女神転生バトルロワイアルまとめ
第65話 休息

取り付く島も無い・・・。
まさにそんな様子だった。
さっきまでここにいた彼ら、アレフとベスはもうここにはいない。
「あいつら・・・死ににいくつもりか!?」
伽耶が声を上げた。
「彼らだって戦闘経験が無いわけじゃないだろう、女の子のほうは魔法も使えるみたいだったし」
ヒーローは自分の体を見る。
先ほどのヒロコとの小競り合いで付いた多くの傷。
それらのほとんどが突っ込まされた店のガラス片による小さな傷のためベスの魔法でほぼ回復していた。
「移動しよう、今僕らがいっても邪魔になるだけだろう」
「しかし・・・」
「実を言うとさ、そろそろ体力的に限界なんだ・・・魔法で傷は癒えても、疲労はどうしてもね」
ヒーローにそう言われては伽耶に反論の余地は無い。
悪魔との交渉、ロウヒーロー、ヒロコ・・・きついことは全てヒーローがやってきたのだ。
伽耶とて疲れが無いわけではない。
いくら四十代目葛葉ライドウとはいえ体は16の少女なのだ。
本当の自分の体ならいざ知らずこれでは体力的に厳しい。
しかし伽耶・・・四十代目にとってこの事態は絶望と共に大きな希望でもあった。
センター設立に大きな影響力を持つザ・ヒーローと同盟関係を結べたのだ。
もし二人でなんとか脱出し、もとの世界にもどれれば自分の目標は達成される。
もともと命を懸けて過去に旅立った四十代目にとってこのゲームのリスクなどメリットに比べれば微細なものでしかなかった。
その希望が大道寺伽耶という少女の細い体に力を与える。
今この状況下においてザ・ヒーローは最大の希望だ。
「仕方が無い、青葉区に移動したら休むぞ・・今後のことも考えねばならんだろう」
伽耶の結論はこれ以外なかった。
現状最も大事なのはザ・ヒーローの生存なのだ。
「そうしてくれると助かるよ」
ヒーローは答える。
その顔にはうっすらと安堵の表情が見えた。
先ほどザ・ヒーローは限界と言ったが実はそうではない。
確かに疲れはあるが仮にも大破壊を生き抜き、神と悪魔を仲魔と共に切り伏せた英雄だ。
もう数回の戦闘なら耐えられるだろう。
ヒーローが今最も心配しているのは伽耶の体だった。
無論、女の子の体が心配だと言うのもある。
しかしそれだけではない。
また、ヒーローにとっても大道寺伽耶こと四十代目葛葉ライドウは希望なのだ。
彼女の術。
時間さえ超越すると言う秘術。
目下のところヒーローがつかんでいる脱出方法のアテはそれだけだ。
「・・・じゃ、いこうか」
「ああ」
二人にとってお互いは希望なのだ。
伽耶が死ねばヒーローに脱出する術は無い。
ヒーローが死ねば伽耶は目的が果たせない。
利害の一致。
聞こえは悪いがこの状況下ではもっとも信頼できる理由だった。
二人は歩き出す。
MAGの心配があるため徒歩だ。
これから街はどんどん明るくなる。
闇にまぎれて隠れることはできなくなる。
東に見える太陽はこれからの苦難を示しているような気がした。


青葉区――─
一度訪れたときはロウヒーローの襲撃を受け即離脱することになったビジネス街。
ヒーローと伽耶は適当なオフィスを見つけそこに隠れた。
「首尾よくこれたようだな」
使う人間がいなくなっても物は誰かが動かさぬ限りそこにあり続ける。
伽耶は転がっている椅子を拾い上げてそこに座る。
「ついてるよ、ここ水が出る・・・どこかで貯水してるみたいだね」
ザ・ヒーローが湯飲みを二つ持ってくる。
「・・・どうやってお湯を沸かしたんだ?」
「ここの給湯室はカセットコンロみたいでね、予備のガスもあったし・・・大分遅いけど食事にしよう」
「ああ、これからのことも考えなければな」
二人はザックから食料を出す。
簡易固形保存食・・・ぶっちゃけて言えば乾パンだ。
「さしあたっては水と食料だ・・・ここ、水が出ると言ったな、念のため煮沸していくらか持っていこう」
「そうだね、できればカセットコンロも持って行きたいけど・・・」
「止めておいたほうが無難だろうな、かさばりすぎる・・・いざとなれば民家を探せばコンロのひとつもあるだろう」
「そうだね・・・ん、久しぶりに食べる乾パンって意外と美味しいな・・・」
「私は初めて食べたぞ」
「僕も食べたのは大破壊前だよ」
「・・・どういうときに食べたんだ?」
「防災リュックに入ってたのを好奇心で・・・」
ちょっとした談笑、ヒーローも伽耶も同じ世界に生きていたものだ。
気を紛らわせる術は心得ている。
しかし長くそうしているわけにも行かない。
「さしあたっては天野舞耶の捜索だな」
すぐに二人はこれからのことを話し始めた。
「ああ、まぁそれはいいとして・・・せっかくだから今まで考えないようにしてたことも考えなくちゃな」
「・・・というと?」
「さし当たってはこの刻印だ、君の術で脱出中に呪い殺されましたじゃ洒落になってない」
「噂が現実になる・・・だったか?それを利用して解呪できるアイテムを作ったりできないか?」
「正直言って厳しいだろうね、いや仮にもとの町でPCのデータどおり噂が現実になっていたとしても・・・今もそうとは限らない」
「・・・私は残っていると思う」
伽耶がいった。


「理由は?」
「この街が浮いているからだ、噂を動力とするとするならこの街が浮いている限り効力はある・・・と考えられないか?」
「なるほど・・・しかし主催者側の考えからしてみれば脱出はさせたくないはずだ、噂が脱出に利用できるかどうか」
「・・・主催者の盲点を探すしかないと言うことか」
主催者は恐らく綿密に計画し、いろいろな時空を調べもっともおあつらえ向きなこのスマル市を選んだ。
恐らく主催者はこのスマル市のことをきっちり調べ上げている。
当然噂が現実になる・・・少なくともなっていたということも知っている。
ヒーロー達がここを脱出するためにはその主催者でさえ知りえなかった盲点を突くしかない。
それがどれだけ難しいことか・・・二人にわからないはずもなかった。
「まぁなんにせよ天野舞耶を探し出して詳しいことを効くまで推測の域は出ないね・・・」
そういうとヒーローは乾パンをかじりお茶を飲む。
行き詰った思考を中断させたかった。
「ふー・・・主催者、か・・・」
ため息と共にヒーローはつぶやく。
「誰なのか?なぜこんなことをするのか?そもそもどうやって異なる時空の人間を集めたのか?・・・疑問は尽きないな」
「誰が・・・といえば」
ヒーローの発言に呼応するように伽耶がしゃべりだす。
「あの女、ヒロコといったか・・・にネクロマをかけた奴だ」
実際問題ヒーロー達にとって最も近い危険はヒロコとネクロマの術者の存在だ。
ネクロマの術者は確実にゲームに乗っている。
少なくとも二人、ロウヒーローを入れれば三人殺しに来ている人間がいるのだ。
「可能性があるとすれば魔法が使える奴か、ネクロマ使いを仲魔にしてるやつ・・・で、ゲームに乗っているってところか」
「誰が魔法が使えて誰がCOMPを持っているのか解らない以上どうしようもない・・・か」
「アレフたちのことも心配だけど・・・さしあたって今はピクシーの連絡を待ちつつここから双眼鏡で道を眺めるくらいしかないかな」
「待ち、か・・・歯がゆいな」
「問題は山済みだね・・・戦力も欲しい、さっきのアレフたちやヒロインなんかと合流できればいいんだけど」
「ヒロイン?・・・ああ、聞いたことはあるな・・・かなりの魔法使いだったとか」
ヒーローはしまったと言う顔をした。
ヒーローはヒロインのことは極力考えないようにしていたのだ。
彼女は強い。
それはヒーローが一番よく知っていた。
もし万が一、ヒロコあたりに襲撃されたとしても逃げ切ることくらいは可能だろう。
もっとも危険なのはヒロインのことに気を取られすぎて自分をおろそかにすることだ。
そういう考えの下今まで出さなかったヒロインの名前。
それを話しの流れと気の緩みからうっかり出してしまったのだ。
「放送で名前は呼ばれてなかったから生きてはいると思うけど・・・探している余裕も無い、あいつなら大丈夫さ」
「・・・いいのか?」
「核ミサイルが落ちて三十年たっても会えたんだ、探さなくてもきっとどこかで会うさ・・・多分ね」
ザ・ヒーローは自分のパートナーを思い出していた。
心配する気持ちが無いはずがない、できることならばいち早く合流したい。
しかし今の自分達に余裕は無い。
彼女を探している余裕も・・・。
そう心に言い聞かせた。



【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:体中に切り傷 打撃によるダメージ 疲労
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み)
道具:マグネタイト8000 舞耶のノートパソコン 予備バッテリー×3 双眼鏡
仲魔:魔獣ケルベロスを始め7匹(ピクシーを召喚中)
現在地:青葉区オフィス街にて双眼鏡で監視しつつ休憩中
行動方針:天野舞耶を見つける 伽耶の術を利用し脱出 体力の回復  

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格 疲労
武器:スタンガン 包丁 鉄パイプ 手製の簡易封魔用管(但しまともに封魔するのは不可能、量産も無理)
道具:マグネタイト4500 双眼鏡
仲魔:霊鳥ホウオウ
現在地:同上
行動方針:天野舞耶を見つける ザ・ヒーローと共に脱出し、センターの支配する未来を変える 体力の回復

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