女神転生バトルロワイヤルまとめ
第39話 生き残ってみせる!

「彼」はひたすら走った。
それは恐怖の為。
それは死神から逃れたい為。
なによりも生き残る為。
しかし「彼」は決して弱いわけでは無いのだ。
走りながらも無意識のうちに遭遇した無数の悪魔を一撃で、そうたった一撃の撲殺で殲滅し続けている。

「彼」は廊下を階段に向かって無我夢中で走った。
−下に向かっては「敵」に待ち伏せされる可能性が高い−
そう本能が「彼」に命令したのかもしれない
あえて階段を上がった。そこは三階である。
そして今度は反対側の階段に向かってひたすら走り抜ける。
反響する足音。しかしあの「敵」……「人修羅」の一筋の光明すら許さない漆黒……ドス黒いような闇の気配は無い。
さすがの「彼」も息が上がり始めた。こんなに走った記憶は「彼」には思い出せない。
三階の中間地点に位置する教室の出入り口が開いていた。思わずそこに滑り込む。


呼吸が上手く出来ない。
喉が水分補給を訴える。
走ったせいでもあろうが、おそらくは「人修羅」と名乗る「悪魔」(そう「悪魔」だと自ら名乗ったのだ)と戦ったからであろう。
思わずザックからペットボトルに入っていた水を取り出し一気に飲みきってしまった。
ふと気付く。
ザックを二つ持っていた。
−邪魔だ−
思わず二つあるうちの、一つのザックの口を開け開口部を下に向けた。
ザックの中身が重力の力に負け全て落下する。若干の音と共に。
焦燥の為でもあろう確認もせずにその全てをもう一つのザックに押し込めた。ザックはその全ての持ち物を飲み込んでいく。
そのような状況化においてですら「彼」の脳は生き残る為の策を思考し続けた。
−この生き残り戦争がいつまで継続するかそれこそ神のみぞ(否、悪魔か?)知るところ……−
−傷を負ったらどうするか?−
−食料の確保はどうするか?−
−水の確保はできるのか?−
−武器の確保は十分か?−
−何よりあの「人修羅」に遭遇しないようにするにはどう行動すべきか?−
ここは学園であるという事を「彼」は思い出した。
そう、彼は武器等を調達する為にこの学園に再度侵入を試みたのだ。
若干冷静な思考が出来るようになってきた為、彼は地図を広げる。現在位置を把握する為だ。
蓮華台。
そう呼ばれる土地である。
このスマルと呼ばれる都市のほぼ中心、それもこの七姉妹学園はその蓮華台のほぼ中心に位置する。
言わばスマル市の中間連絡地点とでも言うべき場所であり、蓮華台はこの殺戮劇に参加「させられた」人間が通過する可能性が高いと言う事だ。
ぬかった。
「彼」あの時はこの学園に行ってみるのがベターだと思った。基本的に武器調達の為である。
結果として「彼」は確かに武器を入手した。だが恐るべき相手がこの学園に潜んでいたのだ。


一刻も早く逃げ出したかった。しかしすぐに行動を起こしてしまっては腹を空かせた死の淵が口を開けて待っている様な気がしてならなかった。
思わず背筋に冷や汗。
そして同時に尿意を感じた。
先程の空腹感もそうであるが「彼」自身の身体は正常に機能していると思って間違いない。
思わず苦笑。そして考える。しかし尿意が彼を焦りへと向かわせる。
学園内という空間の為か彼は思わずトイレ……もちろん男子用である……へと向かっていった。
トイレに向かう途中、焦らせる尿意に抵抗しつつ先程の様には走り出す事無く彼は足を進めた。
恐怖もあったが小用をすませる途中で殺されては笑うにも笑えない。
トイレがあった。ダメだ……もう我慢できない!
思わず駆け込み、焦りの根源であるそれを済ませる事を試みる。
運が良い事に処理中「人修羅」と遭遇する事はなかった。
処理の最中にも思考は進む。
−「あいつ」や「奴」はどうしているだろう……−
−あいつらの事だ、生き残ってもしかしたら合流しているのかもしれない。合流してるなら「あいつ」の事だ、上手くやっているのかもしれないな−
−仮に……仮にだ、「あいつ」に遭遇したら「あいつ」はどう俺に対応するのだろう?−
−友好的に話しかけてくるのか?あるいは威圧的に話しかけてくるのか?もしかしたら俺に戦いを挑むのか?−
そうこうするうち処理が終了。
ズボンのジッパーを上げる。
安堵感からか思わず便器の上にあるボタンを押下する「彼」。
流れる水、そして音。
音による危険性を感じた「彼」であったが、同時に水道が「生きて」いる事を「彼」は確認できた。
とりあえず水の確保は可能なようだ……と安心した「彼」は先程の教室にザックを忘れてきてしまった事に気付く。
兎に角、一旦戻りザックを回収せねばなるまい……そう思った彼は先程の教室に戻る。
運良くザックはそのままの状態で放置されていた。「彼」はザックを再度入手する事が出来た。
先程飲み干してしまったペットボトルを手に持つ。そして考える。
水道が生きているならば公園や民家でも水は確保できる。最悪トイレの水でも構わない。少なくともこの学園では補給が可能だ。不潔な水を飲む可能性は低くなる。
一つ安心できる要素が増えた。「彼」は若干安心する。そして近場にあった廊下の水道口から水を静かに補給した。
教室に戻り、ふと顔を上げた。時計を見やるともうじき六時になる所だった。
ルールが適用されるならば死亡者通知がされる時間帯。太陽は東の方向から頭を覗かせている。……地球上の(少なくとも日本の)法則から言えば現在は午前であるはずだ。
嘘であって欲しい。
と、彼は心から祈った。もしかしたら「祈った」行動は「彼」が生まれてから初めてなのかもしれない。

時計の短針が六時を示した。
教室には必ずあるといってもいいスピーカーから異音が発生した。
イヤな予感がする……
スピーカーからは絶望への招待状。死亡者の通知が行われたのだ。
告げられた死亡者の中には少なくとも一人には記憶があった。
「人修羅」が自ら殺したと言う尊敬していた女の名前がその中にあったのだ。
心の中でかすかに懇願していた想いが完全に打ち砕ける。
嘘ではないのだ。少なくとも主催者は確実に存在し、この殺し合いを観戦している。
虚脱感……しかし生き残ってやると言う気持ちは変わらない。そんな「彼」に睡魔が奇襲をかけてきた……



「彼」はふと我にかえる。いつの間にか寝てしまったらしい。時計が示す時刻はは七時を若干過ぎていた。
太陽はまだ東。と言うことはまだ午前である筈。
寝ている間に殺されなかった……
多少の安堵、そして生き残ると言う目的。
それを思う事で「彼」の脳は生き残る為の思考を再開する。若干ではあるものの睡眠をとった為か、より明確に思考が行われた。
医務室はあるのではないのか?
そこで傷薬等の類は入手できる事は可能ではないか?
学園内に購買は存在しないのか?
保存状態にもよるが食料の補給は可能ではないのか?
用務員に関連した部屋は存在しないのか?
武器として転用できる道具があるのではないのか?
運動部関連の部室は無いのだろうか?
もしかしたら防具または武器として流用できる物があるのではないのだろうか?
「人修羅」にはもう遭遇したくない。少なくとも現状では戦ってもこちらが死ぬ可能性が遥かに高い。
ざっと浮かんだのはこの五点。次に優先順位を決める。
自分は回復魔法の類は持っていない。傷を負った際の処置は重要だ。
手持ちの食料がいつまでも持つとは限らない。最悪、インスタント食品でも構わないのだ。湯を沸かす事は可能なのだから。
とりあえず近接武器の入手は完了した……と思ってよい。しかし他にも予備があれば心強い。しかし防具は欲しい。
……決めた。
向かう場所の順番は、医務室が最優先。そして部室を捜索、次に用務員がいると思われる場所、あれば購買関係の部屋。そして学園からの脱出。
あまり時間を掛ける事は出来ない。「人修羅」には遭遇したくないからだ。
しかし仮に「人修羅」がまだ徘徊してるとするならばあの足音とドス黒いような闇の気配がするに違いない。
「彼」はすっと息を吸うと気合を入れる。そして静かに教室から廊下へと足を踏み出した……

……結果から言おう。
医務室にて応急処置用の薬箱も入手出来た。これで簡単かもしれないが軽傷であれば治療は出来るだろう。
運動部関連の部室からは防具に代用できる物も発見できた。が、戦闘時の動きに阻害が発生すると思われたので装備を断念した。
用務員室があった。目に付くものは無かったものの蝋燭と縄を入手した。暗い場所や敵を封じる場合(相手にもよるだろうが)には使えるだろう。(元々の運用方法を考察する事はあえて止めた)
購買関連の部屋はあった。そこで若干の食料と十徳ナイフを入手した。これで缶詰等を入手した際、苦労する事なく摂取が可能。
時刻は七時半を過ぎた所だった。しかしまだ八時には至らない。四〇〜四五分といった所か。
……そろそろ脱出すべきだな……
「彼」はそう思い学園を後にする……
「彼」は「人修羅」に出会う事無く学園からの脱出に成功した。
出来ればこの一日、誰にも遭遇したくない。「彼」は思った。
他の誰かが潰しあいをしていて欲しい。「彼」はそうも思った。
勿論、それは考えが甘かった。
学園を脱出したその後、「彼」は「人修羅」とは異なる人間に遭遇するのである。
「悪魔」は今だ「彼」に飽きる事無く興味を持ち続けているのだった……



【カオス・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:正常
武器:銃(経緯から狙撃が可能?):斧に似た鈍器入手(刃は無い模様)
道具:カーボライナー(弾丸:追加効果STONE):学園内にて三発消費
   高尾祐子のザック所持の中身(詳細不明、尚高尾裕子が所持していたザックその物は破棄)
   応急処置用の薬箱
   蝋燭&縄
   十徳ナイフ及び若干の食料を確保
現在地:七姉妹学園内→蓮華台
行動方針:なんとしてでも生き残る術を求める。

【移動時刻】
七時半以降〜八時前(四〇〜四五分と思われる)

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