女神転生バトルロワイアルまとめ
第111話 彼女のModern…

レイとたまきの二人はキョウジとアキラが向かいそうな場所を探し、地図を広げていた。
この政令指令都市スマル市はほぼ円形をしている。
七夕川に囲まれた中州にある蓮華台を中心に、西側にあるのが今自分達のいる平坂区だ。
その北側に蝸牛山がある。名前からして確実に悪魔が出没しそうな場所だ。
「その管ってのが使えたら…蝸牛山って所に行ってみる価値はあるのにね。」
レイが地図上の蝸牛山を指差しながら溜息混じりに呟いた。
「そうだね。悪魔と交渉出来たら道具とかもらえるかもしれないし……。
運が良かったら仲魔になってもらえるかも。」
それが今は出来ないからこの山に用は無い。たまきも溜息をついた。
ふと目に入ったレイの指はほっそりとしていて長い。
普段はきっちりとした皮手袋を嵌めているが、今は戦闘状態では無いからか、外している。
彼女の爪にはリップに合わせて赤いマニキュアが丁寧に塗ってあった。
指を辿って改めて彼女を見ると、ストライプのスーツがスラリとした長身に良く似合っており、
ブラウスの首元から微かに香るコロンもさり気なく趣味がいい。
勿論大人の女性として化粧もばっちりだ。だが、それでいて下品ではない。
それどころか整った顔にくっきりとしたアイラインは、野生的な味付けの中に気品すら垣間見れた。
つまり、レイは同性のたまきから見ても全く隙の無い美女ということである。
この姿だけを見たらデビルサマナーの補佐を生業としている戦巫女だとはとても思えない。
さしずめ仕事をバリバリこなすキャリアウーマンと言ったところか。
たまきはいつか自分もこんなにも魅力的な大人の女性になりたいと、ふとそんなことを思った。
勿論、先にこの地獄の街から脱出することが最優先の望みなのだが。
視線を上の空から地図に戻す。
「平坂区の真南に青葉区…確か工業地帯ね。で、七夕川を挟んで北西が夢崎区。
普段ならここが一番人が集まる場所だけど…。」
「だけど?」
途中で言葉を区切ったたまきの顔を覗き込み、レイが首を傾げる。
「夢崎区ってのはいわゆる若者の街≠チてヤツだから、こんな時まで遊びに来る人はいないと思う。」
「そりゃそうね。じゃあこの下の青葉区ってのは解る?」
「青葉区はビジネス街。テレビ局とか雑誌社新聞社もあるから…。」
「新聞社……そうね、こんな状況だし、私だったらまずここに向かうわ。
全然知らない街だからまず情報が欲しい。私だけじゃない。普通はそう考えると思う。」
レイが言うそれは至極真っ当な判断だ。

「じゃあ、アキラもそっちに向かってるかな。キョウジさんって人も。」
「うーん、キョウジも多分私と同じこと考えてると思うから、そうね。」
「とりあえず行き先は青葉区でいいとして……でもすぐに行くのは危険よね。
多分、あたし達と同じことを考えてる人って多そうだし、ひょっとしたら戦いになるかもしれない…。」
たまきの言うとおり二人のひとまずの目的地が出来たが、すぐに出発というわけには行かない。
レイの魔法が封じられているからだ。
この状態で殺意のある誰かと戦闘になったら極めて危険だ。
たとえ魔法が使えなくともレイには武術の心得がある。
だが、それでも彼女の主力は魔法にあるから不安は拭えない。
たまきもそれなりに戦いには慣れているつもりだが悪魔が召還出来ない以上、
手持ちの銃を過信することは出来なかった。
「ごめんね。私がヘマをしたばかりに。」
「ううん、そんなこと無いよ。
いきなり殺し合いしろなんて言われて、しかも襲われたのが悪魔なら仕方無いよ!」
肩を落とすレイに気を使って、たまきはややオーバーリアクションで両手をぱぱっと横に振った。
その仕草にレイは小さく微笑を漏らし、たまきもそれに釣られて笑顔を見せた。
たまきが大人の女性として完璧な振る舞いを見せるレイに憧れる一方、
レイの方もまた、たまきの少女らしい無垢な明るさに惹かれるものがあった。
自分が彼女くらいの年頃には巫女としての修行に明け暮れていた。
青春時代なんてものは彼女の中には存在しないのだ。
たまきは若くて愛らしい姿で、明るい青春を謳歌しているからこそ、その藍色のブレザーが似合っている。
化粧なんてしなくても、きれいな肌と笑顔はそれだけで眩しいほど輝いていた。
ちょっと、ほんのちょっとだけど、妬けるくらいに。
「まず揃えなきゃいけないのは回復出来る道具だね。
えーっと、平坂区ってサトタダあるじゃん。
地図だとこっちで合ってるよね……。」
「サトタダ?」
「あ、サトタダってのはね、このスマル市とあたしのいた御影町にあるドラッグストアだよ。
店内で変なBGMかかっててちょっとウケるよ。今は多分、流れてないと思うけど。
それにどの店舗に行っても店員が同じ顔なの。
家族経営らしいけどマジヤバイくらい似てるから笑っちゃうよ。」
「へぇ、面白そう。元の街に戻れたら行ってみようか。二人で。」
「あはは、レイお姉さんにデートに誘われちゃった。
でもいいの? キョウジさん置いて行って。」
「キョウジはただのビジネスパートナーだから大丈夫。安心してちょうだい。
そっちこそアキラ君はいいのかしら?」
「アキラこそただの友達だよ! 
あ、でもアキラとキョウジさん入れてダブルデートってのも悪く無いかも。」
「キョウジはデートとかって言うタイプじゃないんだけどね。」
「あ、レイさんってばちょっと照れて…」
場にそぐわない女の子ならではの会話に花を咲かせていた二人だが、たまきが急に足を止めた。
自然、レイもその場で立ち止まることになる。
「どうしたの?」
「えっと……」
たまきは先ほどまでの明るい表情から一転して青ざめていた。
ほんの数秒前までの笑顔のまま表情を凍りつかせている。今にも震えだしそうだ。
「レイさんごめん、その……別の道進まない?」
「え? 何で? こっちが一番近道じゃないの?」
レイの疑問は当然だ。
だけど、たまきは頑としてそこから歩みを進めようとはしなかった。
この道の先にある空き地で、たまきは既に一人殺しているのだから。
まだそこにはエルミン学園の制服を着たあの男の死体が転がっているはず。
片目をアイスピックで抉り、顔面を石で砕けるほど殴って殺したあの男が――。
そのことはレイには話していない。当面は話す必要が無いと思ったからだ。

だって仕方無いじゃない! あっちから襲ってきたんだから!
あの時はあたしだってどうかしてたと思うよ。
すごく怖かった。いきなり殺されるかと思ったんだから。
だから仕方無いじゃない!
ああこんなことレイさんに言ったらどう思われるだろう。
きっと嫌われる。あたしはレイさん嫌いじゃないよ。むしろ好きだよ。
でも、でも、でも……好きだけど、まだこんなこと言えるほど信用してるワケじゃないよ!
……信用してないって…何よそれ、あたしバカじゃないの?
バカって言うか嫌なヤツ…。
信用してない人と一緒にいてどうするつもりなのよ。利用するだけ利用してポイ?
レイさんみたいにいかにも出来そうな大人の人を?
それにレイさんだって……。
……今は仲間って感じだけど魔法が使えるようになっても仲間でいてくれるのかしら?
回復した途端にメギドラオンとか撃ってきたらヤバイよね……。
いや、魔法使えなくてもあたしがもう人を殺してるって知ったら……あたしを殺す?
殴って? あ、でもあたしには銃があるし……。
……ってあたし何てこと考えてんのよっ!
どうしたらいいのよ、もう…………。

「たまきちゃん大丈夫? ちょっと顔色悪いよ!」
レイが半身を屈め、手でたまきの頬をピタピタと軽く叩き、それでたまきはようやく正気を取り戻した。
「え、その…ごめんなさい。何でも無いの。」
「本当? 気分が悪いのならどこかで休憩にするけど。」
「大丈夫だから、マジで……。」
言えない。
急に押し黙った自分を本気で心配してくれているレイに本当のことなんてとても言えない。
「あの、でもこっちの道はやっぱり良くないよ。そんな気がする。」
(ちょっとどうしよう、頭がこんがらがる。上手い嘘が思い浮かばない!)
「うーん…でもここは悪魔出ないし、殺気も感じないけど。
遠回りしなきゃいけない理由でもあるのかしら。」
「え? そんなことは無いよっ、無い…よ。」
「本当に? 
あの、たまきちゃんすごい汗だけど、疲れてるんなら言ってちょうだい。
どこか休めそうな場所を確保するから。」
「心配しないで。あ、そうだ!」
たまきは無意識の内に滲み出す汗をブレザーの袖口で拭い、無理な笑顔を作って手を打った。
「あたし、ちょっと偵察に行ってくる! レイさん待ってて。すぐに戻るから!」
「え? ちょっとたまきちゃん、ちょっとー!」
レイが止めようとする手を振り払ってたまきは全力で駆け出した。
行き先はあの空き地だ。
先に行って、あの男の死体を隠す。
死んでからそれほど時間は経ってないからまだ臭いも出てないはず。
(回復道具が必要なレイさんがただの空き地に注目するはずが無い。
だから、死体が見えなければ多分、気付かないよ!)
――本当は何食わぬ顔で通りかかりっておけばよかった。
そ知らぬふりをして「何て酷い…」とか呟いておけばやり過ごせるようなことだった。
だが困ったことに、軽く混乱してしまった今のたまきはそこまで頭が回らなかったのだ。
だから、ひょっとしたらだが、最悪な地雷パターンを選んでしまったのである。

食料が揃ったら次は武器、防具、そして傷薬なんかも欲しいところだ。
舞耶、ネミッサ、タヱ、そしてピクシーは揃って平坂区を歩いていた。
幸いこのパーティーにはスマル市の地理に詳しい舞耶がいたので最短ルートで用事を済ませることが出来る。
平坂区は下町の名に相応しい小さな商店街「カメヤ横丁」がある。
そこにサバイバルショップとドラッグストアがあることも舞耶は知っていたので助かった。
カメヤ横丁には「がってん寿司」という寿司屋があり、舞耶にとって大切な人物の家でもあった。
当然今は無人であろうがってん寿司だが、その大切な人物、三科栄吉はどうしてるのだろうかと頭を掠めた。
「あの、舞耶さん、どうかしたの?」
押し黙ってしまった舞耶の横を歩いていたタヱが心配そうに尋ねた。
「うん、大丈夫。実はね、カメヤ横丁に友達が住んでたんだけど……」
「マジで? じゃあ絶対生きてここから脱出しなきゃ。その友達も心配してると思うからね。」
「ネミッサちゃん……」
ネミッサは舞耶が心配していることを、全く反対に捉えていた。
つまり、舞耶の友人、三科栄吉は無事であるということを前提に考えているのだ。
そういう明るさがネミッサのいいところで、舞耶の気に入っているところでもある。
「そうよ、特ダネを掴んだんだから早く帰ってお給金でお寿司でもおごってあげましょう!」
「タヱちゃん……」
タヱもネミッサと同じ捉え方で安心する一方、苦笑いが出た。
「あ、でも栄吉クン…その友達、お寿司屋さんの息子さんで、お寿司が苦手なのよ。」
「マジで? 寿司が嫌いってゼータクなヤツ!」
「何か毎日食べさせられて飽きちゃったんだって。」
「おすし?」
あからさまに不機嫌そうな顔を見せるネミッサの肩に止まっていたピクシーが首を傾げた。
悪魔の世界には寿司なる食べ物が存在しないのである。
「お寿司ってのはね、酢で味付けしたご飯に魚のネタ乗っけた料理で…。
帰ったら一緒に食べに行きましょう。」
「本当? 嬉しいーっ!」
ピクシーには今の舞耶の説明だけで寿司を理解できたとは思えないが、
彼女は純粋にみんなで食事に行けることに喜んでいるようだ。
「で、そのカメヤ横丁ってのはこっちの道でいいんだよね?」
タヱが改めて行き先を指差して舞耶に確認した。その先には小さな空き地が見える。
そこを曲がってそのまま真っ直ぐ行けばカメヤ横丁の入り口が見えてくると、舞耶は断言したが、念のための確認だ。
「ええ。何度も通ってる道だから任せて! レッツ・ポジティブ・お寿司屋さん!」
「全然違うよ舞耶さんっ!」
「ごめーん、食べ物の話してたらお腹すいてきちゃって。」
「舞耶さん、さっき食べたんじゃなくて? しかも一番たくさん……」
舞耶のボケに突っ込みを入れているタヱの二人をすり抜け、何かに気付いたネミッサは手を翳して二人の足止めをした。

「二人ともちょっと待って、人がいる。」
ネミッサの殺した声に舞耶とタヱは互いを見合わせた。
即座に緊張が走った。
すぐ傍にある民家の塀に隠れ、先ほどのボケとは一転して真剣な顔になった舞耶が空き地の方を覗き見た。
更にその横から覗いたタヱは空き地に広がっている光景に思わず気を失いそうになった。
「タヱちゃん…!」
倒れそうになるタヱをネミッサと、ついでにピクシーも支えた。
「ごめんなさい。いつまで経っても慣れなくて……でももう大丈夫だから。」
タヱはずれたクロシュハットを直し、深呼吸して息を整えた。
彼女が気絶しそうになるのも無理は無い。
三人の視線の先にある空き地で、一人の男が死んでいたのだ。
男と言っても年齢はまだ十代半ばくらいである。エルミン学園の制服を着ていた。
そしてその死に様は何とも悲惨としか言いようが無い。
片目を抉られた上、顔全体がぐちゃぐちゃに潰されている。
彼が愛用していたのであろう眼鏡がまだ耳に辛うじて引っかかっているのも人間臭く、
無慈悲な演出のようで悲惨さをさらに引き立てていた。
その死体を一人の女の子が引きずって運ぼうとしていたのだ。
「たまきちゃん……!」
しかもその女の子が見知った顔であった舞耶は息を飲んだ。
「舞耶の知り合い?」
「え、ええ……ちょっと行ってくる。」
「舞耶さん、ダメ!」
勢いに任せて走り出そうとする舞耶の腕をタヱが掴んで引きとめようとした。
だが、ほんの少し遅かった。
タヱに腕を引かれた状態で、舞耶が前につんのめりながら飛び出してしまった。
その時、女の子と、舞耶とタヱはばっちり視線をかち合わせてしまったのである。
「誰!」
少女は引きずっていた死体をその場に転がし、ブレザーの下に隠していた銃を取り出し、舞耶たちに突きつけた。
「たまきちゃん! どうしたのよ一体!」
「え? あたしを知ってる? 誰?」
「覚えてないの? 
ほら、葛葉探偵事務所でいつもお世話になってる天野舞耶なんだけど……。」
「くずのは? 天野…さん?」
たまきはタヱを引きずったまま空き地のすぐそばまで歩み寄ってきた舞耶の顔をまじまじと見つめた。
勿論、銃を構えたままだ。安全装置は外している。
タヱは舞耶の腕に半ばしがみつくようにして震えていた。
銃を向けられているのだから当然だ。
たまきは舞耶に見覚えがあるはずが無い。
高校生のたまきは卒業後に顔見知りとなる舞耶とは、この段階では出会ってすらいないのだから。
「たまきちゃんその制服……そっか、私たちが出会う前のたまきちゃんなのね。
たまきちゃん、私あなたの敵じゃない。大丈夫だから信じて。」
「え? どういうこと……?」
たまきにとって意味の解らないことを口走る舞耶に彼女はきょとんとした。
目の前の女にはまるで敵意が無いのだが、それでも念を入れてたまきは銃を下ろさなかった。
舞耶は続けた。
「私の名前は天野舞耶。キスメット出版で雑誌記者をやってるの。
あなたが高校を卒業した後に、私達葛葉探偵事務所って所で出会うことになってるのよ。」
冷静に未来の出会いを説明する舞耶だが、当のたまきにはとても信じられないことだった。
だからと言って彼女がまるで嘘をついているようにも見えない。
丸っきり嘘を言っている人間なら、自分のことをそんなに真っ直ぐ見つめることは出来ない。
だけど……。

「そいつ、あんたが殺ったの?」
舞耶たちの横から現れたネミッサがたまきの足元に転がる死体を指差して言い払った。
「ネミッサちゃん!」
舞耶の制止を聞かず、ネミッサは続けた。
「そいつの死体、どうするつもり?」
たまきは死体をどこかに運ぼうとしていた。
現にこうやって誰かに目撃されるというリスクを負ってまでやろうとしたことだ。何か意味があるはず。
ネミッサはそう踏んでいた。
「これは……その」
たまきは口ごもった。
「何も言わないんだったらアタシたち、そいつあんたが殺ったって取るよ。」
ネミッサが組んだ腕の右手に小さな電撃が走った。
「ネミッサちゃんダメ!」
舞耶がネミッサの魔力が籠った腕を押さえつけて止めた。まさに一触即発の空気だ。
「早く質問に答えてよ。そいつ、あんたが殺ったの?」
「ネミッサちゃん、もっとソフトに言ってよ!
たまきちゃん、違うからね、私たちあなたを疑ってるってわけじゃ…」
ネミッサを止めながら言いかけて、たまきの方に振り返った舞耶は言葉を途切れさせた。
たまきの運ぼうとしてた死体が誰だったのか気付いてしまったからだ。
その名は里見正。たまきが将来恋人として選ぶ相手である。
「あたし、違うからっ……!
あたしが殺ったんじゃないから……!」
そう言って否定するたまきの顔は青ざめ、今にも泣き出しそうになっていた。
銃は今もなお構えたままだが、その足元は音が出そうなほど大きく震えている。
「だったらそんなにビビること…」
ネミッサが止める舞耶を押しのけ、たまきの方に一歩踏み出した。
「来ないで!」

バン!

「きゃあっ!」
すっかり混乱してしまっているたまきが暴発させたデザートイーグルの弾丸は舞耶の右脚の太もも辺りを掠めた。
「舞耶さん!」
衝撃で倒れこむ舞耶をタヱが助け起こす。
「大丈夫。そんなに傷は深くないと思うから」
「ディアディアディア!」
ピクシーが咄嗟に舞耶の傷口にディアをかける。傷はすぐに塞がったが、傷跡は完全に消えなかった。
悪魔の回復魔法力も抑制されているのである。
「このぉ!」
弾が舞耶に当たったことに激情したネミッサがたまきに踊りかかり、ジオンガを発動させた。
「いやあああああああああああああああ!!!」
ネミッサが放った強烈な電撃は、たまきの持っている鋼鉄の銃に吸い寄せられる。
反射的に投げ捨てようとしたが、勢いが余ってまた暴発。

バン、バン!

オートマチックの銃は二発乱発するとたまきの手から離れ、細い煙を上げながら地面に転がる。
たまき自身も両手に火傷を負ってしまい、混乱に拍車を掛けた。
「いやっ、いやぁっ!」
赤く爛れた手で頭を抱え、髪を振り乱しながらも彼女は見た。目の前に蹲るネミッサの姿を。
「ネミッサさん! ネミッサさん!」タヱもすっかり青くなっている。
たまきが暴発させた弾丸の内、一つがネミッサの腹に当たったのだ。
「ちくしょう…やってくれたな……」
血が溢れる腹を押さえつけ、半身を屈めてたまきを睨みつけるネミッサの口元からも血が零れていた。
「あああああ…いやあああああっあああ!!」
ネミッサの燃えるような瞳に睨みつけられたたまきは、嗚咽の混ざった悲鳴を上げると一目散に逃げ出した。
ショートした銃も、男の死体もその場に置いて。
「ちょっと貴女…」
いつの間にかスカートの中から銃を取り出していたタヱが、慌てて逃走するたまきを追おうとした。
「ダメだよタヱ、殺されちゃう!」
だが、そのタヱの肩をピクシーが小さな手で掴み、止めた。
彼女の可愛らしい口から出た「殺されちゃう」という単語に、タヱの心臓は大きく跳ね上がる。
改めて恐怖を感じ、タヱはまだ満足に扱うことすら出来ない銃を持ったままその場にへたり込んでしまった。
「ペルソナ!」
舞耶がペルソナ・アルテミスを召還し、ネミッサにディアラハンを掛ける。
「ネミッサちゃん、しっかり。今助けるから!」
そうは言ったものの、やはり回復魔法は上手く発動しない。
だが対応が早かったお陰でネミッサの致命傷だけは避けられたが、しばらくは動けないだろう。

「あっ!」

混乱しながら走り出したたまきは、前から人が来るのに気付かず、そのまま正面からぶつかった。
「きゃああああ!」
「た、たまきちゃんっ、どうしたのよ一体…!」
それはたまきの用事のせいで待たせていたレイ・レイホウであった。
たまきに置いて行かれた後、銃声と悲鳴が聞こえ、たまきを追ってきたのである。
レイのことを確認するや否や胸にしがみついてくるたまきの両手を見たレイは眼を大きく見開いた。
「ちょっとたまきちゃん、その手誰かにやられたの? さっきの銃声、まさか…」
「レイさんごめんなさい! あたし、殺しちゃった! 人を殺しちゃったよ……!」
「何ですって! たまきちゃん、何があったの?」
「また殺しちゃった、殺しちゃった、殺し、殺し…殺……また……殺」
とにかく、まずはたまきを落ち着かせよう。
そう考え、胸にしがみついてしゃくり上げるたまきの頭を撫でてやりながら、レイはその先にあるものを見た。
幸い向こうからは死角になっていてこちらには気付かれていない。
レイの視線の先には、見覚えのある銀髪の少女が血まみれで倒れている。
その脇で必死に魔法を掛けて治癒しようとする女性がいた。
そして銃を持ったまま座り込んでいる女性、それからピクシー。
さらにそのすぐ近くには見るも無残に顔を潰された男の死体があったのだ。



【時間:午前10時過ぎ】
【レイ・レイホウ(デビルサマナー)】
状態 CLOSE
武器 プラズマソード
道具 不明
現在地 平坂区
行動方針 CLOSE状態の回復、キョウジとの合流、仲間を探す

【内田たまき(真女神転生if…)】
状態 PANIC 両手に火傷
武器 なし
道具 封魔管
行動方針 身を守りつつ仲間を探す
現在地 同上

【天野舞耶(ペルソナ2)】
状態 魔法使用と睡眠不足で少しだけ疲労  脚の傷は回復
防具 百七捨八式鉄耳
道具 脇見の壷、食料品少し
現在地 平坂区のスマイル平坂
基本行動方針 できるだけ仲間を集め脱出方法を見つけ、脱出する。
現在の目標 ヒーローと合流する

【朝倉タヱ(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態 正常
武器 MP‐444
道具 参加者の思い出の品々 傷薬 ディスストーン ディスポイズン、食料品少し
現在地 同上
基本行動方針 この街の惨状を報道し、外に伝える。 参加者に思い出の品を返す。
      仲間と脱出を目指す。
現在の目標 ヒーローと合流する

【ネミッサ(ソウルハッカーズ)】
状態 腹に銃撃を受け失血(魔法である程度回復したが安静が必要)
武器 MP‐444だったがタヱに貸し出し
道具 液化チッ素ボンベ、食料品少し
現在地 同上
基本行動指針 仲間を集めて、主催者を〆る。
      ゲームに乗る気はないが、大切な人を守るためなら、対決も辞さない。
現在の目標 ヒーローと合流する

【ピクシー(ザ・ヒーローの仲魔)】
状態 魔法使用により少し疲労
現在地 同上
行動指針 ヒーローの任務遂行。ヒーローのもとに戻る

***** 女神転生バトルロワイアル *****
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