女神転生バトルロワイアルまとめ
第75話 戸惑いと上昇と

「キャー!痴漢!強盗!殺人鬼!たすけてー!」
「やめろ、近付くなッ!!」

人ならざる者たちの絶叫がこだまする。

此処は夢崎区。スマル市の北側に位置し、店が集中する繁華街 住民にとっては生活にはかかせないライフラインの一つだ。
同時に、娯楽施設も点在し、ひと時の心の安らぎを求める人たちでごったがえす地区でもあった

水、食料、武器、防具、回復剤。 参加者が求めるであろう物資は、この地区であれば一通り揃うのではないだろうか
故に参加者が多く集まる地区でもあり、それを恐れ近付かない者もいれば、危険を冒してでも物資の充実をはかる者もいる。

そうした過去の活気に満ち溢れた姿からは、想像も出来ないような惨劇が繰り広げられている場所がやはりまた一つ


  ゲームセンター ムー大陸 

「キャー!痴漢!強盗!殺人鬼!たすけてー!」
「やめろ、近付くなッ!!」
長く伸びた黄金色の髪を翻しながら、少年は悪魔と戦っていた。そう、ダークヒーローである
戦うというよりは、自分より遥かに弱い悪魔を意図的に狙って倒している。虐殺か狩りと形容した方が適当かもしれない

自分と互角、あるいはそれ以上の実力を持つ悪魔との戦いはさけなければならない。不要な消耗を抑えつつ、悪魔を狩らねば。
―中立の立場を貫く悪魔とはいえ(彼のいた世界では)大魔王サタンの配下の者 人類の敵ッ 殺すことに何ら躊躇は無いッ―

自分自身にそう言い聞かせてはいるが、悪魔とはいえ殺めることに多少の躊躇がある 
しかし今は(昔も)そうも言っていられないのだ。この無情で残酷なゲームでも、また彼の世界でも、情けをかける事は死を意味する

―人々にそんな思いをもう二度とさせないためにも、奴らは死ぬべきなのだ―

幾度となく情念に駆られるも、自己催眠的に心の中で強くそう念じ、狩りを進めている

今の自分の力では、やはり苦戦するような相手もいる。先の二人組みとの戦いと同じ轍を踏まないッ
その為には強力な仲魔やアイテムが必要だし、先ほどと同じように、相手に情をかけることも許されない。
冷静に自己を分析し、欠点を認め、それを補うことが出来ないやつは死んでいくのみだ。そんな負け犬に自分はならないッ 今までも、これからも。

―そうでなければならないのに、そうしなければ生き残れないのに、この後ろめたさは何だ?
   あいつなら・・・あいつなら、こんな時どうするのだろう・・・?―
不意に、過去の思いがかけめぐってくる

シェルターでの日々、ガールフレンドのヒロコ、共に助け合いながら攻略したデビルバスター、屍人使いネビロスとの戦い
そして、あいつを惑わした忌まわしき魔女・・・

ふっと我に返る いけない、そんな事を考えている場合ではないのだ、今は。
余計な事を考えずに、今はただゲームに勝ち残る事を考えるんだ。 己の使命を全うする為に。あの世界に帰るために。
分かってはいても、彼の脳は、彼の意に反して余計な事を考えさせる。それが人というものであろう

―いっそのこと、シェルターの住人たちのようにゾンビなってしまえば楽なのに。―
―そんな考えが浮かぶうちはまだ大丈夫か―
気がつけばまた「余計な事」を考えている自分自身に苦笑しながら、彼は「狩り」を続けた

 そんな折

悪魔の気配を感じ、最短の動作で戦闘態勢を取る。体に自然と焼きついた動作だ。
姿を表したそれを見て彼は一瞬、目を丸くするが、すぐに厳しい顔つきに変わると、こう言った。

「誰かと思えばオルトロスか・・・」
丁度いい。仲魔も欲しかったところだ。
COMPが無いが、幸いサバトマによる使役も俺には可能だ。COMPほど機敏に反応できるわけでもないが、問題は無いだろう。
新宿であいつと再会した時も、むしろ先手を撃って仲魔を召喚できたぐらいだ。経験がそう言っている。
此処には雑魚共しかいなかったが、ようやく実用に耐えうるレベルの悪魔に遭遇したわけだ。

「おまエは・・・ダークヒーローか。お前も、さんかしていたのか」

手馴れた動作で、すぐさま武器を納め、(表面上は)微笑みながらオルトロスに近付いていく。 交渉時の術はもうマスターした。安心させ、モノで釣る。それだけだ。 力の差があるなら脅してしまってもいい。
不意を突かれても、一体ならばカウンターを入れるのは容易な事だ。

「オレがもっているマッカに興味があるノかッ?」
「違う。 裏切り者を処分するのに仲魔が欲しいんだ。」

グルル、と喉を鳴らしながら一歩後ずさると、オルトロスはこう言った
「パズスもいない今、タダでお前ニ協力しテやるいわれも無いぞッ」
「分かっている。何が望みだ?」
「フン、馴れたもんだな。オレをホテルプリンセスで解放シタ時とは大違いだな」

馬鹿にした笑いを浮かべながらオルトロスは言い放つと、すぐさま魔貨を要求した。
ダークヒーローもそれに応え、オルトロスは仲魔となった。
「このくらいでいいだろう。 オレは 魔獣 オルトロス コンゴトモヨロシク...」

契約の儀は完了。すぐにでも主人に命令を求めるオルトロスであるが、
今はまだいい、MAGの無駄だし用があればこちらから呼ぶから、 とダークヒーローに諭され何も無い空間に消えていった。

オルトロスが去ったことを確認すると、ダークヒーローは一人呟く。

「オルトロスが仲魔になったとはいえ、まだまだこちらの戦力は充分とはいえない。もう少しばかし此処にいてもいいだろう。」
お世辞にもいいとはいえないアイテムや、雀の涙ほどのマッカとマグネタイトしか手に入らずにいたが、
ようやく行動が軌道に乗ってきたのだ。否がおうにも気は盛り上がる。

「さあ、狩りを再開するとしようッ」

意気揚揚と駆け出していった彼には既に、彼の言うところの「余計な考え」など消え失せていた。



<時刻:午前9時前後>
【ダークヒーロー(女神転生2)】
状態:多少の疲労 精神的にすこし落ち着きを取り戻しつつあるが、まだ健常とはいえない
武器:日本刀
道具:溶魔の玉 傷薬が一つ 少々のMAGとマッカ(狩りで若干増えたが、交渉に使用した為共に減少)
現在地:夢崎区/ムー大陸
行動方針:戦力の増強 ゲームの勝者となり、元の世界に帰る

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