女神転生バトルロワイヤルまとめ
第57話 迫る危機

――何か、禍々しいものが近くに存在している。
美しい金に輝く髪をなびかせ、立ち止まっている少女は
目を細め、その発せられる気配を探った。
天から降り注いだ死亡者報告の声に、知っている者の名前はいなかった。
――彼は、生きている。
早く探さなければ。
少女の動きは素早かった。焦燥に駆られながらも、しかし冷静に。
身にまとうローブを翻し、日の光に照らされ、朝露に光る地面を踏みしめて。

走り出したその先に感じるのは、二人。
禍々しい気を発する者と、細く消え行こうとする者。
感じたことのある一人の気配。
きっとそうに違いない。彼だ。
笑い声があたりに木霊する。
ビルに反射し、聞こえてくるその声の方向は、北西。
木立をすり抜け立ち並ぶビルの隙間を縫うようにして駆け抜けた。


金髪の少女がその地にたどり着いた時、
もう決着が付こうかとしていたところだった。
異形の者の姿、天使を従者としている少女が、血にまみれた少年をいたぶっている。
高まる笑い声。
抵抗力がなく、だらりと地へ伏している少年。

――彼だ。
その体からは鮮血ではない赤い光が異形の少女へと吸い込まれていくのが見える。

――いけない。命が絶たれてしまう!
再びその戦いの地へ走り出す。
金髪の少女の口から紡ぎだされる言葉が、彼女の手の内を白く染めていく。
その言葉を発する息さえも、白く変化していく。
片手を前へ大きく突き出し、異形の者たちと天使の形をした従者へ向けて少年を掠めるように力を放った。
「マハブフーラ!!」
魔力は異形の従者を氷漬けにする。
従者は絶叫を上げ、その場に氷の彫刻と成り果て、
主である異形の少女は足を固められ、動けなくなっていた。
敵陣に放った魔力は少年を掠めて行ったため、同時に少年をも凍結していく。
ローブを纏った金髪の美しい少女は、少年の元へと駆け寄り、歌うように声を発した。
「少年!私の言うことを信じて、その場で眠りなさい!」

金髪の少女が放った少年への魔力の一部は、彼の生命活動を一時的に冬眠状態に近づけるためだった。
「遅…いよ――魔…女――。」
吐く息が白くなりながら、少年は魔女と呼ばれた四人目の少女へあたった。
――間に合った。
だが彼の意識が残っているうちに、早くこの場を収めなければ、彼は次の日没で名前を呼ばれてしまう。
それでも少年はまだ何かを魔女へと告げようとしていた。

「僕――さ…、今日・・・は……女…性…に…
 好か・・・れ…てる――み…たい…ッ…なんだ…よ…ね――」

少年の混濁して行く意識の中、少女へ向けた言葉には、まだ暢気さが伺えた。
魔女は言った。少年を抱き起こし、包み込むような暖かさをもって。
「そんな軽口叩けるなら平気なようね。今はただ、黙って眠りなさい。まだ私の言葉を信じられない?」
少年は柔らかな笑みを浮かべ、瞳を閉じて魔女を見つめながら首を横へ振った。
魔女は少年の傷をローブで抑えながら、すっと立ち上がる。
少年の体重がふいに重くなった。
意識が途切れた証拠だ。
急がなければ、今は一刻も早く彼を安全な場所へ、ここではない別の場所へ移動しなければ――。
彼の命はもうあとどれほど持つか分からないのだから。

千晶は捕らえられた足元を振りほどこうと、足を動かすが、
動く気配がみられなかった。
見事なまでの冷気。まさかこんな少女に獲物を横取りされるとは。
だが、彼女は慌ててなどいなかった。
「少しは抵抗してくれたほうが、いたぶり甲斐があるってものよ。」
そう、彼女はただ、嬉しかっただけだ。
自分が本気で手を出せる相手に廻り合えたことの喜びが、体に満ち溢れ、
間に入ったこの魔女へ向けて一撃を繰り出してもまだ遊べるという歓喜が声にもれた。

「まだ、まだ向かってきてくれるんでしょ?もうやめたりしないんでしょ!?早くおいでよッ!」
魔女はすっと立ち上がった。
少年をその手に抱え、小刻みに口を動かしながら。

「あははははははッ!!そうよ、それでいいのよ。あはははははははッ!!!」
上体を仰け反り、歓喜の声と共に放たれる一撃は、少女の前を掠め、
氷の彫刻となった従者へと食い込んだ。
彫刻は透き通った音と共に崩れ去り、氷の粒がその場を輝かせる。

「ふふっ。やるじゃない。…でもね、あなたは次の一撃で――」
声を発した少女の足元で固まっていた氷は粉砕され、千晶に自由を許している。
自由を得たその声に、魔女は手を額へと押し当てた。
額に当てたその手から光が漏れる。
光は次第に広がり、魔女と少年を包み込む。

「死ぬのよッ!!」
千晶の声と共に異形の片腕が再び魔女へ向けて放たれる。
刹那、魔女は宣言した。
「トラスタルトッ!!!」
異形の少女の腕は空を切り、二人はその場から掻き消えた――。

「ふん。小賢しいわね。…また逃げられるなんて、あたしもどうかしてるのかしら。」
まだ溶けぬ氷の彫刻へ向けて、振り下ろされる主の一撃は、氷を見事なまでに雪へと変えた。
雪は、高く昇り行く朝の光に照らされて、赤い光を放ちながら消えていく。
千晶はぶっきらぼうにつぶやいた。
「―――つまらないわ。」
彼女はくるりと向きを変え、その場を一人で立ち去った。
向かう場所はどこでもいい。
「もっと――もっと骨のある、私が本気になれる相手はいないの?」
人が集まる場所なら必ず獲物はやってくる。
焦らなくてもいい。
退屈を紛らわせてくれる、誰かもきっと、通りかかるはずだ。
獲物はまだ、沢山残っているのだから。



<午前6時半頃>
【主人公(旧2)】
状態:瀕死
武器:円月刀
道具:スコップ他
現在地:青葉区空き地より転送
行動指針:まだ特に考えていない

【東京タワーの魔女(旧2)】
状態:正常。(トラスタルト、マハブフーラ各一回使用)
現在地:青葉区空き地より転送
行動指針:主人公の救済

【橘千晶(真女神転生3)】
状態:片腕損傷(軽微)
仲魔:なし(アークエンジェル、ドミニオン消失)
現在地:青葉区空き地より移動開始
行動方針:皆殺し

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