサック クロスボウ
道具 チャクラチップ 宝玉
現在地 同上
行動方針 同上

【赤根沢レイコ(if…)】
状態 正常
武器 無し
道具 ?
現在地 同上
行動方針 魔神皇を説得 ゲームからの脱出

【藤堂尚也(ピアスの少年・異聞録ペルソナ)】
状態 背中にスチール製の矢が刺さり負傷
武器 ロングソード
道具 ?
ペルソナ ヴィシュヌ
現在地 同上
行動方針 葛葉ライドウを倒し、園村麻希の仇をうつ
(氏名は上田信舟先生のコミック版より)

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