女神転生バトルロワイヤルまとめ
第49話 「宿敵」と書いて「とも」と呼ぶ

目の前に白壁が美しい、三階建ての校舎が佇んでいる。
建物の中心部の上下に、この学園の校章であるプレアデス星団をモチーフにした七つの星があしらわれた大きな時計台と、
アールヌーボーを基調とした設計の昇降口があった。
校舎の周りは意識して緑を取り入れた造りで、運動場にも、それをぐるりと囲むように花壇が置かれている。
此処は蓮華台の七姉妹学園だ。レイコと尚也はその校門の前で佇んでいた。
平和な時だったら、その美麗とも言える外観の校舎に、感嘆の溜息の一つでも漏らしていたのかもしれない。
自分たちはあの山から下山し、夢崎区を通過するルートを選んで此処までやって来た。
その間に多少の寄り道はしたものの、他の参加者に出会わなかったお陰で(死体には出くわしたが)あれから一時間程度しか経ってはいない。
もしも予定通りに事が進んでいたら、先ほど逸れてしまったライドウと鳴海の二人もこちらに向かっているはずだ。
だが、その二人はまだ此処には到着していないようだ。
彼らは、当初の打ち合わせ通りに山を迂回する道順で此処を目指しているのだろうか。
だとしたら…。

レイコは何故か奇妙な胸騒ぎがした。
あの二人は、今まさにとても恐ろしい眼に遭っているのではないだろうか。
そして、まさにその場には絶対に自分が必要だったのではないか。
そんな予感がしたが、今更後戻りが出来ないのも事実だ。
何しろ自分は今、自分から進んでなったとは言え、横にいる藤堂尚也の人質という立場なのだから。
夢崎区のファーストフード店から出た後、二人に会話は無かった。
尚也も何も話してくれないし、レイコの方からも、彼に何と言って声を掛けていいのか解らなかった。
実にばつの悪い空気が二人の間に満ち溢れている。重いと言っても過言ではない。
そんな空気だった。


「少し移動しませんか? こんな目立つ所に立っていたら危険だと思います。」
二人の間の重い沈黙を先に破ったのはレイコだった。
自分たちは確かに此処で人を待っているのだが、此処は道の真ん中に近い。
つい数日前まで、人の住んでいた形跡のある街中だから隠れる場所には事欠かないとは言え、目立つことには違い無かった。
本当は、自分だってずっと此処で待っていたい。
そんな気持ちも大きかったが、反対に、ライドウにはもう会わない方が良いのではないのかという思いもあった。
尚也は、今度こそライドウを殺すつもりでいるのだ。
そして自分がそれを止めることが出来るのか、正直今のレイコには自信が無い。
本当は、殺し合いなんてする必要は無い。だけど、尚也は…。
あのコンパクトの持ち主と尚也はどういう関係だったのだろうか。
横にいる本人にはとても聞くことが出来なくて、詳しいことは何一つ解らないが、とても大切な人だったのだろう。
自分と、魔神皇――狭間偉出夫と同じように。
コンパクトの持ち主は、――尚也の見たことを信じるなら、ライドウに殺されたという。
だが、その仇を彼に討たせてはいけない。
自分にとって、出会ったばかりだがライドウはとても大切な存在だから失うのは悲しいことだし、何よりその後尚也はどうするつもりなのか。
レイコはその先を考えないようにした。
だが、考えないようにすればする程胸が痛む。
自分が何をすれば一番良い解決方法になるのか、その答えは出ないが、兎に角尚也とライドウを再び巡り会わせるわけには行かないのであった。


「そうだな。近くの民家に隠れることにしよう。だが…。」
レイコの言葉に、しばし考えたような素振りを見せ、それから答えた尚也だったが、視線は全く別の所を向いていた。
彼の視線は鋭く、七姉妹学園の校舎とは反対へ向かっていた。
「藤堂さん…?」
「俺たちが背を向けるのを待っているのなら無駄だ。出て来い。話をしよう。」
校舎に誰かが潜んでいるというのか。レイコは一瞬身構えたが、同時に少し安心した。
尚也はその相手と戦うのではなく、「話をしよう」と持ちかけてくれたからだ。
すると、グラウンドの脇に植林された針葉樹の陰から、一人の少年が顔を出した。
短く刈った髪で、都市迷彩のロングコートを着ている。
ぱっと見は随分悪ぶっている雰囲気のスタイルだが、彼が掛けている眼鏡が鋭い双眸を知的に見せていた。
少年は、腰に拳銃をぶら下げていた。
だから尚也はとっさに自分も先ほど拾ったコルトライトニングに手を掛けようとしたが、それよりも先に少年は軽く両手を挙げた。
「交渉なんだろ?」
「…両手を挙げたままもう少し近くに来てくれ。こっちの銃は安全装置が掛かったままだ。他の仲間もいない。」
やや間を置いて、少年は尚也に従った。近くで見ると少しやつれているように見える。
口元は感情を出さないように真一文字に結われているが、額に汗が滲んでおり、顔色も決して良いとは言えなかった。
そして、彼は近い時間の内によほど恐ろしい何かを見たのだろう。眼が血走っていた。
「このゲームには随分と変わり者が多いんだな。お前も、ルールはちゃんと解った上で交渉を持ちかけているんだろ?」
少年は、尚也とレイコに二メートル先まで近づいてからそう言い、口元を左右非対称に歪ませるシニカルな笑みを浮かべた。
「解っているからこそ見逃して欲しいんだ。」
「どういう事だ?」
「こちらに、君と戦う意思は無い、ということだ。」
言って尚也はレイコに視線を向けた。レイコの方も勿論それに同意して頷いた。それを見た少年は、ゆっくりとだが、挙げていた両手を下ろした。
「見逃して欲しいということは、徒党を組むつもりも無いんだな?」
「ああ。この女の子は理由あって俺が一時的に預かっているだけだからな。最終的には、独りでやるつもりだよ。」
少年は尚也の言葉に意味が解らないというように首を傾げた。だが、レイコの方はもっと複雑な心境だ。
「お前、生き残るつもりが無いのか?」
「勿論…生き残りたい、という気持ちを捨てたと言えば嘘になる。だけど…もう、俺には生きる理由が無いんだ。」
「……。」
尚也の言っている内容は、はたから聞けばおよそどっちつかずな答えだ。
ある程度の事情を知っているレイコの胸の痛みは増していくばかりだが、少年は少し苛立ってきたようで、腕を組み、ブーツの爪先を鳴らしてた。
「解らないな。理由が無いだと? 
ならばどうして強くなろうとしない。強くなれば自分の生きる理由くらい見つけられるだろう。力があれば…俺にだって…。」
「強くたって、何かを守る理由が無ければそれはただの飾りに過ぎないんじゃないか?
俺には、その理由が無い。守るものが無ければ強くなる理由も必要ないじゃないか。
いや、それどころか…人間が生きている理由だって。
例えば…君にもそういうものがあるのか?」
「……。」
少年は押し黙った。彼の言葉の中から彼は強さや力に多大な拘りを見せているようだったが、改めてその理由を聞かれたことが無かったのだろう。


少し考えるように俯いていたが、顔を上げた。その表情は暗い炎が灯ったとでも言えば丁度いい表現になるだろうか。
「俺は、全てを見返したい。俺を今までゴミのように扱った全ての連中にな。
だから、俺にとってこのゲームはむしろ好都合なんだよ。
周りは全員敵。此処から出る為には戦って、戦って、戦い抜いて、最後の一人になるしかない。
解りやすくて大いに結構だ。
つまり、勝つには此処に来てる連中の中で一番強くなるということなんだからな。だから俺は負けるつもりなんてさらさら無いね。
生き残って、最後の一人になって世界中を見返してやるんだ。絶対にな!」
最初は静かに語っていたが、言葉は徐々に熱を持ち始めた。そして自分の決意を改めて固めるような最後の言葉は殆ど叫んでいるような言い方だった。
尚也は、少年の熱い魂の叫びとも呼べる言葉に笑みを漏らした。
だがそれを見た少年は少しむっとした表情を浮かべる。馬鹿にされたと勘違いしたのだろう。
尚也はすぐに表情を元に戻した。
「そうか。君には誰かを守ること意外で強くなる理由を見つけたんだね。俺は…少し羨ましいよ。
俺も君くらい純粋だったら、少しは違っていたのかもしれない。
このくだらないゲームの中でも、大切な何かを見つけられたかもしれない。
けど…もう遅いんだ。
全てが遅すぎるから、俺にはもう…。」
「お前が何か守るものが無ければ強くなれない…それはよく解った。
だったら何故お前はさっきからその女の前に立ちはだかっている? その女は…お前の何なんだ。」
「……さっきも言っただろう。この子は預かっているだけだ。いずれ、元の場所に返すさ…。」
レイコはどきりとした。尚也は、一体どういうつもりなのだろうか。
ライドウを自分の手で倒すという決意は固いはずだ。それは彼の眼が強く物語っている。それなのに、元の場所に返すとは…?
レイコの内に秘めた疑問に彼は答えない。おそらく、永遠に答えてはくれないだろう。
少年は、尚也に向かって、再びあのシニカルな笑みを浮かべると、腰に差している銃を抜き、レイコに向かって照準を合わせた。
「――ッ!」
尚也も咄嗟に銃を抜き、レイコを庇うように自分の真後ろに寄せた。
だが、少年は撃たなかった。撃たずにそのまま銃口を下ろすと、ついに笑い声を漏らした。
「くくく、それでいいんじゃないのか? お前が強くなる理由は。」
「どういう事だ!?」
「そんなこと自分で考えろ。」
少年は吐き捨てた。それから銃をまたコートの内側に差し込む。それから初めて尚也から眼を逸らした。
「もう少し頭のいい奴だったら俺の仲間に入れて利用してやろうとも思ってたんだが…。
それどころか今は殺す価値も無い阿呆だな。
おしゃべりも飽きてきた所だ。用事が無いならもう行くぞ。」
少年はそう言って校門の前に立っている尚也とレイコの横を通り抜けた。
「待て。」
そのままの体勢で、振り返りもせずに尚也は彼を呼び止めた。少年が立ち止まると、尚也は勢いよく振り返り、びしりと彼に人差し指を差した。
「少し、理由を考える。
……解るまで俺は死なない。絶対に生き延びる。だから、この疑問が晴れるまでお前に死ぬことは許さないからな。
そうしたら…俺と戦え! いいな!」
その言葉を聞いて、少年はついに声を上げて笑った。つられて尚也の顔にも笑みが浮かぶ。レイコだけはてんで意味が解らないといった表情だった。
「はははははっ、そう来たか。いいだろう。その挑戦は受けてやる。
だがその時俺は今よりもっと強くなっているぞ、お前なんか足元にも及ばないくらいにな!」
「望むところだ!」
二人はこの殺伐とした状況にも関わらず、非常に楽しそうだった。レイコには何故か解らなかったが。
やがて少年が立ち去った後も、尚也の表情はしばらくの間、晴れ晴れとしたものであった。
最終的には殺しあうということを言っているのに、何故そんなに明るく笑いあうことが出来るのだろうか。
どんなに考えを巡らせても、レイコの頭では理解することが出来なかった。
ただ、あの少年と尚也――。
彼らの出会いがこんな悲惨で非常識な状況の場でさえ無ければ、無二の親友になれたのではないのか。
そう思うと、少し残念だった。



【赤根沢レイコ(if…)】
状態 やや疲弊
武器 無し
道具 ?
現在地 同上
行動方針 魔神皇を説得 ライドウたちを探す ゲームからの脱出

【藤堂尚也(ピアスの少年・異聞録ペルソナ)】
状態 正常
武器 ロングソード
道具 ?
ペルソナ ヴィシュヌ
現在地 同上
行動方針 葛葉ライドウを倒し、園村麻希の仇をうつ カオスヒーローとの再戦

【カオス・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:正常
武器:銃(経緯から狙撃が可能?):斧に似た鈍器入手(刃は無い模様)
道具:カーボライナー(弾丸:追加効果STONE):学園内にて三発消費
道具:高尾祐子のザック(中身未確認の為不明)
現在地:蓮華台
行動方針:なんとしてでも生き残る術を求める。 藤堂尚也との再戦

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