ここは悪魔の住処だったはずだ。
つまり、外は悪魔の住処ではないはずだ。
だから最初は戸惑った。突然開け放たれたガラスの扉、逆光に照らされて立つそいつの姿。
セクシーな衣装の女で、どう見ても死体で、動いている。
が、ボディコニアンがいきなり外から入ってくるのはおかしな話だ。中にいたなら納得したが。
理由を考える前にマシンガンの乱射を受けて、誤解に気付いた。
こんな銃を使いこなすボディコニアンはいない。あいつらは普通の女のゾンビだ。
それを理解した時、ちょうど見えた。そいつの鎖骨の上、刻まれた呪印に。
今まさに狩ろうとしていた悪魔を盾にして掃射をやり過ごし、彼は舌打ちをした。
血飛沫を上げて悪魔が倒れ伏す。
苦々しい。獲物を奪われた事がではない。
相手の性質の悪さがわかっているから、苦々しい。
ただでさえゾンビという奴は面倒だ。痛覚も恐怖もないから、物理的に破壊しないと止まらない。
加えて、今の相手はマシンガンを使いこなしている。戦い慣れた女のゾンビだ。
腐敗の始まっている死体なら動作も遅いが、生憎こいつは死んだばかりのようだ。
当たり前だ。この六時間足らずの間に死んだに違いないのだから。
「……嫌な相手だ」
彼は独りごちる。
嫌な光景を思い出す。初めて悪魔と戦った時のこと。
そいつらは同じシェルターの住人だった。見知った顔もいた。
それが、悪魔に成り果ててしまっていた。あの苦い思いは忘れようとしても忘れられない。
ゾンビの性質の悪さの中でも最大のものは、それがかつては人間だったということだ。
「あらぁ……外しちゃったわね」
ゾンビ女が笑った。生前なら、快活さを感じさせる魅惑的な笑顔だったろう。
しかし、胸に風穴を開けた女にそんな顔を見せてもらっても嬉しくも何ともない。
「でもちょうどいいわ……血が流れすぎちゃったら、啜れないものねっ!」
「言ってくれる!」
再び銃口を向けられる前に、彼は動いた。
ゲームセンターという場所は銃で戦うには不利だ。障害物がそこら中にある。
手近な椅子を相手に投げ付けて、巨大な筐体の陰に隠れる。一瞬の時間稼ぎができればそれでいい。
「来い、オルト……」
サバトマの詠唱を始めると同時に彼は気付いた。聞こえるべき銃声が聞こえない。
マシンガンなどという強力な得物を持っているのだ。撃ってくるとばかり思っていた。
「遅いわよぉ!」
絶叫というより吼え声に近い、戦いの昂揚をそのまま迸らせたような女の声。
それはすぐ横、身を隠した筐体の陰から聞こえた。
一瞬後にはそいつは飛び出してくる。死角から襲い掛かってくる。
そう悟りはしても、身構えるのが間に合わない。
詠唱の声は途切れた。
案の定、次の瞬間には凶悪な笑みを浮かべたゾンビ女の姿が目の前にあった。
投げ付けられた椅子にも構わず突進してきていたのか。こいつの戦い方は銃だけではないのか。
組み付かれながら、握ったままの刀をそいつの背中に突き刺す。手応えはあるが効果はない。
「もっと深く刺したらどう……? アンタも一緒に串刺しだけどねっ!」
微塵も動じず、女は笑い声を上げた。笑う女と内心毒づく彼は、一緒に床に倒れ込む。
刺して駄目なら腕を斬り落としてでもやろう。女の体から刀を抜こうとした時だ。彼の右腕に激痛が走る。
彼を床に押さえ付けたゾンビ女の爪が、腕に食い込んでいた。
物凄い力だ。刃物ででも刺されたかのように鮮血が迸る。女はそれを見て、うっとりと歓喜の表情を浮かべていた。
まずい。この調子では喉を掻き切られるか、食い破られる。
まだ自由な左手で、血に気を取られた女の横っ面を力の限り引っ叩く。多少気が咎めるが何しろゾンビ相手だ。
奴がバランスを崩した所で、腹を蹴り上げる。女の体が僅かに浮いた。食い込んだ爪が傷から引き抜かれる。
彼はそのまま転がって、敵から距離を取る。どうせ今の攻撃などろくに効いていないだろう。
相手が体勢を立て直し、再び飛び掛かってくるまでにオルトロスの召喚を終えるのは至難の業。ならば。
刀を無事な左手に持ち替えて跳ね起きた。
痛みを感じた様子もなく、女が立ち上がる。
右手には銃を持ったまま、血塗れの左手を震わせ、憎悪に燃える目で彼を睨む。
「来い、死に損ない」
「うるさい……うるさい、アンタも死ぬのよぉぉぉ!」
絶叫して、女は跳んだ。床に転がる椅子を避け、古びたゲームの筐体に飛び乗る。
確か、とても古いゲームだ。デビルバスターなんかよりずっとずっと昔のゲーム。
シェルターの老人から話を聞いたことがあった気がする。
昔のアーケードゲームには、透明な板張りのテーブルがそのまま画面になっているようなのがあって。
その話に聞いた筐体というのが、多分、ゾンビ女が飛び乗ろうとしているそれなのだ。
「……ザンマ!」
短い詠唱で発動できる得意の魔法。跳躍した彼の掌から衝撃波が飛んだ。
女に向かってではなく、女がまさに着地しようとしていた筐体のカバーに。
「あぁっ!?」
破壊音、空中に飛び散るカバーと基盤の欠片。
足場が砕け散り、壊れた筐体に足を取られた女が悲鳴を上げて転倒する。
このまま距離を取って更に時間を稼ぐことはできる。が、悪魔を召喚するにはまだ時間が足りない。
相手は銃を持っているのだ。オルトロスが完全に実体化する前に撃たれる危険がある。
(だったら、動かれる前に無力化するまで!)
彼は攻勢に転じることにした。武器は刀だけだが、こちらには魔法もある。
ゾンビにはどんな魔法が効くかというのも良く知っている。
着地すると同時に、彼は残骸を避けながら女との距離を詰める。
「アギ!」
迸る炎が女の、執拗に銃を放さないままの腕に襲い掛かった。
(――銃さえ手放させれば、圧倒的に俺が優位!)
魔法による炎は瞬間的なものだが、その火力は自然の炎とは比べ物にならない。
一瞬の内に女の腕が炭化し、ぼろぼろと崩れる。手首から先だけが、銃を握ったまま床に取り残された。
「あ、あぁ……アタシの手……!」
痛みは感じていないようだが、女の声には明らかな狼狽が表れている。
彼はその隙にダッシュし、女の指が絡み付いたままのマシンガンを素早く拾い上げる。
血塗れで傷だらけの白い指が、決して放すまいとでも言いたげにグリップを握って離れない。
当然もう動くことなどない肉片だ。力を込めて指を解くと、女の手首はぼとりと床に転がる。
こんな嫌な感触を味わわなければならないから、こんな光景を見なければならないから、ゾンビの相手は嫌いだ。
「誰だ。お前をこうしたのは」
縋り付くかのように自らの手首を拾う女から距離を取り、奪った銃を構えて尋く。
こいつには会話を成立させる知性が、自分の体への執着が残っている。
ならば、殺されて亡者に成り果てたなら、自分を殺した相手への憎悪も残ってはいないか。
ゾンビを作り出すなどという悪趣味な、ふざけたことをする奴についても情報が得られないか。
それを期待したがゆえに彼は尋いたのだ。
そうさせたのは未だ見ぬ敵への嫌悪感だけでなく、義憤に近い感情だった。
「死人使いがいるんだろう。お前はそいつに殺された。違うか」
「うるさい……」
焼き切られた自らの手首を握り、床に這い蹲ったまま女は呟く。
「殺してやる。アンタも殺してやる。血を寄越しなさいよぉぉぉぉ!」
呟きが次第にトーンを変え、ボリュームを増し、絶叫に変わった。
女は這い蹲った姿勢からそのまま彼に飛び掛かる。
肉食獣が四本の足でそうするように両足と、片方だけになった腕を使って。
彼は舌打ちをする。ゾンビの生者への憎悪と闘争心は容易くは拭い去れないということだ。
今度は簡単に組み付かれるような間合いではないが、このまま逃げ回っては疲れ知らずのゾンビが有利。
感情に任せて隙の大きい攻撃を仕掛けてきたこの機に、大きなダメージを与えておく必要がある。
手っ取り早いのは魔法だが、魔力を使いすぎる訳にはいかない。
悪魔狩りでの疲労もあるし、傷を治すための魔力も残しておかねばならないのだ。
(早速、こいつに役立ってもらうか!)
牽制のためだったとはいえ、マシンガンはいつでも撃てるよう構えている。銃口はゾンビ女に向けたままだ。
トリガーを引く。独特の銃声と共に弾丸が撃ち出され、女の体に幾つもの穴を開ける。
この程度でゾンビが怯むなどとは期待していないが、突撃の勢いを削ぎ、損傷を与える効果は充分にある。
彼女の体を流れていた血は既にほとんど流れてしまったのだろう。血飛沫は上がらず、肉片だけが飛び散る。
しかし女は止まらない。気付けばその姿はもう目前に迫っていた。銃を捨てて刀を構える余裕はない。
銃身が異様な熱を持っているのに気付いたのは、攻撃を防ごうとマシンガンを体の前に突き出した時だった。
女の腕を銃身で受け止めた瞬間、彼は見た。彼自身と女を隔てる狭い空間に散った火花を。
耳を聾する破裂音が轟く。
彼は事態をすぐには飲み込めなかった。理解したのは、腹を割かれるような激痛が走って、そこから血が噴き出すのを見た時。
「銃が……暴発……!」
間近で炎の魔法が炸裂したことで、銃身も弾倉もかなりの高温になっていたのだろう。
そんな状態で掃射を行い、また銃身に衝撃を与えた。
冷静に考える余裕があれば、暴発の危険に気付いていただろう。
弾倉が見るも無残に破裂したマシンガンが、ゲームセンターの床にごとりと落ちた。
痛みと衝撃で立っていられず、彼は仰向けに倒れる。
そのすぐ横に、掃射でボロボロになった女も倒れ込んだ。
(まずい、殺られる……!)
朦朧とした意識の中で警鐘が鳴り響く。人間は深手を負えばろくに動けないが、ゾンビは違う。
女が僅かに体を起こし、這うように近付いてきているのが視界の端に見える。
動かなければ殺される。彼の意識はそれを悟っていたが、体が思うように動かない。
暴発による傷は幸い致命傷ではなかったが、激痛が動きを妨げている。
倒れる時に床に打ち付けたせいもあるかも知れない。全身が、ショックで軽く麻痺したようになっている。
伸ばされた女の手が、彼の体に触れた。生命のない手は酷く冷たい。
探るようにその冷たい指は動き、今や無防備となった喉を探り当てる。
先程までのような力を加えられていれば、簡単に喉を破られるか首をへし折られていただろう。
しかし女の肉体も損傷が激しい。筋肉が傷付けば力が弱まるのは、死体とて同じだ。
爪を立てて抉ろうとしているのか、何度も喉が引っ掻かれる。息が詰まって、彼は小さく呻いた。
やがて女は爪での攻撃を諦めたようだった。その代わりに、今度は片方の手だけで喉を締め付け始める。
掛けられている力は人間と同程度のもの。しかし今の彼には、それを撥ね退けるだけの抵抗も覚束ない。
どうにか動く両手で女の腕を掴んで引き剥がそうとするが、じわじわと首を絞められる内に意識が朦朧としてくる。
(ああ……俺はここで死ぬのか)
視界が霞み始めた。いやに静かなのは聴覚も失われつつあるせいか、本当に何の物音もないのか。
(駄目だ、まだ死ねない。俺にはまだ役目が)
「あなた方こそ救世主です」と告げられた日のこと。シェルターでの戦い。荒れ果てた地上。
救わねばならない世界の光景が次々に頭を過ぎり、死に際に走馬灯が見えるというのは本当なのだと思う。
平穏だった日常。ずっと苦楽を共にするのだと思っていた親友の笑顔。いつも側にいてくれた恋人の微笑み。
そうだ、彼女は今もシェルターで待っているに違いない。
ここで死んでしまったら彼女のもとには帰れない。悲しませてしまう。
(俺は……帰るんだ、あの世界に)
呼び覚まされた意志が、ほんの僅かに、彼の動かない体を動かした。
締め付けられて潰れそうな喉から、掠れた声が絞り出される。
「…………――ヒロコ」
呼んだのは、愛する人の名前。
その瞬間、彼の喉を締め付けていた力がふっと緩んだ。
「……どうして」
女の声が聞こえた。
突然解放された理由もわからず、彼は咳き込みながら空気を貪る。
敵は何故か止めを刺せる直前で攻撃の手を止めたらしい、ということだけは理解できるが。
喘ぎながら目の焦点を合わせる。真上には女の顔。つい今の今まで戦っていたゾンビ女の顔だ。
しかし先刻までの憎悪に満ちた表情はそこにはない。彼の顔を覗き込むような格好で、女は困惑の表情をしていた。
「どうして、アンタが知ってるのよぉ……アタシは知らない、アンタなんて覚えてないのに、なんで」
虚ろな目が縋るように彼を見つめる。女に何らかの変化が起こったことは言うまでもなかった。
呼吸を整えながら、彼もまた探るように女を見返す。
「ねぇ、なんであなた、アタシを……私の名前を……どうしてか、思い出せないのよぉぉ」
(――名前?)
朦朧とした意識の中で、そういえば、名を呼んだのだ。
故郷で待つ恋人の名。それにこの女は、反応したのだろうか。
放送で呼ばれた死者の名の中に、彼女と同じ、その名前があったのを思い出す。
「……ヒロコ?」
もう一度、今度は目の前の女に向けてその名を呼んだ。
「アタシを……あなたは、知ってたの? 私はアンタを……ねぇ、忘れてるだけ? 私、忘れちゃったの?」
生気のない目の中で、混乱と不安と期待の色が次々と入れ替わる。
女が正常な精神状態を保てていないのは明らかだが、それは同時に彼女が敵意だけで動く存在ではないことも意味する。
「アタシ、きっと大事なことを忘れて……」
「大丈夫だ、ヒロコ」
彼女のことなど何も知らない。生前の記憶を戻してやることなどできもしない。
しかし、彼は思わずそう口にしていた。ただ、そうすれば彼女は安堵できるのではないかと思ったから。
よろよろと身を起こして、治癒呪文を唱える。消耗は避けたいとは言っても傷を塞ぐのが先決だ。
何度か詠唱を繰り返すと、腹の傷は少なくとも見た目の上では塞がった。
爪で抉られた腕の傷にも治癒魔法を使い、ひとまず出血は止めた。
疲労で倒れてしまわない程度に治すのは、今の時点ではこれが精一杯だ。
ゾンビ女はその間、うつ伏せで床に転がったまま動こうとしなかった。
同じような言葉を何度も呟いたり、問い掛けてきたりはしたが、心なしか落ち着いてきたようにも見える。
「……誰が、お前をこんな体にした?」
先程と同じ問いをまた投げる。今の彼女なら答えてくれそうな気がした。
「痛くも苦しくもない体に、って、何も怖くないって、神父様が。――そう、神父様が言ったの。殺さなきゃ。
全部全部殺して、アタシと同じに、みんな」
「そんな必要はない」
怒りを覚えながら、彼女の言葉を遮る。
神父と呼ばれるような男に心当たりはない。しかし参加者の誰かが彼女を殺し、甦らせ、皆殺しの命令を植え付けたのだ。
そいつにも生き残らねばならない理由があるのかも知れない。勝者となるには手段を選んではいられない。
そう理解していても、その男への怒りは抑えられそうになかった。
恋人と同じ名の女の無残な姿を見たせいか、それとも相手が過去を思い出させる死人使いの術を用いたからか。
「殺さなきゃ。そうよアンタも、あの子も、みんな……」
「――オルトロス」
召喚の呪文を唱える。傍らに魔獣の姿が現れた。
激しい戦闘の跡と傷だらけの二人を見て、オルトロスは驚いたように小さく唸る。
「派手にヤッタな。オレを召喚すれば良かったものヲ」
「こいつを灰にしろ。跡形も残すな」
軽口には応えず、横たわる女を視線で示す。
「ゾンビ……カ」
「……楽にしてやれ」
女が顔を上げた。虚ろな目には縋るような色がある。肉体を失うことはゾンビにとっても恐ろしいのだろうか。
生ける屍と成り果てた者の肉体が消滅したとして、その魂がどこへ行くかは彼にはわからない。
朽ちた肉体の呪縛から解放されて安らかに眠れるのか、それとも悪霊となって彷徨うことになるのか。
ただ、こんなボロボロの姿で殺戮の道具にされているよりは、まだ救われる気がした。
「お前はもう殺さなくていい。その神父とやらも、じきにあの世へ送ってやる」
「ねぇ、あなたは……」
彼の言葉を、どこまで理解しているのだろうか。
返事はせずに、彼を見つめて女は問う。彼にはその表情が、独りで死にゆくことを不安がっているように見えた。
「あなたは誰?……私を、知ってたの?」
「俺は」
オルトロスに目で合図する。もう終わらせてやれ、と。魔獣が頷いた。
「――俺は、メシアだ」
それが、彼女が現世で聞いた最後の言葉になったろう。
オルトロスの吐き出した紅蓮の炎が彼女の朽ちた体を包み、焦がし、焼き尽くしていった。
「……コレで、いいカ」
さらさらと床に崩れる灰の山から、オルトロスは主人に振り返る。
灰の中には骨の欠片も残っているが、動き出す様子はない。死人使いの呪縛は解けたのだろうか。
「ああ。構わん」
複雑な思いでそれを眺めながら、彼は呟いた。
――その時、ふと視界の隅に奇妙な物が映った。懐中時計ほどのサイズの機械のように見える。
ゲームの筐体の部品ではないだろう。女が持っていた物か。
彼のその視線に気付いたのか、オルトロスがそれを咥えて持ってくる。
「何ダ、これは」
膝の上に落とされたそれを手に取り、観察する。
円形をした機械の前面は、何かを表示するための画面のようになっている。
その中央に光点が一つ。それ以外には何も見えない。
「レーダーに見えるな……」
裏返してみると、見覚えのある図形が刻まれていた。思わず自分の鎖骨の上に目を遣る。
「なるほど……そういうことか」
刻まれている図形は、参加者に刻まれた呪いの刻印と同じ。つまりこれは、その刻印を探知する物なのだ。
あの女が獲物がいるのを知っているかのようにゲームセンターに踏み込んできたのも、それで納得がいく。
これは使える品だ。獲物を探すにも、危険を避けて移動するにも利用できる。
しかし、今はそのどちらもできそうにない。戦闘に加えて魔法での消耗もあり、疲労が限界に達していた。
「オルトロス。俺は休む。そいつを見張って……近付いてくる奴がいたら教えろ」
「わかった。人ガ近付いたら、こいつでわかるんダな」
床に置かれたレーダーをオルトロスが覗き込む。
強力な魔獣が見張っていれば、ここに住む悪魔も手を出しては来ないだろう。
次の放送の時間には悪魔も強くなるのだろうが、それまでには疲労も回復するはずだ。
少しでも快適な所で休みたい。力を振り絞って立ち上がり、体感ドライビングゲームのシートに体を埋める。
(俺は、帰らなければならないんだ)
彼は目を閉じる。生まれた世界の光景と、待っているはずの彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
(生き残るために、俺には勝つ必要がある。……俺は間違っていないよな、ヒロコ)
瞼の裏の彼女の顔が、少し、悲しげに歪んだような気がした。
【ダークヒーロー(女神転生2)】
状態:極度の疲労・体力消耗
武器:日本刀
道具:溶魔の玉 傷薬が一つ 呪いの刻印探知機
少々のMAGとマッカ(狩りで若干増えたが、交渉に使用した為共に減少)
現在地:夢崎区/ムー大陸
行動方針:戦力の増強 ゲームの勝者となり、元の世界に帰る
【ヒロコ(真・女神転生U)】
状態:肉体消滅 |