女神転生バトルロワイヤルまとめ
第58話 混沌、彷徨う

「僕」はフードに覆われていた頭を露出させてザックから地図を取り出した。その地図を広げる。
ここは受胎後のトウキョウではない。スマル市と呼ばれた地だ。
スマル市には海もある、山もある。成る程、人間が住むにはとても条件が揃ってるのかもしれない。
最初に降り立った地は蓮華台と呼ばれた場所。丁度スマル市の中心に存在するような感じだ。
そこから「僕」は南下するような形で移動した。
今は港南区と呼ばれる場所に「僕」はいる。
歩く事を中断、しばし考える。
移動する前に響いた、あの放送がこの異常な世界が現実である事を「僕」に再認識させる結果になった。
天より、全ての者たちに威圧感を与える声……
「諸君、夜の闇は去った。定刻である」
「我が元へ参った魂の名を告げる。名は一度しか言わぬ。心して聴くがよい……」
そして告げられた運の悪い犠牲者の名前。
「新田勇」
「反谷孝志」
「リサ・シルバーマン」
「秦野久美子」
「園村麻希」
「上田知香」
「サトミタダシ」
「高尾祐子」
「白川由美」
「フトミミ」
「ヒロコ」
以上の十一名。確認のために参加者リストを見る。死んだ参加者の名が告げられる度、本当に参加者リストにあった人名の上に斜線が刻まれていった。
自らの手で殺害した先生の名前が告げられた。この点で「僕」はルールは決定的な物と確信した。
七姉妹学園で出会ったあの男の名前もその知人達の名前も出なかった。


そして意外な名前がでた。
新田勇。
「僕」のクラスメイト「だった」人間だ。
それについては特に感想は無い。
受胎前の世界でも今この瞬間の時間にしか興味を抱かず、ボルテクス界でも他人の力を利用する事で己の理成就を画策した男。
もしかしたら同じような事を目論んで逆襲にでもあったか……まぁそんな所だろう。
そしてフトミミ。
トウキョウのアサクサにて、いわば人間モドキの存在であったマネカタと言う連中のリーダー的存在だった者。
彼もこの世界に呼び込まれてるとは正直意外だった。
ボルテクス界でのフトミミは「僕」に協力を呼びかけてきた。
末路はあっけないものだった。「僕」が千晶が召喚した大天使達との戦闘中に千晶本人に殺される。
その後に仲魔として召喚できるようになったが……今となってはどうでもいいことだ。
思考を切り替える。
威圧感を与える声は跳梁跋扈する悪魔の力が強くなるとも言っていた。つまりは遭遇する悪魔が強くなるという事だろう。
個体数が減るとも言っていた。悪魔にもこのルールが若干適用されているのかもしれない。弱肉強食、これはボルテクス界でもこの世界でも変わらない絶対的な掟。
運悪く悪魔の手にかかる人間が増える可能性が高まるかもしれない……と言う事だ。
まだまだ死んだ数が少ないとも言っていた。主催者側からすればここがつまらない点なんだろう。もっともっと殺しあえと要は言っているのだ。
ざまぁ見ろ……と、小さく笑う。
そう簡単に主催者側の都合のいい様に振り回されてたまるか……と「僕」は思った。
ボルテクス界となったトウキョウで「僕」は文字通り必死の思いで足掻い続けた。
それをそう簡単に無駄にされてはたまらない。
蓮華台から出立する前にスマル市としての「外観」は頭に叩き込んだ。
しかし各区の詳細は確認していない。
港南区の詳細を確認する為、再度地図を見る。
見たところ住宅が多いようだ。
これは警察署がこの区に存在しているからかもしれない。恐らく治安はいいのだろう。
シーサイドモールと呼ばれるショッピングモールがある。
ここでなら今後生き延びる為に必要な物資が揃っていそうだ。
後目につくのは曰くありげな廃工場と空の科学館……
「僕」が普通の人間であれば何処に行くだろう?と主観を変えてみる。
水と食料は必要不可欠だ。ショッピングモールに向かうだろう。
武器や防具の補充調達は必要だ。警察署にはそれなりに良い装備品は転がっているに違いない。
無人となった家屋はどうだろう?ある程度の備蓄用食料から鋏や包丁と言った武器になりうる類は入手できる可能性は高い。
……こんなところだろうか?
次に人が赴くであろう施設の優先順位を考える。
武器が欲しい者であればまず警察署……近接攻撃用の打撃武器や拳銃、ショットガンも発見できるかもしれない。防具も充実しているように思える。
今後を踏まえ食料確保する者がいればショッピングモールだろう。もしかしたら武器の変わりにもなるような物も発見できる可能性もある。
人との接触をできるだけ防ぐ事を考える人間なら無人家屋を狙うだろう。ここはマンション等も多いようだ。
部屋数が多いのなら何かしらの物は入手出来る可能性は高い。だが武器等を入手できる可能性は低くなる事が予想できる。
「僕」の今現在の状況を再確認する。
そうだ、傷は癒したものの銃撃には警戒が必要だ。これはさっきの交戦で判明した。後、勿論万能系魔法にも……そうすると何かしらの対策が必要になってくる。
生き残ってるうち、直接知ってるのは残り三人。間接的には三人。その計六人。
まだまだ情報が足りない、色々な意味で。
これが「僕」の本音だ。
魔法を使う者、悪魔を召喚する者。今現在判明しているのはこの二種に分類される人間。
未だ生存している千晶や氷川は悪魔を従がえているに違いない。
他の人間はどうだろう?それを知りたいのは事実でもある。
そんなさなか「何か」が「僕」の思考に割り込んできた。


――何ヲ考エテイル……るーるハ至極簡単ダ。オ前ハ強イ。遭遇シタ人間ヲ皆殺シニスレバイイダケダ。
そうかもしれない。
――尊敬シテイタ先生スラ、オ前ハ手ニカケタ……今更何ヲ考エル……
確かに「僕」は先生を手にかけた。そうだ、「僕」は悪魔になったんだ……身も心も。
同意する反面、何かが「僕」に囁いた。
「それでも彼方は死なないで。生き延びて、世界の末を見届けて…」
「僕」が手にかけた人間の最後の言葉……
そしてそれを打ち消すように割り込む「何か」。
――人トノ関ワリヲ避ケタカッタノデハナイノカ?心細イカ?身モ心モ悪魔ニナッタト言ウノハ偽リカ?ヤハリ所詮ハ人ノ子カ?
黙れ……
――ククク……ソレデハ勇ノ理ニ賛同シタ方ガ良カッタノデハナイカ?
――オ前ハドノ勢力ニモ加担セズ、全テヲ潰シ真ノ悪魔トナッタ。悪魔達ノアノ歓喜ニ溢レタ歓声ヲ忘レタ訳デハアルマイ?
そうさ、あの時は心が震えた……それは今でも忘れてはいない。
その時だった、背後から「あの時」を回想させる様に「僕」の背後に存在する闇の気配が歓声を上げる。
同時に無意識の内に力が漲る。「僕」の双眸が赤くそして鋭く輝く……
その状況に加速をかける様に背後に存在する闇の気配が己の欲望を露にする。
人間を喰わせろ……
人間達に恐怖を与えろ……
我々にも血に酔う機会を与えろ……
それに助長する様に響く声。
――殺セ、殺セ、殺セ、殺セ、殺シ尽クセ。生キ残レバオ前ノ勝チナノダ。
徐々に賛同する「僕」の心理。
そうなのだ、参加者全員を殺し尽くせばこの莫迦らしいゲームは終わる。そして「僕」の望みが叶う。
手っ取り早く言えばだ……
遭遇する可能性の高い場所に移動していけば良い。出会った人間をこの拳で粉砕すればいいだけなのだ。
水も食料も限られている。早めに参加者を発見し、殺していけば自動的に水や食料が手に入る。
何も苦労してモール等で食料や水を探す手間も省けるのだ。
面白い……
無意識のうちに僕の口元に笑みが浮かぶ。
だが、ボルテクス界で嫌と言う程思い知った「僕」の鉄則とも言うべき言葉が脳裏を過ぎ去る。


情報。
そうだ、と我に返る。自然に力が抜け「僕」の双眸が金色に戻った。
少なくとも二十時間弱は自由に行動できる。今までの行動からすれば主催者側のルールに誰も反してはいないのだろう。
なにかしら反した者がいたとするならば、今この場に「僕」はいない筈だ。
だとするならばもう少し情報を集めるのも良いのではないのだろうか?
忘れてはいけない事が一つある。
確かにこのスマルと言う都市の概要は把握した。
しかし、その詳細までは理解していない。確かに地図は存在する。だがいつも地図を眺めているわけにはいかない。
どのような施設が何処にあるのか、自らの足で確かめる必要がある。
戦闘になった場合、出来るだけ有利な場所で戦いたい。ボルテクス界での最終試練の様に「僕」だとて無敵ではないのだ。
そして参加者の関係……
協力関係を築いている者。
あるいは敵対している者。
そして「僕」の様に単独で行動している者。
様々な動きが「僕」の知らない場所で発生しているに違いない。
それを知るだけでも今後の指針になる筈だ。
出来るだけ接触は避けたいのは事実だが、誰かに接触しなければその情報を得る事は不可能だ。
「僕」が直接知る、あるいは知った人間、千晶、氷川、そしてあの男は単独行動をしている可能性は高い。
問題はその他の人間だ。その人間の動向を知る事は生き残る為の重要な指針になる。
冷静に思考を行いつつある「僕」に反発するが如く、背後に存在する闇の気配が強まってきた。
五月蝿い……冷静に考える事が出来ない……
「五月蝿い……黙れ」
今日何回この様な事を使役する仲魔に言っただろう。圧倒的な強者だからこそ許される冷徹、冷酷、そして簡潔かつ強制的な命令。
今回もまた背後に存在する闇の気配が静かになり、次第に薄まっていく。
これで冷静に考える事が出来る。
そうだ、考えれば蓮華台を出立する前にスマル市の情報を得よう。そう「僕」は思ったのだ。
それならば、区を一つ一つ回ってみるのも悪くはないのだ。
それからこのゲームに参加するのも悪くない。まずはこの港南区からだ。
そう判断した「僕」は再びフードを目深に被り歩を進み始めた。
行く場所は……あそこだ……



時間:8時半ごろ
【人修羅(主人公)(真・女神転生V-nocturne-)】
状態:正常
武器:素手(右ストレート:但し各スキル運用が想定される)
道具:煙幕弾(9個)
仲魔:アバドン(他色々)
現在位置:港南区内の施設進入を画策
行動指針:最終的には元の世界へ帰る

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