女神転生バトルロワイアルまとめ
第80話 平成妖都の純情

藤堂尚也と赤根沢レイコは、都市迷彩コートの少年が去った後すぐに、七姉妹学園から移動を開始していた。
開けた場所に長時間突っ立っていたら、それこそ狙ってくれと言っているようで危険だからである。
本当はレイコがもう少し待っていたそうな顔をしていたが、移動する旨を伝えると素直に頷いた。
だが、その前に彼女はするりと自分のスカーフを解く。
それから私物の手帳を一枚破いて何かを走り書きすると、解いたスカーフに挟んで校門のすぐ傍にある桜の木の枝に縛り付けた。
待ち人に此処から動いたことを伝えるための目印であることは明白だ。
その行為も、自分たちの生存率を下げることには違い無いが、尚也は止めなかった。
止めたら止めたでレイコは一人でも此処に残ると言い出しそうだったからだ。
それに、待ち人の内の一人である黒マントの男は尚也にとっても必要な人物だからだ。
今何処にいるのか解らない相手をこちらが労力を削って捜し当てるよりも向こうから出向いてもらったほうが何かと好都合なのだ。
レイコがメモとスカーフを枝にしっかりと括り付けるのを確認すると、ようやく歩き始めた。

さっきのコートの男は一体どちらに向かったのだろう。
また会うと約束はしたが、下手をするともう殺されているかもしれない。
また、逆にあの男の方が誰かを出会い頭に殺害していることも考えられる。
素性の知れない男だったが、尚也にはあの男がそれ程悪い奴には見えなかった。
この状況下でもそれ程冷静さを失ってはいなかったし、こちらの話も通じた。
そして何より、こんな場所で無ければそれなりに気が合いそうな雰囲気だったのだ。

この心境をレイコに言ったらどう反応するだろうかと思ったが、口は開かなかった。
普通の日の放課後とかだったら迷わず聞いてみた所だが、レイコは今、一応だが尚也の人質なのである。
再び黒マントの男と対峙した時、場合によっては自分の手でレイコの始末を付けなければならないことも十分に考えられるのだ。
だから、下手に感情移入してしまうような行動は慎むべきだ。尚也はそう自分に言い聞かせた。

では、首尾よく黒マント男を倒せた暁には?
――そこまではまだ考えていない。
何もかも自分の目論見どおりにことが運べばもうこの少女に用は無い。好きにさせるだろう。
彼女が逆上に刈られて自分を殺そうとしても、それはそれで別に構わない。
結果として都市迷彩コートの男と交わした約束は破ってしまうことになるが、それも運命として諦めるしか無いだろう。
自分の最大の目的は、園村麻希の仇を討つことなのだから、それ以外の願いが叶えられなかったとしても文句を言う筋合いは無い。

尚也はそんなことを思いながら歩いた。

道を行く途中に、一つの豪奢な純和風建築の前を通りすがった。
一軒家が多く、それなりの高級住宅街である蓮華台の中にあって、その屋敷は一際大きく、豪華で広々とした庭園まで備えられていた。
建築と庭に比例して立派である門の表札には「シルバーマン」と書かれてある辺り、持ち主は外国人なのだろうか。
「シルバーマンって確か…」
「ああ。そんな名前の奴がさっき放送で呼ばれたな。この家に住んでいたのか。」
すぐ近くに七姉妹学園があり、その制服を着た人間が参加者の中にいる。
そして、先ほど夢崎区で二人は外国人の少女の無残な死体を目撃したのだ。
その少女がまさに七姉妹学園のセーラー服を着ていたのである。
レイコがちらりと尚也の顔を見やると、少し複雑な表情をしていた。どうやら彼はレイコと同じことを考えていたのだろう。
「此処で篭城出来るか…と、思ったが、さすがにそんな気にはなれないな。」
「……。」
「次に行こうか。こんな目立つ民家よりも、商店街の方が安全かもしれない。」
「待ってください。」
レイコは尚也を引き止めると、再び手帳に何かを書き込み、一枚破った。それから彼女は尚也が見ている目の前で何故か唐突にスカートをたくし上げた。
「お、おい!」
尚也は驚いて眼を丸くした。一体彼女は突然こんな所で何をしようと言うのか。
持ち上がったスカートからレイコの白い脚が露出され、尚也の眼に飛び込んでくる。彼はとっさに顔を逸らした。
急なこととは言え、まじまじと見ては良くないという自制心が働いたのと、急に熱くなった顔をレイコに見られたくなかったのである。
「な、何のつもりだっ…」
と、柄にも無く口ごもってしまう。
単に女の脚なら、同級生の綾瀬優香なんてかなり短いスカートをいつも履いているし、夏場に水泳の授業ともなれば全員水着姿だ。
だけど、それとこれとは全然違う。
相手は普段大人しくて地味目の姿をしている(と、思われる)眼鏡の似合うお嬢様タイプのレイコだ。
それが突然何の前触れも無く大胆な行動に出たのだから、衝撃力はそれらの比ではないのだ。
こういう場合、彼女をどう扱っていいのか尚也には解らなかった。
普段クールに決め込んでいても、そういう意味では尚也はまだ人並みに純情な十七歳の高校生なのである。

そんな尚也が一人で勝手に慌てていると、ビリビリという布を破る音が聞こえ、それからしばらくして後ろから肩を叩かれた。
「どうしたんですか?」
「え?」
レイコだった。
尚也がおそるおそる振り返ると、五センチばかりスカート丈が短くなったレイコが怪訝な表情でこちらを見上げている。
「どうしたって…君こそ突然…」
言いかけてそれが眼に入った。シルバーマン邸の門柱に、レイコの引き裂かれたスカート布が括り付けられていたのである。それで納得した。
「何だ……。そうか、そういう事だったのか。」
「?」
つまりレイコは先ほど七姉妹学園でメモを残したのと同じ方法で此処にもメモを残したのである。
すぐに自分だと解るように、軽子坂高校の少々派手目のデザインであるスカートを使ってだ。
種明かしをすれば単純なことなのに、勝手に勘違いをしてしまった自分が猛烈に恥ずかしかった。
照れと羞恥で赤面するのを堪えて俯くと、レイコの膝が見えた。
さっきまではスカートの裾に隠れていたが、今の行動のお陰で半分ほど顔を覗かせているのである。
何だかそれすらも妙に艶めかしくて尚也が視線をさ迷わせていたら、レイコはその様子に気付いてとっさに膝を隠した。
「……ひょっとして、何かいやらしいことでも考えてたんですか?」
「そ、そんなことは……ない……っ。」
我ながら嘘が下手糞だと思う。尚もレイコは冷ややかな視線でこちらをじっと睨んでいたが、視線に対する反論は見つからなかった。
「もう。別にいいですけど、次からは最初から後ろを向いていてください。それから、あまり見ないで下さい。私も、恥ずかしいんですから。」
「あ、ああ。」
少し怒った素振りを見せてそっぽを向くレイコに、尚也は曖昧に答えた。
一瞬でも変な期待をしてしまった自分も相当恥ずかしいのだが、それよりも、レイコは「次からは」と口走ったことに尚也は戸惑いを隠せなかった。
つまり、レイコはこれから行く先で度々、先ほどの刺激的なパフォーマンスを続けるつもりだと言うのだ。尚也の眼の前で。
そして、その都度レイコのスカートはどんどん短くなって行くのである。
(カンベンしてくれ…。)
大人しいから扱いは楽だろうと踏んでいた尚也だったが、それがとんでもない爆弾娘(しかも天然)であったことが発覚して、思わず頭を抱えてしまった。
せめて他に誰かが一緒にいてくれたら…。
そう思って助けを求めるようにシルバーマン邸の豪華な外観を仰ぎ見た。
屋敷を見ていると、ふと、一人の人物が頭を掠める。
こういう豪邸と呼ばれる場所が良く似合い、尚也と同等か、それ以上の実力と冷静さを併せ持った友人であるあの人物だ。
「まさかな…」
こんな都合良くあの男が此処にいるわけが無いだろう。
そう思い直し、尚也は小さく溜息を付いた。
(あいつ、朝の放送で名前を呼ばれなかったんだからまだ生きているんだろうけど、今何処で何をやっているんだろうか…。)
「行きましょう、藤堂さん。」
少し考え込んでしまったが、レイコの声を聞いて我に返ると、レイコは既に歩き出しており、尚也は駆け足でその後を追った。

殺しても死なないようなあの男がそんなに簡単にくたばるわけは無い。
運さえ良ければまた会えるさ――。

だけど、一方で彼とは、いや、彼だけではない。もう一人参加している友人の女の子とも会いたくは無かった。
あの黒マントの男との決着を付けて、全てを終わらせるまでは――。



【赤根沢レイコ(if…)】
状態 やや疲弊
武器 無し
道具 ?
現在地 蓮華台
行動方針 魔神皇を説得 ライドウたちを探す ゲームからの脱出

【藤堂尚也(ピアスの少年・異聞録ペルソナ)】
状態 正常?
武器 ロングソード
道具 ?
ペルソナ ヴィシュヌ
現在地 同上
行動方針 葛葉ライドウを倒し、園村麻希の仇をうつ カオスヒーローとの再戦

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