女神転生バトルロワイアルまとめ
第82話 休息

蓮華台のほぼ中心に位置する七姉妹学園から移動して約一時間の刻が過ぎている。

「なお、この後定刻の度『変異の刻』を迎え、悪魔は力を増すだろう。
 力強き悪魔は、力弱き悪魔へ牙を剥き、絶対数は減るだろうが
 御主らの命はどれほどのものか――楽しみである」

午前六時に響いたあの言葉。
これは遭遇する悪魔が強くなるという事か?
主催者は参加する者達へ更なるもてなしをしてくれるようだ。
そして七姉妹学園入口で出会った二人の男女……
年齢自体はさほど自分と変わらなかった様に思える。
が、片耳にピアスを付けた少年は傍目、それも同姓から見ても美形に思えた。
加えてかなり状況把握に優れる人物の様にも思える。
彼の心の片隅で小さな劣等感が鎌首を持ち上げた。
そしてもう一人の少女、眼鏡が印象に残るのは彼と同じであった。
しかし攻撃的な印象を与える彼とは異なり、彼女は理知的な光を帯びていた。
この二人に共通するのは「容姿端麗」・「頭脳明晰」の四文字熟語。
普通の街中であったなら誰もが納得するであろう二人組であったかもしれない。
だが……
ここは「普通の街」では無い。
殺し合う為に用意された特設会場、勝者は生き残れた一人のみの世界なのだ。
二人についての詳しい関係は知る由も無いがこの殺し合いの中でも協力関係を結んでいる者達もいる……
少なくとも二人は……あのリストに記されたうちの二人は共闘してるのだ。
そういえば……
彼は思う。
あの二人の背後に「存在していたもの」はなんだったのだろう……?
「あいつ」が使役する「仲魔」の類には思えない。
生体マグネタイトによる実体化はしていないような印象だった。
例えて言うなら……そう……背後霊……そう例えるのが最も相応しいのかもしれない。
一体あれは何だったのか……?

個人的な疑問を記憶の片隅に置き今後の事が考える。
もしも最後の二人になったら彼らはどう行動するのか……?
先程の行動から少年が少女を手にかける事はしないようにも思える。
そして少女が少年を殺すと言うのも話の辻褄が合わないような気がする。
そして……
あのピアスの少年と交わした再戦の約束……
あれは妙に清々しい気持ちだった。殺し合いの約束(である筈)なのに妙な高揚感。
それだけは確実であった。
あのピアスの少年となら全力で「気持ち良く」戦えるのかもしれない……
変な例えなのかもしれない。
殺し合いの筈なのに、気持ちよく戦えるというのは……
いずれにせよ今の彼はあのピアスをつけた少年と戦うには自分の戦力が足りないように感じられた。
もしかしたらそれは先ほどからあった劣等感も加わっているのかもしれない。
何にせよ、自分の力を高める必要性がある。
それは事実だ。
彼の目的は「生き残る」ただその一つなのだから……

そう考えると不安要素がまた湯水の如く湧き出てくる。
武器は若干入手ができた。
食料もある程度は持つものの、いずれにせよ限界が来る。
弾丸の補給も欲しい。
応急処置は可能であるものの出来るだけ自分の損害を最小限に抑えたい。
いずれにせよもう少し装備の充実が必要であるように感じられるのだ。
いつまで継続するかわからないこのゲーム……
いずれはあのピアスの少年と戦うとしても生き延びる術を模索する必要があるのだ

「それにしても……」
彼は周囲を警戒しつつ一人呟く。
ここは平坂区と呼ばれた地域、その入口に近い区域だ。
マップで確認したところ目に付くのは高校や横丁と称される商店街、そして駅ビル……
民家も多い様だ、言ってみれば下町とも言うべき区域だろうか?
しかし……おかしいのだ。蓮華台から続く違和感……
人がいない。
否、人の気配が皆無だ。あるのは此方を伺う様な悪魔の気配のみ。
民家はある。
が、ある「だけ」なのだ。
ただ無機質なオブジェの様に配置されただけの民家。
しかし中を覗くとまるでさっきまで人がいたかのような印象を与える。
まるでこの都市をそのままそっくり実物大で再現を行っているかのようだ。
人がいたようにしか思えないのだが、人の存在感がまるで見当たらない。
――民間人に危害を与える事はありえない。思う存分殺し合いたまえ……
そんな事を暗に参加者に知らしめる主催者の思惑すら感じられる。
さらにそれに続く哄笑まで聞こえた気がした。
畜生め……
思考が更に奥深くなる。
――もしもそれが本当であれば?
――今の推察が現実のものだったとするのなら?
いずれにせよリストから察するに多くの人間を招聘する事が可能なのだ。
このゲームを主催者は何かしらの力を持っている事には間違いない。
少なくとも……
彼の背筋が凍りつく。七姉妹学園での恐怖が彼の脳裏に再び蘇える。
あのような「人修羅」と名乗った文字通りの「化物」ですら参加「させられて」いるのだ。
その想像はあながち間違いではないのだろう……と彼は思った。
「人修羅」と名乗った少年。
「人修羅」が知るという人物達。
ピアスをつけた少年。
眼鏡をかけた少女。
そして彼自身が知る三人の参加者……
正体あるいは素性は知っているもののその実力が不明……
不明な要素が多すぎる。
不明な要素が多い以上、相対的な自分の実力と戦力を上昇させるしかないと彼は考えていた。
その為には方法はいくつか考えられる。

1:更に武器や防具、その他の道具を調達する。
2:参加者(出来れば弱っている人物)との交戦、勝利して武器等を鹵獲する。
3:既にノルマは達成されている。一旦何処かに潜伏し午後六時の放送結果から行動を開始する。

ざっと思い浮かぶのがこの三点……
積極的に行動し短期決戦を挑むか……?
消極的な行動をとり参加者の共倒れを狙いつつ長期的な生き残りを狙うか……?
いずれにせよ、何かしらの行動を行う必要がある。
覚悟を決めた。
……と思っていたものの参加者の実力が不明な点が多い以上、迂闊には行動は取る事は自殺行為にも思える。
「さて……どうするか?」

……ぐぅ……

腹の虫が彼に抗議の声をあげた。
「……ったくよぉ……」
思わず苦笑。そして頭を右手で掻き毟った。
こんな時、こんな状況であってさえ腹は減る。尿意もあれば睡眠欲すら……
人間の体とは本当に正直に出来ているものだ。と自分の体に感心した。
とりあえず危険を出来るだけ回避する為、大通りに面した民家ではなく、少しおくに入った民家に侵入を試みる。
どうと言う事はない平屋の家屋だ。
ドアノブを静かにまわす。……鍵はかかっていない。
荒廃した世界で嫌でも身に付いた動作。
まずは銃を構える。もちろんトリガーには指をかけない。暴発を防ぐ為だ。
ドアを素早く最低限のみ開けて、滑り込む様に上体をかがませつつ室内に侵入する。
銃を水平に構えつつ周囲を警戒。いつでも奇襲に対応できるように……
その全ての行動が無駄であった。
ここもやはり人の気配は無い。
人の気配は無い。しかしながら人がそこまで存在していたような印象があるのだ。
平屋の部屋を全て見て回る。
電気も水もガスも生きている。
ライフラインは確保されている。
殺し合いをさせる状況に人を持ち込ませ、かつ生活に必要な状況を提供させる。
親切丁寧な場所を提供してくれた主催者には感謝するしかない。
……もちろん皮肉的な意味で言っている。
屋内を捜索する。台所を中心に。
カップラーメンの類があった。
冷蔵庫にも食材の類はある。腐っているものはなさそうだ。
一瞬調理したいという欲望にもかられたが状況が状況だ。
調理に集中していたら後から攻撃された……
攻撃する人間は喜劇そのものであろうが、攻撃された人間ただの悲劇。
否、攻撃された者が道化者であり喜劇か……
正直、調理そのものは彼は嫌いではない。むしろ好きだといっていい。
それに今は集中して調理できる気分でもなかった。
漏れるため息が一つ。
薬缶を見つけ、それに水をいれる。
ガスコンロの上に薬缶をのせて火ををつけた。湯を沸かす。
見つけたカップラーメンを飢えを満たすつもりだ。
目覚まし時計を見つけた。動いている、時間を刻み続けている。これで時間がわかる。
湯が沸く間に割り箸を発見。これも使わせてもらおう。
時間と状況、持物から考えてこの方法が空腹感を満たす方法として一番ベターな選択に思えた。
台所の窓が無い角に閉じこもる様に腰を下ろす。
遠方からの狙撃回避と背後を出来るだけ無防備にしない為に。

何故か幼少の記憶が頭に過ぎる。
大酒飲みであった父親に対する恐怖に怯えつつインスタントラーメンをすすっていたあの時……
今もその状況と変わりが無い様に感じられた。
思わず頭を振り、一人しかいないのにジャスチャーで彼はそれを否定した。
冗談じゃねぇ……
ビクビクと過ごしたあの頃の俺とはもう違う。
親父もいねぇ、いや仮にいたとしても反撃できる。
文字通りにボコボコに出来るに違いない……

カチリ……
ほんの小さい音が彼を我に返す。
待ち望んだ時間だ。
左手にはラーメンの器、右手で箸を持ち、歯でその箸を真っ二つに折る。
ラーメン特有の音と共に満たされていく空腹感……
一個では足りない……
続けてもう一個に湯を注ぐ。
そして待つ。
この数分の間、普通であれば彼は色々今後について考える所であった。
しかし今考える事は……
「この空腹感を満たしたい」
ただそれだけであった。

二個のカップラーメンを完食、腹が落ち着く。
台所にあった湯のみに同じく台所から見つけたインスタントコーヒーと若干残ってあった湯を注ぎ、喉に流し込んだ。
口内にインスタントラーメン独特の残った塩っぽさが一気に消え失せた。
ふぅ、と一つ。満足のため息。
この一時の充足感。
満足できる僅かな時間。
空腹感が満たされると同時に奇襲を仕掛けてきた「何か」。
彼は懸命に頭を振り対抗する。
瞼を揉み解す。
頬をつねる。

が……
瞼が徐々に重くなる……
現在の彼にその「何か」に抗う術は持っていなかった。
食事した格好のまま、彼は睡魔に敗北。
そのまま眠りについてしまった。
食事の為に用意した目覚まし時計のタイマーをセットしたような記憶があるのだが……
今の彼にとってそれを確認できる事は出来なかった。
意識の混濁、そして徐々に広がる意識に浸透する闇……
殺し合う為に用意された特設会場……
このスマルと言う都市にて、人としては普通の、だが彼にとって僅かであるかもしれないが幸せな時間がしばしの間訪れた……



<時刻:午前九時>
【カオス・ヒーロー(真・女神転生)】
状態  :正常(睡眠状態)
武器  :銃(経緯から狙撃が可能?):斧に似た鈍器入手(刃は無い模様)
道具  :カーボライナー(弾丸:追加効果STONE):学園内にて三発消費
     高尾祐子のザック所持の中身(詳細不明、尚高尾裕子が所持していたザックその物は破棄)
     応急処置用の薬箱
     蝋燭&縄
     十得ナイフ
現在地 :平坂区(一般家屋室内)
行動方針:なんとしてでも生き残る術を求める。藤堂尚也との再戦。

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