女神転生バトルロワイヤルまとめ
第34話 信頼と、友愛と、疑心暗鬼と…

レイコは戸惑うピアスの少年を強引に座らせると傷口を広げないように矢を抜き、回復魔法を掛けた。
少年の背中に手を当て、精神を集中させる。自分に宿るガーディアン・妖精ナジャが暖かな力を貸してくれる。
だが、どうしてもいつものような力が沸いてこない。
ライドウが言うように、自分の首に書き込まれた呪いの文様が回復魔法の効果を妨げているのだろうか。
確かに回復魔法使い放題では、殺し合い前提のこの街において使える人間が圧倒的に有利だ。
使うタイミング次第では傷一つ負わずに永遠に戦っていられることも可能な力である。
これを封じると理由は…おそらく手っ取り早く死亡者を稼ぐためだ。
どうしてそこまでして自分たちに殺し合いを強要するのか謎である。
だが、考えを巡らせている内にレイコは一つの結論に達した。
ひょっとしたら…いや、おそらく。
「どうした。止めを刺す気になったのか?」
少年が、別のことを考えているレイコに向かって、ぶっきらぼうにそう言い、
レイコは一瞬動きを止めそうになった。自分の意思とは真逆のことを言われたからだ。
別にこうやって甲斐甲斐しく手当てをしてあげることで逃げ出すチャンスや、ましてや殺すチャンスを探しているわけではない。
ただ、怪我をしている人間を放っておくことが出来なかったのだ。
殺されかかったライドウを救うためとは言え、鳴海が本当に矢を当てるとは思っていなかった。
自分の考えは、やはり甘いのだろうか。
だけど、たった今自分の中に出てきた可能性を信じるなら、無意味な殺し合いを続ける必要は無いのだ。
「終わりましたよ。」
何とか傷が塞がり、レイコは顔を上げると額の汗を拭い、眼鏡のずれを直した。
一息付くと、かなり強い脱力感に襲われたが、ここで倒れるわけには行かない。
「敵の傷を治して、どういうつもりか聞かせてもらおうか。」
少年は振り返ると、静かにそう聞いてきた。
「敵…ですか。私が貴方に対してそう思っていなかったとしても?」
「君の仲間を殺そうとした。これだけでは敵になる理由にならないのか?」
「何故、葛葉さんを…彼だけを狙ったのか教えてください。
本当に勝つことが目的なら、武装している男の人ではなく、最初に私のような手ぶらの女を狙うのが道理でしょう。
だけど貴方の狙いは葛葉さんだけだった。鳴海さんと…私には一切眼をくれず。」
驚いた。この少女は先ほどの混乱の中、ちゃんと冷静に状況を観察していたのである。女性というのはいつでも侮れない存在だ。
この少女に嘘をついてもすぐに見抜かれるだろう。正直に話すことにした。
「あの男は…」
少年は地面に置いていた剣を取り、厳しい視線でそれを見つめながら語った。
「俺の大切な人を殺した。それだけだ。」
その言葉を聞いたレイコは、口をぽかんと開き、眼を丸くした。あの温和なライドウが、とても信じられない話だった。
「そ…そんな…それは何かの…」
言いかけた所で言葉に詰まる。
昨晩ライドウが突然飛び出し、今朝になって帰って来た時に血みどろになっていたのを思い出したからだ。


昨日はライドウに一体何があったのか…。何故か聞いてはいけない雰囲気がして、レイコも鳴海も詳しい事情には眼を瞑った。
だが、本人は無傷であったのにも関わらず、全身が真っ赤に染まっていたのは普通ではない。
どうひいき目に考えても返り血にしか見えなかったのである。
レイコの頭を、今までで自分の知っているライドウが反芻する。

魔神皇の説得は危険だからと何度も説得するライドウ。
不安で冷えきった手を、不器用ながらも暖かく握ってくれたライドウ。
ピアスの少年…目の前にいる彼が奇襲を仕掛けてきた時、真っ先に自分を庇ってくれたライドウ。

そして、彼の大切な人の命を奪ったというライドウ―――。

あまりにも噛み合わなかった。しかし、何か予測のつかない事故で血を浴びることになったのなら、どうしてそれを話してくれないのだろう。
ライドウのことは信用したい。だけど、それには彼を知らなさ過ぎる。彼は何故黙っているのか。
もしかしたら本当に……。
レイコは、いつの間にか自分が疑心暗鬼に駆られていることに気付いてはっとした。
自分から信用できないのかと怒っておいて、今のこの有様は何なのだろう。
「君は何かの間違いだと言いたいみたいだな。
だが俺は見たんだ。あの黒マントの男が…無抵抗な彼女から包丁を奪って冷酷に刺し殺す所を。」
強い怒りと悲しみを押し殺しながら語る少年を、レイコは否定しようとしたが、言葉が見つからなかった。
一度浮かび上がった不信感はなかなか拭いきれない。
頭では違うと言い聞かせているのに、何故か心の底では解ってくれない。そんな自分が苛立たしかった。
「だから、俺が彼女の仇を討つ。それから先は…また考えるさ。」
立ち上がる少年を、レイコは止めた。
「待って。彼を追うなら私も連れて行ってください。」
「……。」
無言だが、不思議な吸引力のある瞳をこちらに向けていた。
だがその吸い込まれそうな眼が、今は必死で自分を拒否しているのだ。
「君の仲間を君の目の前で殺すつもりなんだぞ、俺は。」
「彼は…そのことは何かの間違いです…。」
自分で言いながら、どこまでが本当なのか確信が持てない。つくづく自分が厭な女だと、胸の奥が痛む。
だけど、ライドウを見捨てる程、彼を突き放せないことも嘘ではないのだ。
「…だから、私もついて行って、自分が納得出来るまで…あの人と話がしたいんです。」
「…まぁ、いいだろう。だが俺は俺であいつを今度こそ斬り捨てる。それは覚悟していてもらうぞ。」
「……。」
レイコは、ライドウが握ってくれた自分の手に眼を落としながらこっくりと頷いた。
そうすることしか出来なかった。今の自分に彼を止める資格など無いことを、彼女は彼女なりによく解っていたのだ。



【赤根沢レイコ(if…)】
状態 やや疲弊
武器 無し
道具 ?
現在地 蓮華台に向かう山道
行動方針 魔神皇を説得 ライドウたちを探す ゲームからの脱出

【藤堂尚也(ピアスの少年・異聞録ペルソナ)】
状態 正常
武器 ロングソード
道具 ?
ペルソナ ヴィシュヌ
現在地 同上
行動方針 葛葉ライドウを倒し、園村麻希の仇をうつ

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