女神転生バトルロワイヤルまとめ
第61話 決意

それが聞こえてきたのは達哉がちょうど青葉公園を抜けたときだった。
公園を抜ける途中何度か悪魔と遭遇したが、幸い低級な悪魔しか出なかったため比較的簡単に撃退することができた。
「リサ…?」
驚愕の表情で天を仰ぐ。
有りえない。そんなことは有りえない。
強力なペルソナの加護を受けるリサがそう簡単に殺されるなど…
しかし、彼女の性格から自殺という可能性はそれ以上に少ないように思えた。となると、結論は一つ。
リサ以上の力を持った者がいる、それもゲームに乗っている者が。
死亡者の数は11人。すでに20%程度が殺されている。
その中にはリサの他にも知っている人がいた。
達哉やリサと同じ七姉妹学園の生徒であり、新聞部の活動で仕入れた数々の「噂」を提供してくれた上田知香
ヒトラー率いるラストバタリオンの侵攻で混乱する珠間瑠の街を守るために戦ってくれていたペルソナ使い園村麻希。
反谷校長は達哉達との戦いで死んだと思っていたため、復活して参加者にいたことの方が驚きだった。サトミタダシのことは…よく覚えていない
知人の死が次々と、それもいとも簡単に告げられて、ただ唖然とした。
精神的なショックを落ち着けようと思い、青葉公園付近にある民家に入る。
とにかく冷静になって主催者への対策や現在の状況について考える必要があった。
リビングのソファーに腰掛ける。膝の上で手を組み、額を乗せた姿勢。
「何故だ…何故、リサが…」
結局リサとの関係ははっきりしないままだった。
恋人とは言い難く、しかしただの先輩後輩の関係で片付られる程度の絆ではない。
彼女自身は分かり易すぎるほどに達哉への恋心を表に出していたが、人との関わりを拒絶していた彼にはそのストレートな感情をどうやって受けとめたらいいか分からず困惑していた。
ただ、これだけは言える。
大切な仲間だった。そう、彼女達を守るためなら自分の命を投げ出すことすら厭わない程の。
握る手に力が入る。爪が喰い込み、手の甲に血が滲む。
主催者への怒り、リサを殺した者への怒り、自分の無力さへの怒り…。
彼女を亡くした痛みを全て悲しみに変えてしまったら心が砕けてしまうから。
怒りでも、憎しみでもいい。生きる力、戦う力となる気持ちに昇華させる。
それは、無意識のうちに心を守る一種の防衛作用。
(これ以上はやらせない。絶対に…!)
今この時にもどこかで戦闘が行われて犠牲者が出ているのかもしれない。
決して、止まってはいられないのだ。


とりあえず、何らかの情報を得る必要がある。ザックを開いてリストとルールブックに軽く目を通す。
リストを見て、七姉妹学園にいた聖エルミンの制服を着た生徒達の多くに既視感を感じた理由が分かった。おそらくはその全員が、達哉にとっては3年前の御影町の異界化事件の関係者。
それも、学園での顔触れを考えると当時の年齢だろう。
時間と空間を越えて人を集める。そんな力を持つ者…「まさかこれも奴の仕業なのか…?」
這い寄る混沌ニャルラトホテプ。強い心を持つ者を導くフィレモンと対をなす、心の弱き者を奈落へ引きずり込む存在。
達哉達のいた世界の崩壊を引き起こした、すべての黒幕である。
(しかし、奴にこんなことが出来るなら何故あんな回りくどい手段を取った…?)
噂の現実化を行い、人々が無意識に抱く破滅の願望をかなえたニャルラトホテプ。
しかしあの時は実際に手を下すのではなく、噂という人々の無意識の表れを利用する必要があった。
直接に力を振るうこのゲームの主催者と同一人物とは考えにくい。
思考が行き詰まる。答えの出ない問いを繰り返すのは無意味だと気付き、考える内容を切り替える。
これからの方針と、脱出の方法。具体的な対策として考えがないわけではない。
珠間瑠の地下に位置する天翔る船、シバルバー。
もし"奴"が主催者ならばその最下層に腰を据えているだろうし、そうでなくとも人の思いを具現化する力を宿すあの場所こそがこの市で唯一脱出の可能性を秘めた場所のはずだ。
シバルバーへの侵入経路は一つ、蓮華台天の川。ボートによって川下りをする必要がある。
(力を貸してくれそうなのはエルミンの面々に舞耶姉、兄さんか…)
特に南条圭と桐島英理子は園村麻樹と同様以前にも力を貸してくれた。
あの正義感の強い兄も、こんなゲームを許すとは到底思えない。
「舞耶姉…」
彼女もまた達哉と同様あの放送を聞いて悲嘆にくれているだろう。早く合流して、無事を確かめたい。


方針は決まった。街を捜索して武器や防具を手に入れ、仲間を探しつつ蓮華台本丸公園を目指す。
その前に腹ごしらえをしようと思い、ザックから携帯食料を取出して簡単な食事を済ませる。
その後、心の中で軽く詫びを言ってから民家の中を漁る。(家宅侵入に窃盗。兄の嘆く声が聞こえた気がした)
ごく普通の調理用包丁。心許ない武器だがかつて日本刀を使っていた彼になら、人並み以上には扱えるだろう。
他に見つけた食料になりそうなものもザックに詰め込み、立ち上がる。
その目に宿るのは静かな、けれど強い決意。
朝の太陽は、柔らかくも暖かな光を珠間瑠に注いでいる。



一日目午前八時頃
【周防達哉(ペルソナ2罪)】
状態 正常
降魔ペルソナ アポロ
所持品 チューインソウル 宝玉 虫のようなもの
行動方針 仲間との合流 ゲームからの脱出
現在地 青葉区民家

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