女神転生バトルロワイアルまとめ
第96話 この街の真実

ザ・ヒーローと大道寺伽耶の両名は、天野舞耶の探索に出ているピクシーの帰りを待ち続けていた。
時刻は午前8時。
二人が青葉区のオフィスビルの三階に潜伏し始めてから一時間が経過していた。
「何か見えるか?」
オフィスビル内に置かれた本棚を漁り、何か資料として使えるものが無いか探していた伽耶が落ち着かない素振りでヒーローに話しかけた。
ヒーローは先ほどからずっと双眼鏡で窓の外を監視している。
外から、中に人間がいることを察知されたら危険だから、窓に掛かったブラインドは完全に下ろしていた。
ブラインドの隙間をこじ開け、そこに双眼鏡のレンズを押し込んで外を見ていたため、外の様子は伽耶には全く解らないのである。
「まだ何も…。」
二人のこのやり取りはこの一時間で何度目だろうか。会話をしている本人達も最早数えてはいなかった。
「そっちは?」
何度も同じことを尋ねてくる(むしろこの一時間二人の会話はこれだけだった)伽耶の方に視線すら向けない。
返答に何も期待していないからだ。
だがとりあえず、社交辞令的に尋ね返しておいた。
「少し興味深い物を発見した。」
「ふーん………
……え?」
全く希望的な観測はしていなかったため、伽耶の押さえた声の中にある興奮めいた発音に驚きを隠せなかった。
思わず終始覗き込んでいた双眼鏡から顔を離し、伽耶の姿をまじまじと見つめてしまう。
昨晩からすっかり見慣れたえんじ色のセーラー服姿の美しい少女だが、目つきは歴戦の戦士のそれで、鋭い。
そして、今は口元に不敵とも取れる笑みが零れていた。
一体伽耶はこの寂れたオフィス内で一体何を見つけたというのだろう。
ヒーローがざっと見た所、この会社は警備会社の地方支部で、
会社として機能していた最後の日が8月31日であったということ以外何も解らなかったのだ。
「これを見ろ。」
伽耶は言いながら小脇に抱えた一冊の本をヒーローに突き出した。
タイトルは『イン・ラケチ』
言葉の意味は古代マヤ語で『私はもう一人のあなた』である。
キスメット出版から出ており、著者は橿原明成となっている。聞いたことの無い名前だ。
「本棚ではなくデスクの引き出しに入っていた。どうやら此処の社員の私物だったらしいな。」
今一度オフィスを見渡す伽耶の言葉を聞き流しながら、ヒーローは受け取った本のハードカバーを開いた。
表紙のデザインは古文書を彷彿とさせるセピア色だが、本自体は新しいものだった。
前の持ち主も購入後は殆ど触れていないらしく、手垢などは全く付いていない。
見たところそれ程分厚い本ではない。
読み易さを意識したのか、印字されたフォントもかなり大き目だったが、じっくり読んでいる暇は無かった。
だから流し読みに留めておいたがそれでも内容はとてつもない驚きに満ちた物であった。
と、言うよりもむしろ何かの冗談のような文章の羅列で、ヒーローは思わず吹き出してしまいそうなのを堪えつつ目を通した。
「地球の文明は宇宙人であるマイヤ人が与えたもの? 蝸牛山がピラミッド?
…こんなもの信じる人間がいるのか?」
あまりにも陳腐で胡散臭い仮説の並んだ内容に、馬鹿馬鹿しさからあんぐりと口を開けてしまったヒーローだった。
が、目の前の伽耶の表情はあくまでも真剣だ。


「信じる者がいたのだろう。それもかなりの多数、な。奥付を見てみろ。
この本の持ち主が買ったのが最後の日…。
8月31日だったとしても、発売から数ヶ月で増刷が10回も掛かっている。
少なくともこの街ではとんでもないベストセラーだ。」
ヒーローも念のために奥付を見ると、確かに伽耶の言ったとおりだった。
実際に東京大破壊から、ガイア教、メシア教の戦い、大洪水を見てきたヒーローでも信じがたいことだったが、
この街の人間は余程信心深い人種だったらしい。
あるいは単に話のネタが欲しかっただけなのか?
ともかくこれはかの有名なノストラダムスの大予言とか言う大法螺も裸足で逃げ出すレベルのことだ。
「けど、いくらベストセラーって言っても、こんな内容じゃ…」
言いかけてヒーローははたと止まった。
この本が売れたのが別の時間軸の、別の場所であったなら問題は無い。せいぜい単なる笑い話で済むことだろう。
だが、この街はスマル市だ。
噂が次々と現実になる現象が起こったと言ういわく付きの街である。
「解ったか? 何故この街が浮いているか…。
つまり、この本に書かれていることが噂となり、現実になったからというわけだ。」
「じゃあ、この街を浮かせている動力となっている物は、ここに書いてある五つの水晶髑髏……。
それがこの街のどこかにあるということなのか?」
「ああ。だがこの本に書かれている四つの神殿は、おそらく無い。
俺もお前と同様、この街を隅々まで歩き回ったわけではないが、そのような目立つ建物があれば嫌でも眼に入るはず。
それに支給品のマップに載っていないのもそれを裏付ける。」
「それもそうだね。じゃあ、その前の段階…蝸牛山から入れるというカラコルに…」
「はたして…それはどうだろうか。」
「?」
ヒーローはきょとんとした。
本によると、カラコルの最下層に水晶髑髏が五つ集結し、そのエネルギーでスマル市は浮いたということになる。
その後、髑髏が五つある内の四つが安置されているはずの神殿が無いということは、
そのままカラコルに残されていると考えるのが妥当なはずだ。
「改めてこの戦いのルールと参加者を思い出せ。
ルールは問答無用の殺戮。
だが、俺達を此処に集めた主催者側に危害が加えられてはゲームそのものが成り立たないだろう。
だからあまりにも強力な大量破壊兵器は参加者には絶対に与えられないだろうし、作ることもおそらく不可能。
だが、集められた者はどうだ?
件のネクロマ使いもそうだが、かなりの力量を持った者が多数いると考えていいだろう。
勿論、魔法を使う者もいる。悪魔を使役する者もな。」
力を持った者とは勿論、この伽耶の内にいる四十代目葛葉ライドウと、ザ・ヒーローも含まれている。
他にも、ヒーローの思い当たるところでは、先ほど一戦交えたロウヒーロー、そしてヒロイン、カオスヒーローもその気になればかなりの力を発揮する。
そして、伽耶に宿る四十代目葛葉ライドウと縁のある人物、
名簿にあった十四代目葛葉ライドウ、そして同じ葛葉の名を冠する葛葉キョウジも気になるところだ。
後、ヒーローと伽耶の知っている人物では南条圭。
この時代(二人にとっては遠い過去)では世界的に有名な南条コンツェルの跡取りということだが、力量までは不明だ。


伽耶の仮説は続いた。
「主催者はこの街の出身者もいると言っていたが、
その出身者がイン・ラケチの内容を知った上で、その水晶髑髏を探そうと考えるかもしれないのは容易に察することが出来るだろう。
勿論、俺達のように、初めてこの街に来てこの本の内容を知る者も他にいるかもしれないが……。
兎に角、主催者側から考えて、この本の通りの場所にそんな強大なエネルギー体をそのままの場所に置いておくとは考えにくい。」
「確かに…。けど街がまだ浮いているということは…」
「ああ、何処かに必ず水晶髑髏はある。
俺の予測が正しければ、主催者の手の届く場所にな。」
それは最も解り易い推測だが、おそらく当たっているだろう。
水晶髑髏という危険な代物が参加者の手に渡りにくく、更に安全に守れる場所がそこなのである。
「話が振り出しに戻ってしまったね。
何処かに潜んでいる主催者を見つけられないとどうにもならないというわけか。」
「そうだ。
だが主催者なる人物を見つけられたとしても、それが俺達の…最期の記憶となるだろう。」
厳しい視線と口調で言い、伽耶はセーラー服の襟元を少しずらした。
白くて細い首筋には例の凶悪な刻印、参加者全員に分け隔てなく与えられた死の宣告が刻まれているのだ。
ヒーローは盛大な溜息をついた。
「全く、よく出来たルールだな。僕らには殺し合い以外打つ手は無し…ってことか。」
「ああ、忌々しいことだ。」
伽耶が小さく舌打ちをし、どさっと革張りのソファーに座った。
ヒーローはその横にイン・ラケチを投げ、再び双眼鏡で外を見ようとブラインドを指で押し上げた。
「あ……!」
双眼鏡を覗き込んだヒーローは小さく声を漏らした。
「どうした?」
反射的に伽耶が立ち上がる。
そしてやはり骨髄反射的にポケットの中の管に手が伸びていた。
「人がいる…!」


「……! 貸せ!」
短い言葉が終わるか終わらないかの内に伽耶はヒーローから双眼鏡を奪い取り、覗き込んでいた。
双眼鏡からは、一人の少年の姿を垣間見ることが出来た。
スラリとした長身で、きりっとした凛々しい眉眼と、真一文字に引き絞られた形の良い口元。
ヘルメットのように見える少々奇抜な髪形だが、神話の男神を髣髴とさせるような美貌を持った少年である。
その少年が、周囲をやや気にしながら歩いているのだ。
そして、大道寺伽耶ではなく四十代目葛葉ライドウとして気になるのは彼の身のこなしだった。
「あいつ、全く隙が無い……。」
年端の行かない少年として見たら、少し珍しいことだ。
彼もこの殺し合いに呼ばれるべくして呼ばれた、と言うことだろうか。
「それに…」
伽耶はごくりと唾を飲み込んだ。
「あの少年は、この街の出身者ではないか。」
伽耶は先ほど見ていた。
イン・ラケチがしまってあったデスクに一枚の家族写真が飾られてあった。
そこには警察官の制服を着た父親と思しき中年男性と、母親と思われる女性、そして二人のよく似た兄弟いた。
双眼鏡から垣間見える少年は、少々成長しているが、紛れも無く写真に写っていた弟の方であった。



<時刻:午前8時すぎ>
【ザ・ヒーロー(真・女神転生)】
状態:体中に切り傷 打撃によるダメージ 疲労(ガリバーマジックの効果によりほぼ回復)
武器:鉄パイプ、ガンタイプコンピュータ(百太郎 ガリバーマジック コペルニクスインストール済み)
道具:マグネタイト8000 舞耶のノートパソコン 予備バッテリー×3 双眼鏡
仲魔:魔獣ケルベロスを始め7匹(ピクシーを召喚中)
現在地:青葉区オフィス街にて双眼鏡で監視しつつ休憩中
行動方針:天野舞耶を見つける 伽耶の術を利用し脱出 体力の回復  

【大道寺伽耶(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態:四十代目葛葉ライドウの人格 疲労(少し回復)
武器:スタンガン 包丁 鉄パイプ 手製の簡易封魔用管(但しまともに封魔するのは不可能、量産も無理)
道具:マグネタイト4500 双眼鏡 イン・ラケチ
仲魔:霊鳥ホウオウ
現在地:同上
行動方針:天野舞耶を見つける ザ・ヒーローと共に脱出し、センターの支配する未来を変える 体力の回復

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