女神転生バトルロワイアルまとめ
第114話 真昼の謀略

この鳴海昌平は狂っている。
狂っているが俺は・・・自分を知っている。
自分がまともにやって最後の一人になれる等とは夢にも思っていない。
軍隊格闘に通じる自分ではあるがそれを上回るものが大勢いるのは実感している。
故に俺は・・・利用しなければならない。
あのスプーキーにそうしたように。
人を、物を、そして悪魔を。
全てを。
弱い者から奪い、強い者は使う。
さしあたって俺に必要なもの。
それは適度に強い仲間だ。
スプーキーのようなカスでは駄目だ。
あれでは役に立たない。
余り強すぎても駄目だ。
即座に殺されてしまいかねない。
自分は悪魔と出会う必要がある。
そうだ、仲間には悪魔に関する知識も欲しい。
悪魔召喚プログラム、悪魔に接触する必要があるからな・・・。
理想は・・・自分より強い、しかし自分を殺してしまうほど好戦的でもなく。
さらには悪魔の知識を有している。
妥協はしよう、相互利用でもこの際かまわない。
もうここにはいられない。
蓮花台にもだ。
万が一にも自分の殺意を悟られてはならない。
そのためには違う土地に行かなければならない。
行き先は何処でもいい。
利用できるものがいるなら何処でも・・・。

 

平坂区
迷彩柄のジャケットを羽織った眼鏡の男・・・カオスヒーローが一人路地裏を歩く。
「ちっ・・・誰もいやしねぇ」
不機嫌そうにつぶやいてみたものの本心では少し安心していた。
この平坂区はもしかしたら安全なのか?
もしそうなら自分がこのあたりに潜み続ければ数が減り有利になるのではないか?
───もしそうならあいつだって・・・。
「・・・くそっ」
まただ、またカオスヒーローはあいつ・・・人修羅のことを気にしている。
手も足も出ない恐怖、屈辱。
「力さえあれば・・・」
カオスヒーローの口癖。
心の中に嫌というほど存在するその感情は気を抜くと口の端から漏れてしまう。
「・・・・・・くそっ!」
いつものセリフを口走ってしまった自分に苛立った。
カオスヒーローは考える。
この限定的な状況下で最も効率的に力を得る方法を。
いまさら体を鍛える時間など無い。
となれば。
「・・・・・・支給品だ・・・・もっと強い支給品、それさえあれば」
弱者が強者を倒す方法が無ければそれは「殺し合い」ではなく「虐殺」だ。
例えばカオスヒーローは魔法が使える。
これは使えないものからしてみれば恐怖でしかない。
その差を埋めるもの、それが支給品であるはずだ。
この町のどこかにはあいつさえ殺せる支給品があるかもしれない。
「俺より弱い奴から支給品を奪い・・・俺より強い奴を殺す・・・俺は力を得る」
そうつぶやくとカオスヒーローはまた進みだした。

 

それは限りなく公平であった。
距離も、タイミングも、どちらに取っても有利にならない絶妙の位置で。
S地になった路地で周囲を警戒しているとき。
カオスヒーローと鳴海昌平はほとんど同時に互いを視認した。
お互い即座に壁の奥に引っ込む。
これでお互い、どんな飛び道具を使おうがそうそう致命傷を与えることは出来なくなった。
カオスヒーローは考える。
(勝てるか?相手の武器は?それにかかわらず戦闘力は?)
鳴海昌平は考える。
(見つかった?俺が先に見つけるのが理想だったが・・・どうする?奴は使えるか?)
戦うことを前提とするカオスヒーロー。
利用することを前提とする鳴海。
そこに行動の違いが現れた。
「アギラオッ!」
カオスヒーローが火の玉を飛ばす。
当然、塀の奥に隠れている鳴海に当たりはしない。
しかし、カオスヒーローにとってはそれでいい。
(これを見て逃げるようなら追って殺すッ!向かってくるなら逃げた後姿を隠して殺すッ!)
いわばアギラオはテスト。
塀の奥にいる見知らぬ者の実力と行動傾向を計るリトマス紙。
しかし鳴海の取った行動はカオスヒーローの予測したどちらでもなかった。
鳴海は逃げずかといって前にも出ないまま声を上げた。
「投降するよ・・・」

鳴海は今の火の玉を見て確信した。
───こいつは、使える。
隠れたまま火の玉を撃った。
自分の実力に絶対の自信を持つものなら、こんな回りくどいことはしない。
あの魔人皇のような襲い方をする。
しかし彼は様子を見た。
自分より相手のほうが強い可能性を考慮した。
つまり彼はこの場で自分が最も強い、あるいは強いほうであるとは思っていない。
だがこちらが誰かは正確に確認せず攻撃してきたことから優勝する気ではある。
以上のことを統合するとこの行動・・・慎重とも取れるがその本質は臆病。
優勝するつもりではあるが相手の実力が自分以上だった時自分の身に降りかかる事象に対する恐怖。
───つまり彼は一度以上の敗走を経験している。
自分ではかなわない存在を知っているからこその慎重。
それにより植えつけられた臆病。
───今はやる気というのが少々問題だが・・・合格だな。
鳴海の口が歪む。
邪悪な笑みだ。
───交渉次第で奴を利用することは十分出来る、そのためには。

 

「投降するよ・・・」
鳴海は逃げることも立ち向かうこともしない。
ただカオスヒーローに語りかける。
「・・・どういうつもりだ?」
投降するといわれてのこのこと出て行くほどカオスヒーローは間抜けではない。
罠か?ハッタリか?もしくは他の何かか?
カオスヒーローの思考を猜疑心が覆っていく。
「なに・・・逃げても向かっても殺されそうなんでね、疲れるのは嫌だ」
お互いの戦力を公平に判断すれば鳴海は圧倒的に不利だ。
しかしその判断を下せるのは鳴海だけである。
カオスヒーローには鳴海の実力はわからない。
伏せたカードは鳴海のほうが多い。
この時点で戦闘力の優位性と反比例するかのように精神の優位性は鳴海が圧倒的に勝っていた。
「ふん、投降したところで殺すぜ」
時間稼ぎには成功した。
今のセリフを聞いた鳴海はそう考える。
まだ相手はこちらの実力を測りきれていない。
本当に殺すならあんなことを言う前に殺しに来る。
やはり慎重・・・・・・いや、臆病な男だ。
そして、わざわざあんな発言をしてくる負けず嫌い。
鳴海の頭脳はそんな男に対する最も効果的なセリフを作り出す。
「ま、僕を殺したところで優勝できないだろうけどね、君じゃ」
「・・・・・・なんだと?」
「君じゃ無理だって言ってるんだよ、確かに君は僕より強いけど・・・僕は君より強い奴を知ってるよ」
一切の臆病は許されない。
自分が本当に戦力が無いことを悟られたら自分はあっという間に殺されてしまうだろう。
疑わせておかなくてはいけない。
『戦力を隠してだまし討ちにしようとしているのでは?』と。
そのために言葉の端々に余裕を混ぜる。
なめた口を利く。
『諦めているように見せかけ』て『相手を見下している』と『見せかける』のだ。
鳴海は間髪入れず次のセリフを吐く。
「それに君さ、一回負けてるだろ・・・・・・それもこっぴどく」
「っ!?」
カオスヒーローに動揺が走る。
図星だ。
「態度を見てりゃ解るよ・・・・・・ま、僕を殺してもそいつに殺されるのが関の山だね」
決して姿は見せない。
心を揺さぶる。
思わせるのだ。
自分こそが生存への希望であると。

 

「そうだな、冒険小説風にいうと・・・地獄で待ってるぜ・・・って奴だよ」
「てめぇ!」
「俺は悪魔召喚プログラムというのを持っている」
カオスヒーローの怒声にかぶせるように鳴海はカードを切る。
悪魔召喚プログラム。
鳴海の持つ最大のカード。
自分以外の力を絶対安全が保障された上で手に入れることが出来る。
弱者のための武器だ。
一般人の中ならばカオスヒーローとて強いのだろうが、ここでは弱者だ。
ならばこの支給品は喉から手が出るほど欲しいはず。
問題は、これがどういうものであるか即座に理解できるかどうかなのだが。
「なんだと・・・・・・?」
幸運にもカオスヒーローはそれを良く知っていた。
カオスヒーローの脳裏にはすぐに一人の男の顔が浮かぶ。
そしてその戦いぶりが浮かぶ。
「その様子だと知ってるのか?」
「答える必要はねぇな」
鳴海の質問をあっさりと突っぱねる。
しかし、答えたようなものであるということはカオスヒーロー自身よくわかっていた。
「僕は悪魔の力が欲しい、君に手伝って欲しいんだ、悪魔を手に入れればそれは山分けだ……手に入るぞ?悪魔の力が!」
「っ・・・!!」
鳴海の言葉にカオスヒーローは揺らぐ。
誘惑、謀略、謀り、詐欺、その類であることは良くわかっている。
しかし、そんな猜疑心など跳ね飛ばすほどの魅力がそれにはある。
「どうだ?悪魔の力があれば君を負かした奴にリベンジできるんじゃないか?」
「・・・・・・てめぇを殺して奪えばすむことだぜ」
カオスヒーローは選択肢の中から一つを選び取る。
そうだ、殺して奪えばいい。
祖すれば悩む必要など無い。
カオスヒーローは再び腕を構える。
この選択肢ならば、魅力も猜疑心もどちらも補える。
「因みにその道具は・・・こいつなんだが・・・ふふ、こうして上に掲げようか」
そんなことは既に読めている・・・。
今にもそう言い出しそうな余裕を見せつつ鳴海はゆっくりとパソコンを持った腕を上に上げた。
「君が僕を殺してこいつを奪おうとさっきの火の玉を打ち込むようならこいつを叩きつけて壊すだけさ、言っておくけど僕の持ち物にこいつ以外はろくなものが無いぜ?」
「・・・・・・」
カオスヒーローの選択はあっという間に却下された。
───詰んだ。
鳴海はそう確信し心の中だけでほくそ笑む。
あとは押すだけでいい。

 

カオスヒーローは既に思考の渦に飲まれている。
「こんな支給品そうそう配るとは思えないね、3つか4つあればいいほうだろう」
そう、思い当たるわずかな選択肢を。
「いいかい?これは忠告だ」
鳴海に利用される以外の選択肢をこうして。
「これが君が悪魔の力を手に入れる最後のチャンスだ」
潰していけばいい・・・・・・。

カオスヒーローにささやかれた声は力。
彼が狂うほど求めた力。

───あいつが操っていた…悪魔の力を…俺が?

カオスヒーローは思い起こす。
かつての仲間が操っていた物たちを。
魔力を持ち、知能は人間以上、その動きは獣を凌駕する。
その力が今、目の前にある。

───信用はできねぇ……だが……奴がこういうことを言い出すって事は・・。

カオスヒーローは思考する。

───奴がこれを言い出したのは俺のアギラオを見てからだ・・・つまり奴ひとりじゃ悪魔
と交渉する自信が無いから魔法の使える俺を利用しようということ・・・・・・奴が最終的に俺を殺すつもりである可能性を考慮しても・・・俺に襲い掛かるのは最低でも悪魔を一体捕まえ後・・・そして奴自身の戦闘力はそれほどでもない・・・か。

もとより抗えるはずも無かった。

───あいつを倒せる力が手にはいる・・・。

自分にささやかれた声は自分の渇望する力からの誘惑なのだ。

───だったら、俺は・・・。

アギラオを撃つために構えた腕はいつの間にか、カオスヒーローも気づかぬうちに降りていた。
その腕は自分で降ろしたのか?そのれとも目の前の男に降ろさせられたのか?
ふとそんな疑問が浮かんだが・・・答えは出さなかった。
「いいだろう、付き合ってやるぜ・・・・だが悪魔を手に入れるのは俺が先だ」

カオスヒーローは精一杯の負け惜しみを吐き、鳴海に利用されることにした。



【時間:午後1時半】
【鳴海昌平(葛葉ライドウ対超力兵団)】
状態 打撲、擦り傷はあるが身体的には問題無し。精神的にはぶっ壊れてる。
武器 クロスボウ トンカチ マハジオストーン(残り2個)、カッターナイフ
    その他病院での拾い物多数
道具 ノートPC(何か細工がされているらしい)、メモ帳、ボールペン、食料少し(菓子パン数個と板チョコ約10枚)
    チャクラチップ他拾い物多数
現在地 平坂区
行動方針 カオスヒーローを利用し悪魔を手に入れる
最終的には悪いな殺戮だ、ワハハハハハ!!

【カオス・ヒーロー(真・女神転生)】
状態  :正常
武器  :銃(経緯から狙撃が可能?):斧に似た鈍器入手(刃は無い模様)
道具  :カーボライナー(弾丸:追加効果STONE):学園内にて三発消費
      高尾祐子のザック所持の中身(詳細不明、尚高尾裕子が所持していたザックその物は破棄)
      応急処置用の薬箱
      蝋燭&縄
      十得ナイフ
現在地 :平坂区
行動方針:弱者から支給品を奪い強者を殺す。
       鳴海を利用し悪魔の力を手に入れる。
       鳴海を一切信用していない。
       藤堂尚也との再戦。

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