女神転生バトルロワイアルまとめ
第95話 堅物と知性派ムードメーカー

「よっしゃあ! せっかくだから俺はこの赤い箱を選ぶぜ!」
一体何がせっかく≠ネのかは解らないが、塚本はそう言いながら並んでいるダンボールから赤い物を選び出し、力任せに破り開けた。
「テレッテッテー、新は退魔の水を手に入れた!」
またわけの解らないことをほざきつつ、ダンボールから勝手に入手した退魔の水の小瓶を頭上高く掲げる。
その様子を背後から眺めていた南条は、付き合ってられないと言った風に大きく溜息を付いた。
此処は蓮華台ロータス内に店舗を構えているサトミタダシ蓮華台店。
塚本の傷を治すために必要な薬品等を探しに来たのだが、手当てもそこそこに塚本は勝手に家捜しを始めたのである。
並べられた商品を手当たり次第にカバンに放り込んでいる上に、奴はあろうことかレジ裏を調べて勝手に会計帳簿の中身まで確認していた。
南条としては、いくら非常時とは言え商店の売り物を勝手に失敬するのはどうしても気が引けたが、
塚本の方はそんな彼に眼もくれず、何の躊躇いもなく今も陳列棚をひっくり返している。
そう言えば、道中塚本に身元を尋ねたら天海市でハッキングチームに参加している高校生だと言っていた。
ハッカーと言えばネット世界の盗賊である。
どうやら塚本は他人のものを盗むという行為自体にあまり罪悪感を覚えないタチらしい。
こういう状況では非常に羨ましい性格だ。南条は皮肉を込めた視線を注ぎながらもう一度溜息をつく。
しかしその時、南条は塚本のある行動に疑問を感じた。
「おい塚本…」
「心配入りません! もう此処に店員はいないのです!」
「…要りません、だ。お前は満足に日本語も喋れないのか?」
「……ちぇ。これだから坊ちゃん育ちはユーモアが無くて困る。で、何?」
「何をやってるんだお前は。」
「え? 何って、見て解らないかな。説明したでしょ。こんな状況だから必要なものを…」
「そうではない。お前さっきから見ていたら退魔の水ばかりを盗ってるではないか。
限られた場所でしか悪魔は出ないのに、何故そんなものが必要なんだ?」
今、南条たちが置かれている戦場で、戦う相手は人間のみ。悪魔の巣窟に足を踏み入れる必要は無いはずだ。
新本人はデビルサマナーの能力があるらしいのだが、悪魔召還に必要なGUMPと呼ばれる機械は没収されてしまい、
召還どころかまともに交渉することすら不可能。
南条の方も、ベルベットルームを利用出来ない為、悪魔との交渉を繰り返していくらスペルカードを入手しても全く使えないのである。
こうなると、悪魔の巣窟に足を踏み入れること自体が危険な上に無意味であり、そんな場所に行く必要性すら存在しない。
したがって退魔の水は必要無い筈だ。
それに第一、退魔の水はその名の如く、悪魔を退ける効果を持つ。
仮に交渉を目的として悪魔出現ポイントに向かうとしても、そこで悪魔を退けたのでは更に意味が無い。
南条の疑問は至極真っ当なものだと自負していた。
だが、塚本の方はそう思うことすらナンセンスと言わんばかりに人差し指を立てて横に振った。

「ちっちっち。甘いな南条君。こういう時だからこそこの道具の真価が発揮されるのだよ。」
「どういうことだ?」
「どうやら最初から説明する必要がありそうだな。」
素直に理由を尋ねる南条に意味深な笑みを浮かべると、塚本はレジ台に投げられていた会計帳簿を手に取り、数枚捲った。
「此処の最後の日付は199×年8月31日、つまりこの店はその日まで営業されていたことになる。
で、郵便受けに入っていた新聞の日付は9月1日となっていたからこの街の住人が連れ出されたのはおそらくその日の早朝ってワケだ。」
「ふむ。そうだな。」
「で、さっきシルバーマン邸の庭先に猫が二匹死んでたのを見たんだが、覚えてるか?」
「ああ。同じ首輪をしたつがいの猫だったな。」
猫の屍骸は二匹とも腐敗が激しく、しかも骨と皮のような状態だったことからして餓死したのだと考えられる。
首輪にはオスの方に『殿』、メスの方に『姫』と名前が刺繍されていた。これによりこの二匹の猫の飼い主が同じだったことが解る。
子育て期間中のメス以外は単独行動を取る習性のある猫が、つがいと言えども同じ場所で同じように死んでいるのは珍しい。
おそらくこの二匹はシルバーマン邸で大切に飼われていた猫だったのだろう。
だから逃げずに、消えてしまった主人をずっと庭で待ち続け、そして餓死したのだと思われる。
南条としては、何の説明も無く突然殺し合いを強要されている自分たちや、突然街を追われた元の住人たち以外にも、
こんな形で被害を被っている者の存在を知ることにより、
この戦場を作り上げた原因の人物に激しい怒りを覚えただけだったが、塚本は何かに気付いていたようだった。
彼は続けた。
「で、その猫の死体なんだが、よく観察するとクロバエの三齢幼虫、それから蛹も沢山付いていた。
スマル市は関東にある海沿いの街だから天海市の気候とあまり変わらないから九月の気温は大体20度程度。
後はカツオブシムシも沢山付いていたから死語二十日前後って言ったところだろう。
猫は個体差こそあれど、餓死するまでに大体二十日程度だからそれを計算すると、今日の日付は十月初旬。
多分、三日か四日と言ったところか。」
唐突過ぎることが多くて、今の正確な日付を確認することすら怠ってしまっていたが、塚本はこの短い時間に、道具を探しながら分析していたらしい。
猫の腐乱死体を短時間で正確に観察する冷静さと、法昆虫医学という意外な知識に南条は舌を巻いた。
どうやらこの塚本新という男、南条が考えていた以上に頭が良く、また、実戦経験に富んでいるらしかった。
もっとも、意地っ張りな南条はそれで彼を簡単に褒めたりはしないが。
そんな南条の心境に気付いているのかいないのか、塚本はさらに続ける。
「重要なのは此処からだ。
俺はサマナーという職業柄、月齢にはちと詳しいんだが…」
それはペルソナ使いである南条も同様だ。
悪魔の生体バイオリズムは月の満ち欠けによって大きく変わる。
月齢が影響を及ぼす影響は悪魔の能力だけではなく、精神的にも作用する。
月齢の状態は、悪魔と交渉、または戦闘を行うことに置いて、まず確認を取らなければならない必須項目であった。
生きて悪魔の巣窟から脱出するために。それくらい重要なことだった。
「あっ!」
そこまで思い出した所で南条は声を上げた。

「気付いた?
199×年10月の満月は4日の予定だ。この年は確か8月にグランドクロスがあったはずだが、多分月齢までに影響は無いだろう。
つまり、悪魔が最も活性化して凶暴になるのは今夜か、遅くても明日…。」
満月の日の悪魔は頭のネジが飛んでいるとでも言うのだろうか。凶暴になり、とてもじゃないが交渉なんて行えない。
その上満月の光は悪魔の戦闘力も格段に上げるため、戦うとしてもかなりの危険が伴うのだ。
しかもこちらにロクな武器が無い以上、それは自殺行為に他ならない。
「そうか、満月の日、悪魔出現ポイントには誰も来ない。と、言うことか。
そしてその満月時に退魔の水を撒いておけば、悪魔出現ポイントは一転して安全地帯になる。」
「そういうこと。
……まあこれくらいのことはサマナーとして当然知ってなきゃいけないワケだが……。
因みに俺の見立てでは、この街に連れてこられた人間の中には俺以外にも何人かサマナーがいる。」
「少なくとも、一人は確実にな。」
南条の記憶にあるサマナーはただ一人。軽子坂高校からの転校生、内田たまきだ。
彼女も歴戦のサマナーという話だから、日付に気付けば同じ事を考えているかもしれない。
たまきとはあまり親しくしていたわけではないが、南条の知っている彼女が進んで他者を屠って生き残ろうと考えているとは思えない。
どうにかして会うことが出来たら、こちらに引き入れることが可能かもしれない人物の一人だ。
「南条君の知り合いにもサマナーがいたのか。
俺の方は…知り合いっつーか、心当たりのある奴がいる。二人ほどな。」
塚本の知っているサマナーは葛葉キョウジ、葛葉ライドウの両名だ。
キョウジの方は何度か顔を合わせたことがあり、
葛葉ライドウは、名前だけ聞いたことがある。
確か平安時代から続く悪魔召喚士の一派で、ライドウの名は代々世襲制だと聞いている。
名簿には十四代目と書いてあったが、残念ながら顔までは知らなかった。
「この街にはまだ多くて39人生き残っている。俺の知ってるサマナーはさっき名前を呼ばれなかった。
南条君の方は?」
「いや、聞いていない。」
「そうか。良かった…って、言っていいんだよな?
まあサマナーがそう簡単に死ぬことは無いと思うし、俺達が知ってるだけで三人のサマナーがいるワケだから、もっと沢山いると思っていいだろう。」
「その中で、この殺し合いに乗る意思の無いサマナーがいたなら、もしかしたら…。」
「そうだ。退魔の水か、エストマを使える仲魔がいれば、同じ事を考えるかもしれない。」
「いや、それはサマナーだけではない。この俺もそうだがペルソナ使いも悪魔と蜜月関係だ。だから…」
その時、南条は一つのことに気が付いた。
先ほど自分は、今ベルベットルームを使えないということを無意識の内に知っていた。
それは何故か。
此処に来る途中、同じくロータス内でベルベットルームの青い扉を発見したのだ。
だが、扉は固く閉じられ、押そうが引こうが絶対に開くことが出来なかったのである。
ベルベットルームは南条が関わったセベク・スキャンダルが解決すると同時に御影町から姿そのものを消したのだが、このスマル市には存在する。
イゴールの名は名簿に載っていなかったが、この街の何処かにいて、扉と繋がっているのだろうと考えるのが妥当だ。
しかし扉は開かない。それは一体何を意味しているのか…。
「南条君?」
ふと気付くと塚本が不思議そうな顔をして南条の顔を覗き込んでいた。
どうやらしばらくの間ぼんやりと押し黙ってしまっていたらしい。
しかも無意識に右手を首筋の――例の刻印が掘り込まれた辺りに当てて。
「……いや、何でも無い。」
「ならいいんだけど。」
本当は何か聞きたそうな雰囲気だったが、塚本は気を利かせて何も尋ねて来なかった。
どういうわけか南条の首筋に冷たいものが走っていたのだ。
ベルベットルームに入れないことと、この殺し合いの謎。それは非常に強い繋がりがあって、とても重要なことのように感じた。
だが、それ以上の回答は出てこなかった。そしてそのまま、この嫌な予感が当たらなければいいのだが……。
「さて、これからどうしようか。俺としてはもう少し使えそうな物を探したいんだが。」
「そうだな…。俺もこの区域にはまだ用事がある。」
南条が先ほどシルバーマン邸で拾ったメモによると、藤堂尚也がこの街の商店街付近にいる。
出来れば再開してこちら側に引き入れたい。
それに満月の夜までまだ時間があるのだ。それまでに何とか藤堂を見つけておきたかった。



<時刻:午前9時半>
【南条 圭(女神異聞録ペルソナ)】
状態:正常
武器:アサノタクミの一口(対人戦闘なら威力はある)
  :鎖帷子(刃物、銃器なら多少はダメージ軽減可)
道具:ネックレス(効果不明):快速の匂玉
降魔ペルソナ:アイゼンミョウオウ
現在地:蓮華台
行動方針:仲間と合流

【塚本新(主人公・ソウルハッカーズ)】
状態:銃創による左肩負傷・応急手当済み(左手は何とか動かせるようになった。)
武器:作業用のハサミ
道具:物反鏡×1 傷薬×3 包帯 消毒液 パン(あんぱん・しょくぱん・カレーパン) 
銘酒「からじし」 退魔の水×10
現在位置:蓮華台
行動指針:蓮華台の民家で家捜し、スプーキーズとの合流

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