女神転生バトルロワイヤルまとめ
第42話 鎮魂歌

まだ暗い闇の中、少年は木々に囲まれた場所で土を掘っていた。
傍らには2体の死者が月光を受け、端正だったろう顔立ちを見せ、横たわっている。
「どうして死ななきゃいけなかったんだ――。」

今から2時間前、事は起きた。
死のゲームが宣告され、少年は青葉区の商店が立ち並ぶその近くへと転送されていた。
右も左もわからないその場所で、また大きな決断をしなければいけないのかと憂鬱になりながら、商店の中へと姿を隠した。
今外へ留まれば、この宣告に乗った参加者に見つかって戦わなければいけなくなるかもしれない。
――殺しはゲームの中だけで十分なのに。
  まぁそのゲームから悪魔が出てきたんだから、あの冒険だってゲームみたいなものか。
不思議な納得をしながら少年は手にしていたザックの中身を広げてみた。

弓形に湾曲した剣、何かに使うのだろう丸く小さいもの、水、食料…。
(本当に武器が入ってる。折角家に帰ったのに、またこういうの、持たないとダメなのか)
大きくひとつため息をつき、湾曲した剣を握り締める。

家に戻り、COMPの中身を確認したのは覚えている。
そのときにはもう誰もリストに入っていなかったよな。
ルシファーの命で魔界へ還ったのかと思ったけど、このために戻されたのかもしれない。
考えあぐねた末、また一つ大きなため息をついた。

そうしているうちに、夜の闇は次第に薄れ始めた。
少しずつ外の様子が見て取れる。
あからさまに自分の住んでいた世界とは全く異なる文明の街。
ゲームが始まる時に集められた場所で聞いた言葉は日本語だったから、
ここに集められた人たちにも言葉は通じるんだろう。
張り紙も『ヒットポイント回復するなら 傷薬と宝玉で』とある。
これはどうみても日本語だ。
交渉すれば理解してもらえるかもしれない。話し合えば――。
その言葉が終わる前に、外の様子が突然騒がしくなった。
(あの声は…人だ!悪魔じゃない。)
声色からみて、女性。人数は二人だろう。
普段なら仲裁に入るかもしれない。でも、今出て行けば逆に…。
仲魔を使役できない分戦力は落ちているのは確かだ。
攻撃されれば身を守れるかどうかわからない。
女性は守ってあげたい。でももし強く、攻撃をかけられたら…。
思考が同道巡りになる。

そのときだ。
「うっ…」
低い声が聞こえ、少年は驚きのあまり、身を隠していた事すら忘れ、
戸口の隙間から外を垣間見た。
一人の女性が包丁を赤く染め、もう一人は今まさに倒れようとしていた。
これはどう見ても包丁を持った女性が刺したに違いない。
血だ。本当に殺し合いをしている。
今出て行けば、彼女のテンションはきっと壊れて戦いになる。
(だめだ、今は出て行けない。)
包丁を握った女性が、ふらりとこちらへ足を向けてている。
静かな街に、彼女らとは別の足音が響く。
学帽を被り、マントを羽織っているのだろう人影。
(――第3者が絡んでいるのか?)
学帽の人影は、包丁の彼女へと脇差に手を掛け歩み寄る。
(ヤツが包丁の女性を殺すのだろうか?)
だが、声は女の方から先に発せられ、刺してしまった謝罪を繰り返す。
学帽の人影は、まだ彼女の元へと至っていない。
「ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
包丁の女の声が響く。学帽の人影は手をかざす。
あの人影は殺しに行こうとしたんじゃない。自分にはできなかった事…止めに入ったんだ!
目の前で繰り広げられる、惨劇。
のど笛のつぶれる鈍い音、学帽の人影は鮮やかな赤に染められていく…。
――自殺。
どうして…。
もう、見ていられない。
少年は覗いていた戸口の隙間をそっと閉めた。
立ち去る足音。まもなくしてまた響く足音。
そしてそれは、感嘆の声を上げ、しばらく後に足音をたて、その音は消えていった。

沈黙。
もう外には誰もいない。
誰だかわからない女性が二人、すぐそばで死んだ。
このまま放っておくことは、彼の良心が許さなかった――。



(彼女らが別の機会に出会っていたら。)
少年は、商店から拝借してきたスコップで、穴を掘りながら考えていた。
生きるために殺すまでは理解できる。
だが、何故自ら死を選ばなくてはいけなかったんだ…。
女性二人が納まる程の穴がようやく空き、彼女らの上着を脱がせてから中へと収め、
掘り返したばかりのやわらかい土を、そっとかけた。
二人が眠るその場所へ、彼女らの上着をかけ、少年は手を組み祈った。
彼女らの宗教が違うかもしれないが、自分ができる精一杯の供養。
日の光は空へと昇り、女性二人の墓を光で満たす。

主催者の声が響く。

きっとあの名前の中に、彼女らの名前も入っていたんだろうな――。
少年は長い祈りを続けながら天から降り注ぐように聞こえてくる声を聞いていた。
(どうか、安らかに――。もう殺しあうことのない幸福を二人が得られますように。)
祈りを終え、目を開き、組んでいた手をはずそうとしたその時、
少年の胸に熱い何かが突き刺さり、土の下に眠る女性の墓標としている上着を赤く染めた。



【主人公(旧2)】
状態 重症。胸を貫かれている
武器 円月刀
道具 何か丸いもの スコップ
現在地 青葉区空き地
行動指針 まだ考えていない

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