女神転生バトルロワイヤルまとめ
第37話 ママノタカラモノ

ライドウと鳴海が打ち合わせた通りに移動しているなら、予定通り蓮華台の七姉妹学園に向かっている。
そう踏んでピアスの少年こと藤堂尚也と赤根沢レイコはそれを追うルートを選んだ。
だが、藤堂がこのまま山道を行くことに異論を唱えた。
「このまま見通しの悪い山道を行くのはあまり感心出来ない。」
「でも…」
あの二人と全く逆のことを言う尚也に反論しようとしたが、彼の方が先に言葉を紡いだ。
「さっきのことを忘れたわけじゃないだろう。
もし…木陰に隠れて奇襲してくる奴らがいたらどうだ。俺のようにな。厄介だろう?」
「……。」
自嘲気味に発する言葉は重く、レイコには何と答えればいいのか見当が付かなかった。
「大体山を通るルートはかなり迂回することになる。一度下山して道路を歩いた方が近いはずだ。それに…。」
「それに?」
尚也はくるりと後ろを向いた。まるで自分の顔をレイコの視線から隠すように。
「此処を降りたらすぐに夢崎区だ。あそこは商店や、食べ物屋が沢山あるからな。
お前、腹が減ってるんじゃないのか? その、顔色悪いぞ。」
レイコにとっては心外な、気遣いとも言える言葉を発しながらちらりとこちらに向けた尚也の眼は、
先の戦っている時が嘘のように優しく、レイコは複雑だった。

誰にも会わないように慎重な足取りで下山し、スマル市最大の繁華街である夢崎区に二人は降り立った。
普通なら、平和ならば、此処は昼夜関係なく、娯楽を求める若者で賑わっているはずなのだが、
自分たち以外の人影が全く無い街の姿は恐ろしく非現実的に映った。
しかも余ほど大急ぎで住民を追い出したのだろう。無人だというのに立ち並んだ商店のシャッターは殆どが開いたままである。
まるで映画や漫画で描かれる世紀末だ。恐怖の魔王が光臨し、人々を瞬時に焼き尽くした―――。
しばらく進んだ所で二人は夢崎区に来て初めて動くものを見た。
それは道路の脇で黒い塊がごわごわと蠢いているのである。その中の一つが鎌首を持ち上げ、「ぎゃー」と鳴いた。
「!」
レイコはそれが何なのかを悟った時、声を上げそうになった。尚也も戦慄している様子だ。
カラスが三羽、死んだ人間の肉を啄ばんでいたのである。
白いラインの入った黒のセーラー服を着た金髪の少女の死体は既に目玉と唇が無く、顔の肉や、露出した白い脚も多くが食い散らかされていた。
「酷い…こんなことが…。」
「…そこで待ってろ。」
尚也がそう言い、さり気なくレイコの腕を引いて、少女の死体とカラスが見えないように後ろ向きで立たせた。
そして彼はしばらく死体の周辺を探索し、少女が投げ出していた鞄を抱えて戻ると、その中からコルトライトニングを取り出し、ズボンのベルトに差し込んだ。
このダブルアクションの拳銃はおそらく少女の支給品だったのだろうが、一発も撃った形跡が無い。
だがそんなことよりも…。
「…これで解っただろう。あんな風になりたく無ければもう甘いことは考えないことだ。」
尚也は感情の無い声でそう言うと、脚が震えて止まらないレイコを置いて先に進んだ。


夢崎区の外れに位置する商店街、夢崎センター街の入り口近くにあるファーストフード店「ピースダイナー」に二人は入った。
尚也はそこで、レイコに席に座っているように言い、自分は勝手にカウンターの中から適当にバーガー類をいくつか持ってくると、一つをレイコに渡した。
それは当たり前だがとっくに冷えてカチカチになってしまっている上、先ほどの惨状をまともに見てしまったレイコにはとても食べる気にはなれなかったが、
前の席に座った尚也は構わず包み紙を剥がすと口にし始めた。
あれから二人は会話をしなかった。
何も言葉が浮かんで来ないのだ。
さっきの女の子、年は自分と同じくらいだろうか。顔は既に判別が付かない状態だったが、色が抜けるように白く、美しい金髪から、きっと白人種の外国人なのだろう。
本来なら周囲の日本人から羨望の眼差しで観られるように美しいであろう少女が、一体誰にやられたというのか…。
その上、そのまま放置され、無残にもカラスなんかに食べられて…。
自分があの少女だったら耐えられない。死んでも死に切れないだろう。それくらい強烈にレイコの眼に焼きついた。
尚也が装備した銃は、彼女の物であろう鞄の中にまだ納まっていた。
と、言うことは、彼女は一発も撃つこと無く誰かに殺されてしまった。いや、ひょっとすると自分と同じように戦う意思が無かったのかもしれない。
そんな少女が殺されてしまうなんて。これも尚也に言わせると、そういう女だから真っ先に殺されたということなのだが…。
「食べないのか?」
バーガーを一つ平らげ、二つ目に手を掛けようとする尚也に、レイコは眉間に皺を寄せた。
「よくそんなに食べれますね。関心します。」
尚也の無神経な行動に対し、レイコなりの厭味のつもりだった。だが、本心でもある。
彼はさっきのことを何とも思わなかったのだろうか。
「食べれる時に食べておかなければこの先どうなるか解らないだろう。だからお前も…」
「貴方は何も思わないんですか!? さっきの人のことを!」
レイコは力いっぱいテーブルを叩き、立ち上がった。テーブルの上に置いている残ったバーガーや丸められた包み紙が跳ね上がる。
水の入ったペットボトルが倒れ、尚也が慌てて起こした。水道が止まってるのだから水は大切に、ですか。
その冷静な仕草も、レイコの怒りを増長させる役割を大いに果たした。
「少しは、少しは殺された人のことを考えたらどうです? 貴方だって大切な人が殺されたんだから、気持ちは解るはずでしょう!?
なのに貴方は…!」
レイコの感情に任せた言葉を遮るように尚也は立ち上がると、「ちょっとトイレに行ってくる。」とだけ言って店の奥に立ち去ってしまった。
「!!」
これだけ言ってもまだ…! 後ろから思いっきり罵倒しようと思ったが、何もかも無駄に思えてレイコは席に座りなおした。

あれから随分時間が経った。レイコは腕時計を見ると、すでに十五分は過ぎている。用を足すにしては少し長いような気がしてきた。
それとも、彼はよっぽど長い間我慢していたのか?
だが慎重派である尚也がそんなに長い間出てこないのは不自然なような気がして、レイコは呼びに行くことにした。
店の奥にある男子トイレの出入り口のドアが半分開いていたのでレイコはそこから呼びかけた。
「藤堂さ…――」
だが、途中で止めた。中から、小さな嗚咽が聞こえてきたのである。
勝手に覗くのはデリカシーが無いとも思ったが、レイコは気付かれないように少しだけ顔を覗き込んだ。
中では、洗面台の前でうずくまった尚也が手にしている何かを見つめ、小さく震えていた。
「園村…俺は……」
尚也が手にしているのは女物の白いコンパクトであった。細い鎖が繋がっているが、それは無残にも半分で千切れ、頼りなくぶら下がっている。
「あいつは…あいつは絶対に許さない……俺が…。
……これが、終わったら…そしたら…お前の所に、すぐに行くから………。」
その言葉を耳にし、レイコは心臓を杭のような物で打ちつけられたような気がして立ち尽くした。
「あ…」
すぐ傍に人がいる気配に気付いたのだろう。眼にいっぱいの涙を溜めた尚也がこちらに振り返り、レイコとまともに眼が合ってしまった。
尚也は慌てて潤んだ眼を学生服の袖口で拭い、コンパクトをポケットにしまうと、何事も無かったかのようにレイコの横を通り抜けた。
何も出来ずに見送った彼の後姿は、さっきまで見ていた粗野で横暴なそれではなく、
まるで子供のように小さく、砕けてしまいそうに見えた。



【赤根沢レイコ(if…)】
状態 やや疲弊
武器 無し
道具 ?
現在地 夢崎区
行動方針 魔神皇を説得 ライドウたちを探す ゲームからの脱出

【藤堂尚也(ピアスの少年・異聞録ペルソナ)】
状態 正常
武器 ロングソード コルトライトニング
道具 ?
ペルソナ ヴィシュヌ
現在地 夢崎区
行動方針 葛葉ライドウを倒し、園村麻希の仇を討つつもりだが、その後は…

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