女神転生バトルロワイアルまとめ
第77話 南条 圭

彼は先ずザックの中身を確認した。
中には、【ネックレス】と【快速の宝玉】、そして少量の食料が入っていた。

「(ふむ・・・何か武器や防具でも入っていればと思ったが・・・これだけか・・・)」
「(快速の匂玉は・・・確かスクカジャの効果か・・・それにしても、このネックレスは・・・?)」
「(何か不思議な力が篭っている様だが・・・まぁ良い。一応装備しておくか)」
彼は青いスカーフを外し、首にネックレスを提げる。
「(備えあれば患えなし、だ)」
青いスカーフを元通り首に巻いた。【1】、という文字が正面に来る様に。

彼の名は【南条 圭】。元の世界では聖エルミン学園に通う高校生。
南条コンツェルンの御曹司で、他者を寄せ付けない程の合理主義者。
幼少期からの魂の無い帝王教育のおかげで、成績は当然の如く常にトップ。
しかし、両親から金銭という形でしか愛を受け取っておらず、
自然と他人を見下す様な印象を与え、他生徒からは多少煙たがられていた。
もっとも、彼は全く気にしていなかった様だが・・・。

そして、何の前触れも無く、事件は起こる。御影町で起きた、通称【セベクスキャンダル】。
その時に彼は深層心理の無意識下に眠る自分の分身、【ペルソナ】能力に目覚めた。
しかし、それと共に唯一にして、最愛の理解者を失う・・・。
南条は、最愛の人の仇を討つために聖エルミン学園の生徒達と協力をし、
事件の原因を究明、そして仲間達と共に事件の元凶を作り上げた物に立ち向かう。

その冒険を通して、かけがえないの友情と、他者を認める寛容な心を手に入れた。

「(珠間瑠市か・・・確か御影町からさほど遠くは無かった記憶があるが・・・)」
「(どうやらこの世界は僕の居た世界と酷似・・・または同じのようだな)」
「(強力な重火器の入手は・・・港南区に警察署があるな・・・しかし、皆考える事は同じだろう・・・)」
この時、南条は異様な程に冷静だった。不気味な男から殺し合いの趣旨を告げられ、
首には死に直結する刻印を刻まれている。つまり、生存する方法は自分以外の人全ての殺害。
非力な者、いや、まともな精神を持つ者ならば発狂しても可笑しくは無い状態だ。
しかし、彼は普段と変わらぬ調子で考え続けた。過去の事件は、彼を成長させていた。

「(知人は・・・藤堂と園村、桐島と・・・サトミ・・・それと内田、か・・・)」
「(まずは彼等と合流するか。あいつ等なら信用出来る。・・・サトミは・・・)」
「(しかし・・・合流した所でどうすれば良いものだろうか・・・)」

南条は蓮華台の路上に転送され、すぐさま付近の民家、民家と言うよりも
純和風の豪邸に転がり込んだ。幸い、豪邸内には誰も居ず、
しばらくは状況把握に時間を費やす事が出来た。
その豪邸の表札には、【スティーブン・シルバーマン】と書いてあった。
多少疑問に思いつつも、特に考える必要も無いだろうと処理した。

「(先ずは生き残る事、そして仲間達との合流、そして情報収集・・・)」
「(何度か大きな爆発音を聞いたが・・・この馬鹿げたゲームとやらに乗っている阿呆共も居るようだな・・・)」
「(開始は午前3時・・・しばらくはこの民家に潜み体力の温存・・・)」
「(他の者達に疲労が溜まったら・・・そうだな正午辺りになったら行動を開始するか・・・)」
「(この刻印が・・・魔力から出来ている物だとしたら・・・)」

彼の脳裏には絶望と言う言葉は無かった。不思議と、希望が沸いていた。
ゲームから脱出する手がかりも掴めていないが、彼には強大な敵と対峙した経験が有った。

そして、彼自身は自覚していないが、運命を共有した【信友】の存在も、大きな心の支えとなっていた。

「(この南条 圭・・・【約束】を果たすまで、決して朽ちたりはしない!)」

物事は非情な程に唐突だ。未知との遭遇、それ以上の事態。
園村 麻紀・・・名詞が単語となり、それは生を持ち、体内を飛び回る。
極度の麻薬中毒者は、幻覚で虫を見たり感じたりする様だが、それと似ていた。
彼の頭に出現し、それは体内を恐ろしいスピードで駆け巡った。
やがて、その蟲が胸部に達し、針を刺す。心臓に痛みを感じる。
「バっ・・・バカな・・・園・・村・・・が?」
「そ・・そんな・・・あっ・・あっけなさ・・・過ぎる・・・」
南条は肩を落とし、畳に潰れる様に倒れ込む。身体に力が入らない。
「う・・嘘だ・・・嘘を・・つくな・・・」

誰も答えてはくれない。

・・・・・・

南条は、今後の活動方針を決めた後シルバーマン宅内の捜索をした。
どうやら家主は武芸に富んだ者らしく、いくつかの武具を発見した。
その中でも最大の収穫は刀身74cm程の日本刀だろう。
細部に亘り手入れされており、魔物はともかく、対人戦闘なら十分過ぎる戦力となる。
柄は付いておらず、中心(握る部分)に職人と思われる名前が彫ってある。
【アサノタクミ】。名前に聞き覚えは無い。
戦国時代には活躍していなかった職人、もしくは名前を変えたのかもしれない。
どちらにしろ、強力な戦力を手に入れた。
付属されていた木の柄を刀身に付け、構え、そして鞘に収める。
他に鎖帷子(くさりかたびら)も発見した。
銃弾は分からないが、刃物ならある程度は防げるだろう。
後は収穫と呼べるものは、食料くらいしか無い。

南条は最も見晴らしが良く、人の侵入も察知しやすい玄関付近の居間で休息を取る事にした。
壁を背にし入り口の方を向き腰を下ろした。睡眠、とまでは行かないが、
体と脳を休ませる為にしばらく思考回路を停止させた。

・・・・・・
<やぁ諸君・・・がんばっているようだね・・・では死亡者を読み上げるよ・・・まず・・・>

「(落ち着け・・・落ち着くんだ・・・)」

呼吸が落ち着いてきた。南条は無意識に、ゆっくりと身体を起こし刀を鞘から出し身構えた。

「(・・・冷静になれ・・・生き延びる・・・生き延びるのだ・・・)」

南条にとって、大切な人間との死別は、これで二度目。
一度目は南条家執事との別れ。
他の誰よりも、共有した時間が長く、【セベクスキャンダル】以前の南条の思い出と呼べる記憶の九割、
つまりほぼ全てが彼と過ごした日々だった。血の繋がりは無い。
しかしそれ以上の繋がりが、そこにはあった。

今回の園村 麻紀の死。あの事件に共に立ち向かった仲間。
お互いがお互いを助け合い、共に成長していく。黄金の日々。
ただの友人、同級生では無い。仲間。そして親友では無く、信友。
園村 麻紀の死。それは、南条にとってあまりにも残酷過ぎた。
初めて感じた、他者の温もり。
そして、初めて他者に与える、いや、純粋思惟から他者の役に立ちたいと感じた、初めての対象が園村 麻紀だった。

歪んだ帝王教育により、南条は人の上に立つべくして育てられた。
他者は、自分の土台となるべく存在する。
事実、学園での成績も南条の下に、南条以外の人達が居た。
それは生身の人達だが、それ以上でもそれ以下でも無い、ただの人。
南条にとっては、それは当然の事だった。

【セベクスキャンダル】は、彼に教えてくれた。
森羅万象、例え神だろうと人を操る権利など持たない。
他者を認める事が出来、初めて他者に認められる。操るのでは無い。協力。
そして、何よりも人は、南条に成長を与える。光、光を持っていた。
太陽が消えた。しかし星は生き続けた。新たな星達に支えられる。

しかし、その星の一つが堕ちた。最期の発光すらできずに。

友の死による喪失感。そして、深淵へと叩き落とされる絶望。
しかし、それとはまた違う感情が、南条には芽生えていた。
今回の馬鹿げた殺戮ゲーム、そして仲間、園村 麻紀の死。
その二つを重ね合わせると、一度目に経験した生命の消失とは、性質が全く異なる。
例え、少女とは言え一緒に強大な敵と戦った、同じペルソナ使い。
そのペルソナ使いが、たったの開始3時間以内に殺害された。
事態は彼が考えている程、甘くは無かった。死と隣り合わせ。

「(すぐにこの場所を離れるんだ・・・早く・・この民家から出て行かなくてわ・・・)」
「(・・・ッ!何を考えているんだ!?この民家以上に立地を理解している場所など他に無いだろう!?
  落ち着け!ここは安全だ・・・。ここは安全だ・・・。)」

南条は冷静だった。すぐにこの場所を離れる。
本来の状態ならば、彼はそう考える以前にこの場所を離れていた。
禍福無門、藤堂、桐島、彼等にも平等に危機が訪れている。
彼等の元に向かい、彼等と共存する為、南条は我が身を省みずこの民家から飛び出していただろう。

しかし、今まで経験した事の無い恐怖と絶望により阻まれる。
「(・・・とりあえず・・・正午まではここに潜んで・・・様子を見よう・・・)」
凍り付いていた心は、最愛の人との別れ、仲間との冒険により溶けて熱を持った。

「(生き延びるのだ・・・死?馬鹿な。この僕が死ぬ訳無いだろ・・・クソッ・・・)」

凍っていた心は急激に熱を帯び、壊れ易く、もろくなった。

「(・・・どうして・・・どうして君が居てくれないんだ・・・どうしてだ・・・山岡・・・)」

誰も居なかった。南条は独りだ。



 【南条 圭(女神異聞録ペルソナ)】
 状態:園村の死により、軽度のPANIC状態
 武器:アサノタクミの一口(対人戦闘なら威力はある)
   :鎖帷子(刃物、銃器なら多少はダメージ軽減可)
 道具:ネックレス(効果不明):快速の匂玉
 降魔ペルソナ:アイゼンミョウオウ
 現在地:シルバーマン宅/蓮華台
 現在時刻:午前6時頃
 行動方針:生存

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