女神転生バトルロワイアルまとめ
第78話 横丁の戦い

平坂区、カメヤ横丁。蝸牛山から移動し、中島はこの商店街に辿り着いた。
ラーメン屋や居酒屋、カイロプラティックが立ち並ぶ様子は一昔前の下町情緒溢れる通りと言ったところか。
多くの店がシャッターも下ろしておらず、ついさっきまで営業を行っていたかのように見える。
ただ人々だけが突然消え失せたかのように生活感の残る町並みはどこか不気味に感じられた。
何か役に立ちそうな店はないかと周りを見ながら歩いていると、店と店との間の横道に何かが見えた。
ベルトに差したレイピアに軽く手を掛けつつ、覗き込む。
そこに見えていたのは男の脚だった。いや、正確には「かつて男だった」死体の。
頭部はぐしゃぐしゃにつぶれ、脳が零れ出ており、
大量の黒蝿がブンブンと音を立ててその周りを飛び回っている。近くには血の付着した石が落ちていた。
中島は蝿を払いつつ持ち物を漁るが、特に役立ちそうな物はない。
(殺し方も同じならその後の行為も同じ…か)
自分の所業を思い出し、内心苦笑する。
そしてその醜い死体への嫌悪感を一瞬だけ表情に浮かべると、それを置いて立ち去った。
やはり、ゲームに乗っている人間がいる。自分に襲い掛かる分には一向に構わないが弓子の身が心配だ。
焦りが出て、自然と足が早まる。
しばらく歩いていくと、また何かが見えた。今度は女、そしてこれは先程とは違い、生きている人間。
「…君は?」
不意を突いて殺害しようかとも思ったが、話しかけてみる。もしかしたら弓子と会っているかもしれない。
飲食店の前、段になっている所に座っていた彼女は中島の言葉にハッとしたように振り向く。茶色がかった短い髪と、青い学生服。
その制服に見覚えはない。だが確かに現代日本の人間だろう。


内田たまきは戸惑っていた。
先程自分を襲おうとしていた男を殺し、武器を奪った。これは自衛の為には仕方なかったことだし、特に罪悪感も湧かなかった。
しかしその後、何をするでもなくこの辺を歩いていて聞こえてきた放送。
死亡者の中の一人の名前が、たまきを驚かせた。
白川由美
同じ軽子坂高校の生徒であり、魔神皇によって学校が異界に飲み込まれた時には学校を元にもどそうと頑張っていた少女。
「そんな…」
驚いたし、悲しかった。彼女が死ぬなんて思っていなかったから。
そして、あの放送によって深い悲しみと同時に思い知らされた。
―自分の身は自分で守るしかない。
放送での死者の数は先程殺した男と同様、殺す気になっている連中がいることを示していた。
「どうすればいいのかな…」
歩みを止めて通りの端に座り、ため息をつく。
脱出するにしても、方法が分からない。かといって他の参加者を殺し尽くして優勝するというのもいまいちピンと来ない。
武器は先程奪ったデザートイーグル、おまけにガーディアンの加護を持つたまきは参加者の中でもかなり条件がよいように思える。
それでも、アームターミナルが無いのは辛かった。
由美が殺されていることから、ガーディアンを持つ者以上の実力を持つ者がいるということが分かる。
仲魔がいれば戦闘に関しては問題ないし、相談にも乗ってくれただろう。
「相談…か」
そこでようやく思い当たる。他の参加者、軽子坂高校の生徒。
根拠はないが、狭間以外ならば協力してくれるような気がする。
「うん…よし!」
彼らを探す。とりあえず方向性が見えて立ち上がろうとしたとき、声をかけられた。


真っ黒な学生服。かつて戦った魔神皇狭間の真っ白なそれとは対照的な姿。
(…なんか、女の子みたい)
端整な顔立ちだが、どこか冷たさを感じさせる雰囲気。
「…僕は中島朱実。十聖学園の3年だ。僕と同様にこの下らないゲームに巻き込まれた友人を探している。」
無言のままのたまきに業を煮やしたのか、そのまま話を続ける。
(十聖学園…知らないなぁ)
「えっと…あ、私は内田たまき。軽子坂高校の2年生で…」
「内田さんか。髪の長い、セーラー服を着た女の子を見なかったか?」
「いや…ここに来てから一人も女の子は見てないよ」
特に興味なさそうに自己紹介を打ち切られ、少しムッとして答える。
さすがに、「男には会ったが頭を潰して殺しました」とは言えない。
「そうか…」中島は落胆して、軽く目を伏せる。
この女、嘘を付いているようには見えない。
となると、弓子はこの辺りにはいないのだろうか?
(まあいい、ある程度情報を引き出したら、隙を見てこの女を殺そう。)
そう思い中島が顔を上げた、その瞬間だった。
何かが飛んできた。急いで身をかわしたが、頬をかすめたそれは一筋の傷を刻む。
飛んできたのはおそらくこの女の支給武器だろう。背後の地面に落ちて金属音が鳴る。
それは、明らかに顔面を狙った攻撃だった。


「…いきなり、何をするんだ?」頬の血を拭い、相手を軽く睨み付ける。
「よく言うよ。これだけの殺気、感じられないと思ったの?」
そう、始めからこの男にはよからぬ気配を感じていた。
先手必勝、と思いアイスピックを投げ付けたが、運悪くかわされてしまった。
支給品の武器で反撃をしてくるか‥と覚悟していたが、目の前の相手は悠長にノートパソコンを開く。
自分を殺そうとする相手を前にして、パソコンを開いてデータ管理、もしくはゲーム。それは有りえない。
(そんなこと、電算部の鈴木君や八幡先生でもしないわ…)
となると、あのパソコンには…
(悪魔召喚プログラム…!)
戦慄する。支給されているような気はしていたが、まさかそれを持つ相手と対峙することになろうとは。
相手に見えないよう銃をザックから取り出す。今後の為に弾丸を節約しておこうと思っていたが、この際そんな悠長なことは言っていられない。
5、6m程離れた相手に、じりじりと近寄る。
正確に狙いを定めなくてもいい距離まで近寄る必要があった。
召喚前に攻撃すればいい。キーボードを叩いている間に、殺してしまえば…
さっと後ろ手に隠してあった銃を両手で握り、相手に向ける。
カチリ、と撃鉄を起こす音を中島は聞き逃さなかった。背に回した手には銃を隠し持っているのだろう。
急いで召喚のコマンドを変更する。
これが大きな危険を生んだ―コマンド入力の終わらない内に相手が銃を向けてきたのだ。
もう少し余裕を持つと思っていたが、この素早い攻撃はパソコンの意味、悪魔召喚を知っているのだろうか?
(急ぐんだ…!)それを思ったのは両者。
そして、引き金が引かれる。
「グアアアアァッ!」
数回の銃声と悲鳴。真っ赤な血が大量に飛び散る。


中島とたまきの間に出現したそれは、熊程の大きさだった。
太い四肢は獣、しかしその顔は人間に近い。長い毛髪が顔全体にかかり、その隙間からギラギラと輝く一対の眼が見える。
胴体に刻まれた数個の弾痕からおびただしい程の血液が流れだし、苦悶の唸り声をあげていた。
「ヌエ!大丈夫か?すまない、まさか相手が銃を持っているなんて…」
獣の背後から中島が心配そうに声を掛ける。しかし、その顔には邪悪な微笑を浮かべていた。
(違う…)
悪魔の扱いに長けたたまきには一瞬で分かった。
たまきが銃を持っているのに気付き、盾にするために悪魔を召喚したのだ。
その仲魔をないがしろにする様は、かつて従えていたアモンを封印した狭間に重なって見えた。
「大丈夫ダ…コノ程度…。奴ヲ殺セバイイノカ?」
「ああ…頼む。」
(………!)
太く大きな前脚が振り下ろされ、たまきは急いで後ろに飛び退く。それまで立っていたアスファルトの地面が大きくへこむ。
左、右、左、右と畳み掛けるように追撃が行われるが、少しの差で空を斬る。
「まずいな…」
傷のせいかずいぶん鈍いものの、巨体に似合わぬ素早い動き。何よりその威力は大きく、一発でも当たればアウトだろう。
(でも、あの傷ではそう長くは持たないはず…)
しかし、そうなると次の悪魔が召喚されるかもしれない。
召喚者は先程の場所から動かず今は見物を決め込んでいるが、一体殺られれば本気になるだろう。
「グオオオォ!」
ちょこまかと回避を続ける相手に苛立ったのか、鋭い咆咬が上がる。
四つ足で駆け、素早くたまきの背後に回り込んだ。


「………!」
素早く振り向いたたまきの手から、何かが放り投げられた。
その拳程の大きさの石がヌエに触れた瞬間閃光が走り、強烈な電撃がヌエの全身に襲い掛かった。
大きな賭けだった。先程殺した男から銃と一緒に奪った一つの石。
魔力が籠められているのは分かったが、何の魔法かまでは分からなかった。
投げた瞬間相手が全快したのでは洒落にならない。
しかし、運はたまきに味方した。電撃にやられ停止する獣を見て、小さくガッツポーズをする。
「ほう…」
中島は少し離れたところから戦闘を眺めていた。
弱小の悪魔とはいえ、こうも簡単にやられるとは。
この先のことを考えるともう少し戦力を整えた方がいいかもしれない。
獣は、たまきに襲い掛かったそのままの体勢で停止している。電撃によって身体が痺れ、動けないようだ。
流れる血液と弾丸の為通電性が高くなっており、内蔵への負担は大きい。
感電による停止。その隙だけで十分だった。
たまきは獣の肩を踏み越え、逃走する。振り向きもせず一目散に横丁から離れ、学校らしき建物が見える方向に走る。
中島は舌打ちをして、さらなる悪魔を召喚をしようとしたが、逃走するたまきを見て追撃をあきらめた。
「あの早さ…背後に見えるのは悪魔か?弓子の持つ力とも違う…」
遠ざかっていくたまきの走るスピードは常人のそれを遥かに凌駕していた。
そしてその背後には、ぼんやりと人ならざる者の姿が見える。
ヌエが手負いだったこともあり、ヌエの攻撃を幾度も避けられたのは単に運動神経がいいだけだと思っていたが、人並み外れた瞬発力はこの能力が作用していたためなのだろう。


「グ…ゥ。スマン、ナカジマ…ガ…グブ…!」
内蔵に負担がかかり、大きく開いた口から血を吐き出す。気管に血が入ったらしく、声色が濁っている。
「ヌエ…無理をさせたな」
そう言いながらもパソコンは開かない。出血の量からして助からないことは撃たれた時点で分かっていたことだ。
「…ナカジマ、生キ残レ…オマエナラバキット…ソシテ我ラガ母神ヲ…弓子ヲ…守ルノダゾ…」
「…………」
蝸牛山でもヌエは自分から話し掛けてきた。日本古来の妖怪であることから、イザナギ神の転生体である中島にシンパシーを感じたのかもしれない。
(あるいは単純なだけ…か)
「…サラバ…ダ」
麻痺が解ける。しかし、ヌエはそのまま前に倒れ、動かなくなった。
「…役立たずが。女一人片付けられないとはな」
消えていくヌエを眺め、呟く。その顔にはヌエの言葉に対する嫌悪が浮かんでいた。
(汚らわしい獣風情が弓子の名前を口にするなど…)
仲魔を一体失ったことになるが、特に問題はない。相手の銃を確認した時点で、盾にしてもいい悪魔に変更したのだから。

(まだロキからの連絡はない。それの待機も兼ねてもう少しここを探索するべきか。だが、あの女が弓子を見ていないことを考えると、次の区へ急いだ方がいいのかもしれないな…)
気を取り直して横丁を進んでいく。さすがに戦闘の跡が残るこの場所からは離れなければ。



【中島朱実(旧女神転生)】
状態 正常(頬に軽い傷)
仲魔 ロキ、他3体(ヌエ消滅)
所持品 レイピア 封魔の鈴 COMP MAG3000
行動方針 白鷺弓子との合流 弓子以外の殺害
現在地 平坂区カメヤ横丁

【内田たまき(真女神転生if…)】
状態 正常
所持品 デザートイーグル 管
行動方針 身を守りつつ仲間を探す
現在地 平坂区春日山高校付近

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