女神転生バトルロワイヤルまとめ
第44話 作戦会議

「…ちょっと少ないな。まあ、これから頑張ってくれたまえ」
死亡者が発表され、放送が終わった。
「たった3時間でこれだけの死亡者がいて少ないだと?ふざけるな!」
克哉は警察署の受付机を拳でドンと叩く。
「英理子さん…大丈夫ですか?」
弓子は心配そうにロビーの長椅子に座る英理子の顔を覗き込む。
放送された名前を聞いてから、英理子の様子がおかしい。
「そんな…Makiが…」
「…まさか、知っている人間がいたのか?」
ゴウトも英理子に近寄る。
「え…ええ、元の世界の同級生で、一緒に戦った仲間ですわ…」
園村麻紀。
その心の闇に付け込まれて御影町の異変を引き起こした張本人。
しかし、最後には自分の闇をも受け入れて、みんなを救ってくれた。
これからだったのに。
病弱だった時にはできなかった普通の高校生活。友人と笑いあったり、恋をしたり、夢を追ったり。
このゲームはそんな未来すらも簡単に奪ってしまったというのか。
そんな権利は誰にも無いはずなのに…。
「そうか…」
「…園村君は、僕達の世界でも協力してくれた。カウンセラーを目指す、心優しい女性だったよ」
克哉が哀しげに呟く。
「そう…。きっと、自分と同じような痛みを抱く人を救いたいと思ったのでしょうね…彼女らしいですわ。」
英理子はうつむき、その目尻から一筋の涙がこぼれた。
克哉達にはかける言葉が見つからず、沈黙が流れる。
短時間で二人もの友人を失い、自身も命の危険にさらされたのだ。一人の少女が受けとめるには、あまりに重い。
「I'm Okay.大丈夫です。彼女達のためにも、生きなければ。さあ、話の続きをしましょう。」
気丈に顔を上げる。悲しみを消すことはできないが、落ち込んではいられない。とにかく、前に進まなければ。

まずは、克哉と英理子が自身の世界について語り、知っている参加者を指示する。
御影町が異界と化したセベクスキャンダル。
噂が現実になる珠間瑠市、人を殺す呪いJOKERの噂。
「桐島君は3年前から来たということか…おそらくリサ君は僕のいたのと同じ世界、時代の人間だろうな…」
「あの…Mr周防。この、Tatsuyaというのは、本当にあなたのBrother…?」
「そうだが…達哉を知っているのか?」
「ええ…例のLisaの片思いの相手が、彼だったはずですわ…」
(「達哉はすっごく強くてかっこいいんだ!クールで、学校でもみんなの憧れなの!それにね…」)
リサの言葉を思い出す。とにかく彼女の彼を想う気持ちの強さはよく伝わった。
「そうか…あいつは、学校のこととか何も話してくれなくてね。そんなに想ってくれる人がいたとは、あいつは幸せ者だな」
克哉は顔を曇らせる。
「その年齢で、学校や恋愛のことまで兄弟に語るという方が珍しいと思うが…」ゴウトが呆れたように言う。
「…そう思うか?ゴウト。しかし、昔は仲が良かったんだ…それなのに…。特に最近のあいつは家にも帰らず…最近の若者というのは普通ああなのか?」
ゴウトに迫る克哉。
「い、いや、お前達の世界の最近を俺にきかれても困るが…それよりほら、次は弓子の話を聞こう。」
「あ…私ですか?わかりました。」
弓子は語った。悪魔召喚プログラムによる地上への悪魔進出と、中島と弓子の悪魔達との戦い。
「プログラム理論と魔術に関する知識の融合か…昔の自分ならとても信じられなかっただろうな…」
次々に信じがたい話を聞き、ようやく耐性もついてきたようだ。
「でも、それだけ知識のあるAkemiなら脱出のためのいいideaを持っているかもしれませんわ」英理子が明るく言う。
弓子の話し振りから、弓子と朱実の深い絆が感じられた。きっと彼女も彼のことを心配しているだろう。
そう、「彼」とまだ会えていない英理子と同様に…
「ええ…そうですね。中島君なら力を貸してくれるはずです」
中島のことを思うと、少し胸が痛んだ。無事でいるだろうか?
いや…きっと大丈夫。器としては不十分とはいえイザナギ神の転生後の姿であり、あれだけ壮絶な戦いを乗り越えてきた彼なのだから…


「さて…次は俺の番だな。」
大正の世、帝都東京。デビルサマナーたる葛葉一族、超力兵団計画…
「どうだ、なかなかの大活劇だろう?」得意げに胸を張るゴウト。
「…………」唖然とする3人。
「どうした?何か疑問があるのか?」
反応不満だったらしく、顔をしかめる。
「い、いや…その…どこまでが本当なんだ?」
「何を言う!全て一点の曇りなく真実だ。俺にしてみれば、お前達の話の方がよほど荒唐無稽だぞ」
未来の日本があんなことになっているとは。ライドウの語っていた未来の姿とは少々違ったので、別の世界だと考えることにした。
「そう言われると…反論できませんわね」
「大正時代の、しかも存在しない年から来た喋る猫か…もう滅亡した後の世界から来たとでも言われない限り驚かないよ」
克哉がうなだれる。

「それで、これからの方針だが…やはり人を集めることが大切だろう。ただ、ゲームに乗っている人間もいるから、気を付けなければ…」
「解っているのは英理子が遭遇した千晶という異形の女と、俺達に襲い掛かってきた魔神皇と名乗る小僧か。死者の数からすると、まだ他にもいると考えるべきだな」
「逆に僕らのように反主催者の立場の人が他にもいればいいんだが…」
「反主催者…そういえば」
英理子が夢崎区を離れ、逃走する途中。七姉妹学園が見えたので、蓮華台を通る途中だったろう。
―殺し合う必要なんてないはずだ
―力を合わせればきっと、全員で生き残る方法も見つかる。
逃げるのに全神経を集中させていた英理子には断片的にしか聞き取れなかったが、確かに殺し合いの中止を呼び掛ける声。
しかしその声も、銃声によってかき消されてしまった。
「そうか…僕達の他にもいるのだな。無事でいてくれるといいが…」
撃たれたくだりでは顔を曇らせたものの、克哉の声は明るい。


「克哉と弓子には聞こえなかったのか?俺はこの近くにいたが、はっきり聞こえたぞ。」
ヒトに比べ強力な聴力を持つゴウトに、拡声器を使った呼び掛けが聞こえないはずもなかった。
もっとも、それを聞いたゴウトは馬鹿なことをするものだと呆れていたのだが。
「猫は人間の5、6倍聴力がいいからな。とても可愛らしいし…このゲームにおいてその姿は、都合がよかったんじゃないか?」
「ん?ああ…まあな。俺にはお前達のような刻印も無いし、自由は効く。」
ゴウト以外の3人の鎖骨付近に刻まれた死の刻印。これを解除しない限り、脱出やゲーム自体の破壊は不可能といえる。
「かなり高度な呪いのようだな…強い魔力を持った者でなければ解呪は難しいだろう」
「それが出来るぐらいの高位の悪魔を仲魔にできればいいんですが…」
そう言いながらも、弓子の頭の中からは別の考えが離れない。
(イザナミの力を借りられれば…)
しかし、どうやって呼び出せばいいかわからない。変に期待を抱かせては悪いので、克哉達には黙っておいた。
「Mr周防、Filemonなら何か分からないかしら?」
「ふぃれもん…お前達にペルソナという力を与えた存在か」
人間の意識の総体と言える普遍的無意識の化身であり、自我の導き手フィレモン。
「ああ…彼なら何とかできるかもしれないな。だが、会う方法が分からない。呼べば答えるような便利な存在ならよかったのだが…」
なかなか決定的な対策が見つからず、話も行き詰まる
「ゴウトはどうだ?何か案はないか?」
「うむ…刻印については分からんが、脱出の方法ならないこともない。」
生霊送りの秘術による脱出。かつてライドウと共にパラレルワールドに迷い込んだとき、脱出のために使った方法だ。
「ただしそれには強大なエネルギーが必要だ。主催者も馬鹿じゃない、天津金木のような宝具が支給されてるとは思えんな…
この都市を浮かしている動力はかなり大きい。利用できれば何とかなるかもしれん。克哉、何か知らないか?」
「いや、わからないな。僕のいた珠間瑠は浮かんでいなかった。」
「………」
やはり、話が行き詰まる。


「でも、これだけ案は出たんです。それぞれの仲間を集めたらかなりの人数になると思うし、何とかなりますよ。」
「そうだな、悩んでいてもしょうがない。となると、次の移動先だが…」
キュルルル…
間の抜けた音がした。
「あ…ごめんなさい」弓子が腹を押さえ、顔を紅らめる。
「…出発の前に腹ごしらえをしたほうがいいな。ここにも非常食や菓子のたぐいはある。
その後は…そうだな、無線などが使えるか確かめたい。その間君たちは仮眠をとっていてほしい。夜勤用の寝具を出しておくよ。」
先程からの英理子達の様子を見ての判断だ。
特に英理子の疲労は大きいようで、このままでは戦闘はおろか長距離を歩くのもままならないだろう。
「でも…早くみんなを探した方がいいのでは?」
自分への気遣いを察してか、英理子はおずおずと発言する。
「仲間を探したい気持ちはわかるが、俺は克哉に賛成だ。正直、青葉区からずっと逃げてきて疲れた。
疲労の為に戦えずに殺されては元も子もない。休めるうちに休んでおいた方がいいだろう。」
弓子も賛成と言うようにうなずく。
「決まり…だな。では、出発は正午にしよう」
署内にあったカップ麺や菓子、支給された食料を前に並べ、食事をとる一行。
早めに食べおわり、克哉は食事風景を眺める。
彼は、署に戻ってきてからずっと自らの内面と葛藤していた。
押さえがたい欲望。それは心の中に渦巻き、欲望を満たせと駆り立てる。
常に冷静を装う彼は必死にそれを押し殺していた。
しかし、それも限界を迎えようとしていた。


「あの…ゴウト?」
「なんだ?」
食事を終え、手で顔を洗っていたゴウトが克哉を見る。
「そ…その、僕にも少し…触らせてくれないか?」
「は?」
「あ、いや、嫌ならいいんだが…」
「断る。弓子や英理子はいいが、男のおまえに触られても嬉しくない」
実際、話の間ゴウトは女性陣の膝の上にいたり、首元を撫でられたりして気持ち良さそうにしていた。
冷酷に拒絶したゴウトだが、明らかに落胆の表情を浮かべる克哉を見て少し可哀相になったのか、
「…少しだけだぞ」
克哉の傍に寄る。克哉の表情は一転して輝き、嬉々としてゴウトを抱き上げた。
抱き上げた瞬間、克哉の眼が赤く染まり、涙が溢れる。
そして大きな音が響いた。

「刑事さん…猫アレルギーなんですか?」
眼の充血、涙、くしゃみ。典型的なアレルギーの症状である。
「き…貴様!それで俺に触ろうとするとは、何を考えている!」
くしゃみの瞬間素早く飛び退いて難を逃れたゴウトが吠える。
「す、すまない…本当の猫ではないと言ったから、大丈夫かと思って…」
受付にあるテイッシュで鼻をかみつつ、バツの悪そうな克哉。
「確かに中身は違うが、体自体は本物だ、馬鹿者!」
見ていた少女達はこらえきれずに吹き出した。


「ふう…」
非常電源が使えるため無線は生きてはいるが、どこも応答しなかった。
市内では無線のある場所が限られているため、当然の結果と言える。
ロビーに戻ると少女達と子猫が安らかな寝息を立てていた。
この極限な状況で、消耗は激しかっただろう。どうか、今だけはゆっくりと休んでほしい。
見張りの為、自分まで寝るわけにはいかない。デスクにあったコーヒーを淹れて一息つく。
(天野君…達哉…)
ただ無事を願う。再会を果たし、皆で一緒に帰るのだ。
(そう、なんとしても…)
コーヒーに砂糖を加える。これから訪れる過酷な運命を乗り切るため、今は休息を味わおう。



【周防克哉(ペルソナ2罰)】
状態 正常
降魔ペルソナ ヘリオス
所持品 拳銃 防弾チョッキ 鎮静剤
行動方針 主催者の逮捕 参加者の保護
現在地 港南警察署

【桐島英理子(女神異聞録ペルソナ)】
状態 疲労(仮眠により回復中)
降魔ペルソナ ニケー
所持品 拳銃 防弾チョッキ
行動方針 仲間との合流 ゲームからの脱出
現在地 港南警察署

【白鷺弓子(旧女神転生1)】
状態 やや疲労(仮眠により回復中)
仲魔 ミズチ
所持品 アームターミナル MAG2000 拳銃 防弾チョッキ
行動方針 中島朱実との合流 ゲームからの脱出

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