女神転生バトルロワイヤルまとめ
第35話 裏と裏と表の話

塚本新は名簿を眺めながら、定期放送に耳を傾けていた。
淡々と死亡者を告げるその声に、そして自分自身に苛々する。
リーダーに瞳(当然、ネミッサもだ)が無事なことに安堵するが、素直に喜べないのが現状だ。
この呪殺の縛めを持ったまま生きていられるのは、誰かが誰かを殺したからに他ならない。
延命、そのための犠牲、そして生き延びられたことにほっとする自分がどこかにいる。
哀れな犠牲者の名前に印を付けて、新は乱暴に名簿をしまい込んだ。

「……まずは怪我をどうにかしないとなあ」
撃たれた左肩には、即席の包帯を巻いただけの応急処置。
不幸なことに、ザックの中に傷薬やそれに類するものは入っていなかった。
入っていたのは作業用のハサミ(これは武器に使うものなのか、道具なのかは分からない)に、物反鏡が一つだけ。
もし不意に襲われて、相手が刀や銃を持っていた場合、この鏡を使えばどうにかなるだろう。
しかし、いくら生き残るためとは言え、人間相手に怪我をさせるのは……
「あんま見たくねえな……」
目の前で血飛沫が上がるを見て、気分がいいと言えるのは悪魔か狂人くらいだ。

さて、どうするべきか。
まずは傷薬を手に入れる。基本だ、このままでは左肩が動かない。
傷口を洗い流すために水をいくらか使ってしまった。飲み水の確保もしなければ。
それからハサミだけでは心許ない、せめて長物でも持っておきたい――
問題は山積みだ、これらが手に入る場所はどこにある?

新はザックから地図を引っ張り出すと、地面に広げた。
今いる場所は、アラヤ神社東に位置する道路のどこか。遠くに学校が見える。
学校に保健室は必ずあるだろうし、長物だって簡単に見つかるだろう。
上手くいけば、生徒が触れられないようなアブナイ薬品も手に入る。
…………。
「誰でも考えつくよなー、もう荒らされたあとだったりしてなー」
いやもしかしたら皆そう思い、学校には誰も寄りついていないんじゃないか?
いやいややはり裏をかいて誰かが潜伏し、獲物がくるのを待ち構えているのでは?
いやいやいやその裏の裏をかいて……ああもう訳分からん!!

「あー……俺のノルン、モトにジードちゃーん……GUMPが恋しいぜー……」
などと嘆いても仕方ない、無いものは仕方ないのだ。
仲魔がいないことが、こんなにも心細いものだとは思わなかった。
魔法はおろかまともな治療さえままならない――なんて脆弱なんだ、人間ってやつは!
(余談だが、新がこの場を去った十数分後、現在のGUMPの持ち主らが神社に訪れる。現実とは非情なものだ)

傷を負ったピュアなハート(自称)に鞭打って、新は地図をしまって立ち上がる。
目的地は決まった。学校は止めよう。止めた方が無難だ。
裏の裏で表だった、なんて当たり前の論理が通用しないゲームだ。
あんな目立つ建物に、誰も興味を示さないわけがない!
それよりも少し歩いて、その辺の民家から布でも掻払った方が安全だ。
このゲームが始まった時に没収されていなければ、薬箱の一つも簡単に見つかるはず。

「よっし、行くか!」
右手にハサミとザックを担ぎ、左肩になるべく負担をかけないようにして、新はゆっくりと歩を進める。
「ああ……銃の一つや二つでも置いてないかなあ。弾はなくてもいいからさあ」
民家にあるものなど限られていると言うのに、淡い期待を抱きながら。



【塚本新(主人公・ソウルハッカーズ)】
状態:銃創による左肩負傷・応急手当済み(ただし左手が動かせない)
武器:作業用のハサミ
道具:物反鏡×1
現在位置:蓮華台・アラヤ神社より東の道路
行動指針:蓮華台の民家で家捜し、スプーキーズとの合流

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